29話 土国の悲劇
土国での悲劇は、光国の次に魔物の被害を大きく受けたものとして有名であった。
ゼント「能力を発現させたといえども慣れない力では、やはり対抗など出来ず、非番だった兵たちが私達を庇い逃がされました」
ゼントは次の言葉を口に出しづらくしている。リリスの顔を見るが、リリスはその細く白い腕を組んだまま目を瞑っていた。
ドーア「き、聞かせてください」
ゼント「私達は、いや俺たちは恨むべき相手が大長4と理解していながらマスターを恨みました。半壊半焼の城に戻った俺たちの元にマスターが来たのは全て終わってから5日後でした。土国の城です。一番に守ってもらえる場所じゃないか、もっと早く来てくれれば多くの命が救われたのではないか、と」
ドーア「………」
ゼント「一年前の大地震の時も、お何をしていたのですか、貴方達はいつも遅れてやってくる…地震の原因が判明したのだったつい最近です。どうせ助けてくれないならマスターを自分たちの思い通りにしようと服従の能力におかけました」
ガイラ「僕らだって…」
ドーア「まずは、聞きましょう」
リリス「それは国民を守るために行なった。妾の指示じゃ、しかしその先のゼントがドーアに下した命令は聞いておらぬ」
リリスは静かに怒っている。国民を優先的に守らせる為に行なっていた筈が、いつの間にか国民にとって金を受け取るまで動かず問題を放置しつづけている悪になっていたのだ。
ゼント「金が集まれば、オミクロン中から戦士を雇えると思いました。国宝を餌に大会を開いたのもそれが目的です」
リリス「国民を守る為にしている事が逆に苦しめてどうするのじゃ!妾が子供だから勝手にやったのか!」
ゼント「違います…」
リリス「その取り繕った話し方をもう止めてよい。素で声を聞かせよ」
ゼント「……」
ゼント「俺は何も出来なかった。リリス様を頼まれていたのに守りきれず、怪我も負わせた。忠誠を誓った王も失った。俺だって何かしたかったんだ!!」
大の大人が苦手な丁寧語を外し話す様は新鮮で少し心に響くものがあった。
リリス「お前の中で妾は心の内も共有できない程幼稚か」
ゼント「いいえ…若いながらに本当に立派だと思います」
リリス「では、なぜ妾を信じてくれぬのじゃ。お主に負い目など感じる必要などない」
体を少し起こして話すゼントの肩にリリスは手を置く。
リリス「未熟ではあるが、妾だって色々考えておる。一年間能力も紋章での戦闘もより一層の鍛錬を積んだ。他国の戦士など集まらなくても妾が柱を落とす。妾を信じろゼントよ」
「ゼント、お前に我が娘を頼みたい」
「そんなお⋯私なんかに」
「大事な愛娘を信頼していない男に頼む訳なかろう、恐らくマスター達は間に合わないだろう。リリスを連れて逃げるのじゃ」
「ゼント!リリス様を頼んだぞ」
「デルお前は残るのか」
「俺は王の親衛隊だからな!お前もしっかりやれよ」
「王、デルどうかご無事で」
「我を信じよ、己を信じよゼントよ」
5年前の王の最期の言葉と目の前のリリスの言葉が重なり涙が浮かぶ。
ゼント「本当に立派になりました…」
静かにしかし深々くリリスはドーアに頭を下げる。
リリス「この度の事は本当にすまなかった。お主にも国民達にも詫びても詫びきれぬ」
ドーア「い、いえ、僕らが大事な時にいなかったのは事実ですのでむしろこちらからも謝罪させていただきたい」
お互い深く頭を下げたのち、ドーアとリリスは固く握手する。
ドーア「ふ、服従は勘弁ですが、リリス王女の指示を全うします。この度のマスター会議にはこっちのガイラを送ります」
サナス「たしかに…大長3とメインで戦っていたのでそれが良いと思います」
リリス「わかった。土国の現状の報告頼むぞ」
ガイラ「おまかせくださいっす。ゼントさん安静にして下さいっす、失礼します」
ガイラは、一礼しながら部屋を出ていく。
リリス「あの者はドーアを慕っておる。何か思う所があった筈だが何も言われなかったな」
ドーア「か、彼はああ見えても、若いので緊張で何も話せなかっただけですよ。きっと」
リリス「?そうであったか、いつか本心を聞きたいものじゃな」
ゼント「私に何か罰はないのですか?」
リリス「必要か?」
ドーア「いえ、国の事を一番に考え、より一層励むようにお願いします」
ゼント「本当にすみませんでした。ありがとうございます」
土国を代表する者たちの話し合いが終わる。
ハル「(そういう背景で能力にかけていたのか…。国の問題だから静かに聞いていたけど、リリス姫と共に柱討伐行った方がいいのかな。土マスターも来てくれるなら柱の岩の装甲も突破できるだろうし…)」
先程ドーアと共に行動をしていたハルは、目の前で巨大なゴーレムが砂に変えられる光景を目の当たりにしていた。「砂に変化」を人間相手にも使えるのか尋ねた所、土マスターである自分が出来ないのだから並大抵の魔法使いには出来ないが可能ではある、との回答だった。
妹のユナが炎柱に砂に変えられた件は能力でなく、卓越した土魔法だと判明したのだった。
ドーア「で、では次に大長3グーについての話題にしましょうか」
サナス「はい。私と岩マスターで何度か致命傷を負わせましたが結局いくら倒しても立ち上がり、トドメを刺すことは叶いませんでした。彼の能力は『自動』と言ったところで間違いないと思います」
リリス「それは、ゴーレムに限らず自身にも使えていたか?」
サナス「おっしゃる通りです。我々がダメージを与え動けない状態にしても人形の様に自身の体をオートで動かし戦っていました。また、異常な回復力を見せていました」
ドーア「ぼ、僕が触れれば謎は解明出来たのですが、自己治癒能力については魔物の特性か能力の応用かはわかりませんね」
ハル「自己治癒も自動化させたのでは無いでしょうか」
リリス「うむ、その可能性は高いと思うぞ。妾も自身の能力で試したい事があってのぅ。ドーアよ能力をかけれるか試して貰えるか」
ドーアは、リリスの肩に軽く手を触れる。
ドーア「あれ?視えないですね」
リリス「これが能力の応用じゃ、妾の情報を妾に固定させていた」
リク「え、すげぇ!あ、すみません」
リリス「いや、ずっと黙っていて退屈していただろう。リクなら妾の話を遮ってでも話してよいぞ」
相変わらずリク贔屓なリリスの言動に少し場の空気が緩む。
リク「自分の話したい事は、サナスさんの後にします」
サナス「リク君ありがとう。他に伝える事といえば、紫の扉についてですかね、あれはなんでしょうワープ系の能力だとは思うのですが」
ナギ「それは、魔物軍にいるドクターと呼ばれる者の能力です。私達の旅だけでも2、3回は体験しています」
ナギは、目の前で女忍長が攫われた事を思い返す。
サナス「詳しく聞いても?というか、この情報もマスター会議に持ち込んだ方が良いのでは?」
ナギ「おそらく風か雷マスターが伝えてくれる筈です。1度目の遭遇は仲間のルカが見ました」
ルカ「水国王ガートの娘 ルカです。よろしくお願いします」
土マスターとサナスが目を見開いてリリスの方を確認すると、静かに頷く。
ドーア「ひ、姫でおられましたか。先程はえらい口を叩いてしまいすみません」
ルカ「気にしないでください。今の肩書きは魔法使いですから」
ルカ「水城が水柱によって攻められた際に初めて目撃しました。また、その魔物は人間を魔物化させる注射器を柱に頼まれて作っていました」
ハル「その次に見たのは、我々が柱に捕まったルカ姫を救い出すため占領された城に攻め入る際に使用され、分断されると共に城内の中長の元に転送されました」
サナス「今ルカ様が無事と言うことはあなた方が倒したのは水柱と風柱ということですね。なるほど…結構現れるんですね」
その後ナギの口からも3度目の遭遇について語られる。
リク「ふと、思ったんだけど。柱戦の時、水城の王の間を水で埋める制御装置の操作室にいるドクターとそれを止めてくれた水国王は出会ってるはずだよな?」
ルカ「あれ?たしかに大丈夫だったとは聞いたけど倒したとは言ってなかったし、戦ったかも聞いてない」
ハル「柱をドクターが裏切ったんじゃ」
マナ「でも、私達が王の間に入ったら勝手にドア閉じてロックかかったからその瞬間は操作室にいた筈だよね」
ナギ「(なんだろう…嫌な予感が…)」




