第12話「初めての社会人との試合」
あれから8日が立ち試合の当日となった。
それまでは集団での戦闘を実践を行うこととアバターの操作に慣れるための特訓を繰り返し行った。
1対1のタイマンの勝負は個人的に行ってもらう。集団戦闘は人数がある程度いなければ出来なくそれを指導してくれる教師がいなければ何の意味をなさない。そのために授業内には必ずいる教師に指導をしてもらうが、放任主義なのか本当に良くないことぐらいしか指摘しない。
俺自身も集団戦闘に参加をし、置野さんや今田さん、若松との模擬戦を行いつつ自身の能力をより理解をしていくが時間が足りなかった。
朝は学校からバスを提供されそれに乗って会場に向かった。
会場はこの学校のある街の中心にある。
フィールドは学校の会場寄りも広くあり、観客の収容人数も多くレンタル費用も安い。
だが、今回は練習試合であるので観客はいない予定とのこと。
「私立中央高等学校のEクラスのみなさんですね。お待ちしておりました。」
バスを降りるとスーツを着用した男の人がお出迎えをしてきた。
Eクラスのメンツが全員がバスから降りるとスーツの男は少しおかしな顔をした。
「あの、メンバーが少し少ないと思うのですが見た感じ25人しかいないようですが。残り5人はどうしたのですか。」
クラス中がガヤガヤと騒ぎ出す。
「すまない。今日の試合は25人ではなかったか。」
「え、今日の試合は30人ですよ。事前に通達がいっているはずですが。」
俺は英二と顔を見合わせてため息をつく。
「今度の嫌がらせは試合人数を変えてきたってことか。」
「理事長の言うとおりにしておいてよかったな。」
数日前に理事長が今回の試合の人数についておかしく思っていた。
普通の練習試合なら30人以上で行うのが普通だと言うこと。ならということで追加人数を用意しておいた。
「やっぱり、今日の試合は助けてもらわないといけないな。出てこい。」
バスから数人が降りてくる。
「Eクラスに助っ人で参加しにきたDクラスリーダーの樋田とその他だ。」
先日、試合相手だったDクラスのリーダーである樋田と置野さんと戦ったであろうロボ子と見知った顔と全く知らない顔ぶれが3人だ。
「これで30人となるわけだな。問題はないな。」
「そうですね。問題はありません。それでは控室にご案内します。ついてきてください。」
そう言われて控室へと向かっていく。
学校の施設よりも少し古さを感じるような少し年季が入ったベンチにロッカーなどがある。
掃除で綺麗にしているからだろうか使うことには抵抗がない。
みんなが荷物を下ろして各々ベンチに座ると英二が少し広めのところに立つ。
「さて、これから作戦を伝えるが今回もステージの情報は一切ない。なので、簡単に舞台分けをする。」
そう言って英二は部隊を攻撃・調査、防衛・派遣、独立と3部隊に分けた。
振り分けは前回の試合と同じである。置野さんは攻撃に英二の防衛隊、そして俺が部隊長の独立となった。
基本的な行動は攻撃・調査は敵を見つけると攻撃をし可能であるならば倒す。そして、調査は敵が構えている陣地を探すこと。
前回はビルとビルが対照的にあったので探す必要はなかったのだが本来のロードでは陣地を探すことも必要となる。
次に防衛・派遣は自分たちの陣地を敵から守ること。派遣は叩くべき相手の陣地や敵部隊がいるのならば戦力を交戦しているところへと派遣させる。
後衛と中間を合わせたような部隊だ。
そして、独立はその名前の通りである。他の部隊のように決まった役割ではない。部隊長の命令によって行動を行う。
今回も簡単に部隊を作ることで様々な環境に対応することが出来るようにしている。
「さて、振り分けも終わった。あとは自分たちのモチベーションを上げておいてくれ。」
そうしてしばらくは談笑をしたりする人、寝ている人など各々好きなことをしている。
だけど、誰もの顔は少し沈んでいる。
それもそのはず、ロードの試合の2回目であり突如として社会人との試合を行うことになり緊張をしているようだ。
そういう俺も緊張をしている。この試合の対戦相手にではなくもっと別のことに対してな気がする。
そうこうしているとアナウンスが聞こえてくる。
そして、控室の扉を開けてスーツ姿の男、案内をしてくれた人がやってきた。
「それではみなさん、私についてきてください。試合場まで案内します。」
そうして控室を出て案内についていくとフィールドにたどり着いた。
今回のフィールドは、
「今回は住宅街となります。私立中央高等学校のみなさまはあそこからのスタートとなります。試合開始のアナウンスがあるまではあそこでお待ちください。」
案内の人がいうあそことは小さな公園であった。
小さな滑り台とブランコと砂場、そしてベンチがあるだけの寂しい公園だ。
「小さい頃はこんな公園広く見えたな。」
若松は公園に入ると寂しげにそう言うが公園を利用したことがないのでその気持ちはよくわからなかった。
「ここ、公園でしたの。小さいところですわね。」
と高笑いをしている美野はあいかわらずなので見ていると少し落ち着く。
「お前ら気を引き締めろ。今回は相手は社会人だ。一人一人が強敵だと思って望め。俺たちの戦力が落ちれば落ちるほど勝率は低くなっていく。やられそうなら相手を再起不能にさせるぐらいのことをしてみせろよ。それが残ったものを助けることに繋がる。」
「「おうよ。」」
実力差があることは明白なのは誰もが知っているので、戦えば負けるのではと不安であった。
それをただ負けるのではなく何かして負けることが何かに繋がる。何も出来ないということはないことを理解した。
その何かをすることによりクラスのエースの勝利する可能性が格段に上がりチームの勝利になると信じて。
そう英二の言葉の裏を考えてステージだけでなく観客席など会場全体を見回して今日の試合はどんなところでするのかを試合開始直前になって気になり始めた。
ステージの相手がいるであろう先は建物で全く見えない状態である。
視界から外れている観客席を見ると朝の光を反射させた椅子が多くあり話に聞いた通りの大人数を収容できて大会の会場になることがここに立つことで実感できる。
観客席を見ている途中で一部だけ突出したガラス張りの部屋があることに今になって気がついた。
ガラス張りのところは朝日によって半分が見えなくもう半分はくっきりと見えていた。そこにいたのは金髪をオールバックにして年相応のシワが彼の性格を表現しているかのようにくっきりと無表情でもついている。視線の先は相手チームがいるであろう先で目はまるで商品を見ているかのようで人間味が一切ない。
姿勢、視線、表情など外から見るだけ彼という人物が全てわかってしまう。
「光石弘。あいつこんな練習試合に何しにきやがったんだ。」
「藍田、どうした何か目新しいものでもあったのか。」
若松が肩に手を置いて聞いてきたところで意識が自分に戻ってきた。
「いや、広い会場だから見惚れてただけだ。若松、今日は頼むぞ。」
「それはこっちのセリフだ。お前が一番動けるように上手く使ってくれ。捨て駒にしても構わないからな。」
若松らしからぬ拳を突き出してくるのでこちらも拳を突き出して合わせていく。
気合いと集中力はこれで最大限に高まってきていく。
誰もが気合いを高めていき話し声は次第になくなっていた。
『それでは試合を開始します。システム起動。』
試合開始直前のアナウンスが耳に響き渡る。
すると、学校ではフィールドに入るだけでアバターとなっていたのだがシステム起動と発言と同時にアバターへと切り替わる。
俺の手には大きな盾が、腰には短刀が装着され服装も軍服のような姿へと変わる。
『バトルスタート‼︎』
開始の宣言がされる。
「よし、まずは左手にある少し大きめの建物に入る。攻撃・調査部隊を先頭に独立を後ろにして移動だ。」
英二が早速指示を飛ばす。独立であろうと最初の拠点へと移動にはついていくことは必須となる。
最初の移動であるので敵とは遭遇することなくたどり着いた。
シンプルな構造であり周りには芝生がある建物であった。
ガラス扉を開けて入ると視界いっぱいに本棚が立ち尽くしている。
「ここは図書館なのか。これなら敵が中に侵入してきてもどうにか対応はできそうだね。」
加藤さんはこの図書館に攻められたときに対応できると言う。
俺としてはそうは考えにくい。身を隠すには外からは窓越しからは本棚しか見えずに発見しずらいことと中に入られてもそれで身を隠すことができるが、敵がいると相手に伝われば逆にそれを利用されてしまうことがあり英二が暗殺されてしまい試合に負けてしまう。
「いや、ここにはずっとはいられない。攻撃・調査隊、調査する際に他にも利用出来そうな拠点を探してきてもらう。ここは最初の拠点のみに使う。」
「「了解」」
「それじゃあ、お前たちは部隊を2部隊にわけて周辺を探っていけ。防衛はこのあたりで敵の襲撃に備えておけ。」
英二の指示によってみんなが動き始める。
俺たちの部隊も動かなければいけない。
「俺たちも今回は最初から動くぞ。この試合は守っていては戦力差で必ず負ける。なら、隙があれば攻撃を仕掛けて、ある程度したら引く。ヒットアンドアウェーでいく。」
若松、横山、今回この舞台初参加の美野は首を縦に振るが小嵐はそっぽを向いた。
はやり小嵐は今回もこちらとは会話すらしないとのことらしい。これからもその調子では困るので以前から声はかけているものの無視されてしまっている。
「さっきの公園の反対側に向かっていくぞ。そこなら敵の主力陣がいてもいなくてもこちらの行動が取りやすい。いくぞ。」
図書館の裏口から出て行き道に沿って走っていく。
ここは住宅街なので家の屋根を飛び乗っていくのはかっこいいことなのだがそんな器用なことは出来ないので、建物を身を隠すために使うことにする。
「やっぱり小嵐はついてきてないな。」
若松が十字路で敵がいるかを確認するために止まったときそう言った。
想定内のことであっても少し悲しい。彼女は自分がリーダーになりたいと言っていたのだが本当は頼られることを望んでいたのではないのかと思っていた。
今回の試合は頼るところは必ず出てくるのだが、その場にいないのであればどうしようもない。
「仕方ないさ。彼女も積極的にクラスの連中と馴染めるようになるために俺たちでゆっくり時間をかけてそうしていけばいいさ。」
少し残念そうに美野以外は顔に出す。
「あれは敵ではありませんの。ほら、あそこ。」
悲しい顔をしている暇は今はないのは当然であり、美野が十字路を顔だけ乗り出して指を指している。
確認してみると走って移動をしている敵がいるが、何か違和感を感じる。
「あの人たちが走っている先って、ぼ、僕たちの拠点なのでは。」
横山がそういうので方向を考えてみると確かに俺たちが拠点としている図書館がある方角であった。だけど、
「方向は確かにそうだけど、始まってすぐに敵の拠点がわかるってことはないんじゃないか。」
「け、けど。あの人たち敵を警戒はしているけど、走って行く方向には、ま、迷いがないよ。」
指摘通り、敵は目的地を知っているかのように迷いなく走っていく。
「相手が俺たちの拠点を知っているのかはともかく、早速敵を倒すチャンスだ。背後から奇襲をして戦力を削減できる。」
美野の合図で敵が見えなくなったタイミングで十字路を飛び出して先を進んでいくと、
「な、敵がいるだと。」
先程見かけた敵から遅れてやってきたロングソード使いの男1人とかち合ってしまった。
すかさず、装備の盾を構えて目の前の敵へと突進をして先へと進ませないようにする。
「おいお前ら、こいつは要注意人物だ。佐々木、一旦距離を空けろ。」
すると、彼が出てきた道の奥から更に増援がやってくる。今度は弓を持った男と槍を持った女がいた。
「若松と美野で奥の2人を頼む。横山は俺たちの援護を頼む。」
ロングソードの男の振り下ろし攻撃をしっかりと防いだら盾で横から殴りこみ密着をして若松達の敵への進路を作る。
Dクラスの人ならこの攻撃で体勢を崩していたのだが、彼は踏ん張って体勢を崩さずに追撃に備えている。
だけど、進むだけの道を開けることが出来たので2人は進んでくれる。
「君を足止めすることでこちらは作戦の成功率を上げることができる。藍田くんとやらしばらくここにいてもらうか倒させてもらう。」
盾を蹴って強引に距離を空けてきた。
すぐさま男はロングソードを高くかざす。すると刀身が赤色に薄く光を放つ。
『ダブルスラッシュ』
少しだけ跳躍をして距離を詰めてきた。その時、跳躍中の加速が異常に早く空中という身動きの出来ない絶好のタイミングを攻撃することが出来なく攻撃を受けるしかない。
ただ攻撃を受けてしまうと強力な攻撃に耐えることが出来ないかもしれないので能力で盾を持っている手を鳥足に変化させ離さないようにガッチリと固定する。
彼のロングソードの振り下ろしをしっかりと防ぐが威力が今まで何度も受けたものとは段違いであり下手をすると斬りつける攻撃が敵のガードに使用したものを弾き飛ばすものなのではないのかと思ってしまう。
まだ、剣身は輝き続けている。振り下ろした剣が相手の踏み込みと同時に昇ってきている。
それも盾のないガラ空きのところを狙ってきている。
「精度が良すぎるでしょ。」
思わず口元が綻びそうになるのを耐えて、すかさず盾をガラ空きのところへと移動をさせたと同時に金属音が響き強烈な衝撃を受けてなんとか耐えることが出来た。
「俺の戦技を耐え切るとは学生にしてはすごいな。だが、次はそんなようにはいかないぞ。」
ロングソードの刀身を再び赤く光らせながら大きく構える。だが、
『ダブルスラッシュ』
戦技を繰り出すために飛び出したタイミングを見計らって能力『火蜥蜴の肺』のブレスで男を空中で焼く。
1度目の行動がブラフではなくしっかりとこちらを仕留めようとしていて、彼の戦技が跳躍・着地・防御を崩す攻撃・ガラ空きを攻撃という段階を踏んでいることがわかる。
そこで跳躍のタイミングさえ狙えば範囲の広いブレスは必ず当たる。
「あ、ああ、あちち。口から火が出てくるのは予想外すぎる。」
男は戦技を中断させられ体が燃えているのを消すために地面を転がっている。
隙だらけなので盾で思いっきり転がっている男の頭を潰して退場させる。
「あとは2人だけなんだけど、弓使いは美野に防戦一方になっているな。槍使いは若松が若干押されているが俺が終わったからどうにか出来そうだけど、1人は情報を吐かせるために残しておきたいな。」
そう思い、能力を解除して槍使いを仕留めに向かう。
ロングソードの男とは違いこちらは複数の人を相手にしているためかあっさりと倒すことが出来た。
そして、弓使いは一人となりさらに、倒されるわけでもなく捕獲されるとわかり涙目になっていた。
彼は小柄で本当に社会人なのかがよくわからないぐらい子供の見た目をしている。仕草も小学生のようでかわいい。
「さてと、捕まえたから今すぐ欲しい情報を吐いてくれたら嫌な思いをさせずに脱落させて解放してやろう。」
と悪者になったつもりでそう聞くと男はそっぽを向いて無視する。
俺では役者不足であることがわかる反応だった。しかたがない
「美野、頼む。お前の魅力なら情報を引き出すことが出来るさ。」
「了解しましたわ。少しこちらにどうぞ。」
美野は男を連れてすぐそこにあった路地へとルンルンで入っていく。
10秒ほどすると美野は少し不機嫌になりながら男の首根っこをひこずりながら出てきた。
「不服ですわ。私の魅力を1%も出してもいないのに情報を話すというのですもの。」
美野の不服そうな顔は見なくてもオーラで感じられるし、男は少し怯えているような気がするが何故かと聞くことは俺の身も危ない気がするので黙っておく。
「ぼ、ぼくが言えるのは君たちの拠点はすでに判明していて半数以上が殲滅で攻撃を仕掛けに行っている。もうすでに攻撃は開始されてかなり被害が及んでいるはずだよ。これでいい。ここから早く出してくれ。」
男は煮るなり焼くなり好きにしてと両手を上げて訴えている。
「こいつの話が本当なら今英二達はかなりのピンチだ。」
「でも、あの迷いのない走りっぷりなら本当だと思うな。こいつはもう勝ちを確信しているから本当のことを言っているんだ。確信がないなら自決でもすればいいからな。」
若松の言う通りだ。
自分が死んでも勝利は確実であるならば喋ったところで変わりはしない。
「よし、救出にいくぞ。今からでも間に合うかもしれない。」
腰の短刀を抜いて男の首をスパッと斬りつけて脱落させてからそう宣言する。
「みんな英二と合流するまではやられるな。その後、脱出させるために英二の盾となること以外はやられるな。一人でも失えば救出率は0に極端に近くなる。」
「「はい(おう)」」
3人の返事を聞いて砂漠の中で1本の針を探すようなものにも希望が芽生えそうである。
短刀を腰の鞘に戻して真っ先に走り出す。
来た道をそのまま最短で今出せるみんなと走れる速度で向かう。
後ろがついてきているかを確かめる暇はないが、日頃の特訓でアバターの操作にも慣れているはずなので運動が得意ではない横山でもついてきているだろう。
今は英二を救出することに集中しなければ負けてしまう。
すぐに辿り着いたが図書館のすぐそばの影に身を隠して様子を伺う。
敵は正面に大勢で待ち構えていて遠距離の能力持ちが入り口や窓に向かって攻撃を仕掛けて中の英二達を炙り出そうとしているようだ。
「裏の方にも敵は待ち構えているだろうな。」
そう思いみんなを連れて敵に鉢合わせないように姿勢を低く保ちながら裏手へと急いで回っていくと表とは段違いに敵は少ないながらも待ち構えていた。
ただし、姿は見えないようにしていて、逃げるものがいればそこで足止めをして表の人が中に残っているものへと攻撃を仕掛けに入るのだろう。
「やっぱりこれは裏から助けに向かうべきだけど、敵を無視することは出来そうにないな。」
「ぼ、ぼくはあの人たちが強そうにしか見えないです。僕程度では時間稼ぎで倒すことが出来そうにないですよ。」
「なら、俺らがあいつらを引きつけている間に横山が中の人を引き連れて脱出したほうがいいと思うが、美野は俺と藍田と一緒に敵と戦ってもらうがいいか。」
「私ほど人を惹きつけるのに長けた人間はいませんわ。今みたいに隠れているのもそろそろ我慢の限界でしてよ。オホホホ。」
美野は小さい声で強敵との戦いをすると言ってくれた。
お嬢様の口調と大きな態度で人からは接しにくいと思われているようだが俺たちの部隊の一人を除いては頼もしいやつだと思っている。
「よし、若松の案で横山が俺たちが敵を引きつけている間にみんなを連れてくる。そして、こちらがある程度削られても敵も削って撤退を続けよう。残っている人たちの中から敵を足止めするために頼むことが必要になる。英二さえ守ることが出来れば勝機があることを忘れるな。俺の後には美野から頼むお前の力が最初の突破口だ。横山はタイミングを見てすかさず図書館に突入してくれ。」
「任されましたわ。」
「が、頑張ります。」
盾を再び構えて今隠れている敵がどれだけいるのかを把握してから飛び出す。
「おい、だれだあいつは。」
「あれは藍田だ。要注意人物で間違いない。合流しようとしているな。みんな止めろ。」
すると確認できた範囲の半分ぐらいの人数が出てきたが俺一人ではまだ役不足であることがわかった。
「まだいるぞ。2人も出てきた。みんなで止めておけ。俺は正面の部隊に応援をよこしてもらいにいく。」
「「了解」」
こちらとしてはその1人も行かすわけにはいかないがその余裕は一切ないので横山が英二をいかに素早くここまで連れてこられるかに関わっている。
ナイフを持った女性がアクロバティックな動きでこちらに迫ってきた。
本当に人間に出来る動きなのかはわからないが左右に高速に移動をしてきていて、ナイフでの攻撃なのかもしくは他の攻撃なのかがわからない。
そして、数メートルまで接近をしてきたと同時に足と地面の接点から大きな土煙を上げ高速に急接近、視界の端で何かが迫ってきているのを捉えてすかさずその位置に盾を構えると強い衝撃が伝わってくる。
盾に鋼鉄製らしきブーツを履いた足で蹴りをもらったことで彼女の装備がナイフだけではないことがようやくわかった。
「お前を倒せば報酬も出るから全力で相手してやる。」
と俺は敵に最初からマークをされていたらしい。
「クソインテリメガネが俺の情報を流したのか。当然だけどやりづらいな。あと、報酬だといいなぁ。」
今後、ロードを続けていくのなら敵に自分の情報を知られているのは当然のこととなるが初めてその状況に置かれた状況なのはかなり精神的につらいところがある。
(能力を知られてもどこまでの範囲があるのか、いつ能力を出すのかまでは予測出来はしないだろう。)
女は先ほどと同じようにアクロバティックな動きでこちらを翻弄しながらこちらに迫ってくるが最初とは違うまっすぐにこちらへと迫ってきている。その分だけ迫ってくるほど速度が段々と上がってきている。
『戦技:スプランディッドミキサー』
こちらに近づいてくるほど足につけている鋼鉄のブーツが真っ赤な色へと変化していく。
一定の距離までに来ると素早く目で捉えれそうにないギリギリの速度から普通に目で捉えることが出来る速度へ落ちているのだが速いのには変わりがない。
その鋼鉄の足を上からの蹴り下ろしを放ってくるのが角度的にわかったので念のために手と足を能力の『グリフォンの手足』へと変化させてしっかりと固定をしておく。
迫ってくる鋼鉄の足は赤色をゆっくりと回転をさせているのがわかる。
そして、盾とぶつかると破壊するかのように爆発のような衝撃を受けた。
盾を固定していなければ蹴りの勢いに負けた盾に体を潰されてしまっていたのかしれない。
今度は着地をした時に蹴り上げをしてくるのに咄嗟に盾を向かわせると逆に押し返されてしまった。
相手は普段から蹴り技をしているのだろう、技の練度と速度は変化せずかなり手強いのに威力が今までの敵と比べて一番の強敵である。
こちらは攻撃を受けるたびに反撃をすることや逃げる余裕はなくただ防御をすることに必死ならなければいけない。それ以外に出来ることは相手を観察することだけ。
(あの体勢ならこっち側からの攻撃で正解、今度はこっちからの攻撃でちょっと違う。あれ。)
攻撃を仕掛けてくる場所は予想がつきやすく迷わず防御が出来るので観察をするだけの頭のリソースを割くことが出来て気が付く。
(攻撃の度にブーツの赤色が薄くなってきていないか。威力は落ちてないが。)
何度か攻撃を受けてから気がついたのが色が段々と薄くなってきている。
そして、回し蹴りを受けると色が点滅を始めた。
(もしかして次の攻撃でこの馬鹿みたいな威力の蹴りは終わりなのか。ならタイミングを合わせて)
最後らしき蹴りは腹あたりを狙ったミドルキックだが練度が高く威力と速度は申し分ない。
(ここで足の能力を解除!)
グリフォンの足を解除して片足だけ力をいれて、もう片方は少し浮かせるようにしておく。
盾と鋼鉄のブーツがぶつかった音が聞こえる直前に胴体を捻って蹴りの威力を使って盾と一緒に回転をする。
顔だけは先に正面を向いて見ると案の定彼女のブーツからは赤色は消えていたが彼女自身はこちらがカウンターを狙っていることを察して距離を取るため後ろに飛んでいた。
「飛んでいけや!」
手の能力を解除して盾を彼女に向けて手放して飛ばす。
回転をしながら高速で盾は飛んでいき、おでこに鈍い音を鳴らしながら激突して彼女はそのままばったりと倒れて動かなくなった。
「投擲で当てることが出来るとは思わなかった。昔、投擲練習で才能ないって怒られたのに。」
動かない彼女に近づいて腰の短刀で止めを刺す。
「おい、俺たちの最高戦力の一人がやられたぞ。」
「まだ、来ないのか増援は。」
若松と美野を相手にしていた敵達が驚きの声を上げている。
「あの人、最高戦力だったのか。どおりで強すぎじゃないのかと思ったけど。結果よし。」
強そうな敵を倒すことが出来たのならこの後の負担が軽減されてかなり楽になるということだ。
敵の増援が来ていない今が英二を連れ出すチャンスだが横山はこっちに誘導できたのだろうか。
「あ、あっちです。みなさん急いでくください。」
横山の声が図書館の裏口から聞こえてきた。そして、何人かの足音も聞こえてくる。
「お、藍田がいるぞ。樋田達が先頭を走ってリーダーの進路の安全を確保してくれ。」
誰かがそう指示すると樋田とロボ子が前に出ると俺がいる方の向こう側から3人が飛び出てくる。そこは全く気にしていなかったところであり敵が隠れているとは思っていなかった。
「リカ、そこ邪魔だ。頭下げとけ。」
樋田は鞭を光速で振るって3人に攻撃をする。ダメージとしてはあまりなさそうだが向かってくる足を止めることには成功している。
「おう、裏手は案外敵が少なかったとはな。」
「英二、ちゃんと頭働かせているのか。表にあんだけいたら裏はそこまで多くはないだろ。」
「そうだな。悪いな。」
英二と無事合流できたのだが他の人との合流が思ったより出来てはいない。
「Dクラスの応援はみんないるけど、英二と置野さんと数人だけって他はまだ中にいるのか。」
「もういません。中に入ってきた人を撃退時に脱落、みちずれとなり脱落でここまで数が減ったのです。」
置野さんが寂しげにそう教えてくれる。
「わかった、英二。早くここから立ち去ろう。」
「ああ。適当な位置まで引くか。」
英二は開始前とは違いやる気というものが一切感じ取ることが出来ずにいる。この調子では指示すら出すこともしないのではと思った。
「樋田達はしんがりを頼む。俺と置野さんで先頭を進んでいく。お前達は英二を遠距離攻撃から守ってくれ。置野さんはまだいける。」
「はい、まだまだ動けますよ。」
少しだけ細い剣を体の正面に持ってきて笑顔で答える。
「よし、大通りは避けてなるべく狭い道を進んでいく。いくぞ。」
図書館のすぐ近くにあった車が一台通れるか通れないかのギリギリの道を選んで進んでいく。相手が道を塞いできたとしても大した壁にはならないからだ。あと見つかりづらく走りやすい。
市街地でありかなり建物が密集しているステージとなっていて逃走・隠密行動がしやすいのが走っていてわかってきた。
「遠距離攻撃が使えるのはどれだけいる?」
「俺を含めて3人だけだ。」
「なら、後ろを走ってくるやつらの手前を狙ってガンガン打ってくれ。当たらなくてもいい、数を打てるだけ打って目眩しをしてほしい。」
「「「了解」」」
3人はまずまっすぐ走りながら弾を出現させて顔と手を後ろに向けて弾を放つ。それを繰り返しをしていき徐々に敵の走る勢いをなくしていく。
「よし、速度を上げていこう。遠距離攻撃も敵が複数見えたらでいい。」
速度を上げるためにみんなに声をかけると何かが俺に暗い影を落としてきた。
上を見上げると白銀に輝く鎧を纏った騎士が大きな斧を片手に持って降ってきた。豪快な音と振動をさせながら着地をするとこちらを端から順に見回してくる。
「藍田、佐藤をつれてさっさと行きやがれ。俺達が時間稼ぎぐらいしてやる。」
誰もが一瞬にして足を止め動けなくなっていたところにあの島田がそう言って先頭にいた俺から一歩前に出てそういう。
その勇敢な行動を見て完全停止していた体と思考がもう一度動き出した。
「わかった、島田達。抵抗してあがけよ。」
「、、、ああ。バカでも伝わったよ。」
島田から覚悟の顔で最期だから何かしてみせようと苦笑いをうかべていく。
「さぁいくよ。今は英二を隠す方が最優先なんだよ。」
島田達3人を残して騎士の前にあった脇道に逸れてさらに進んでいく。
あの騎士を確認した時からこの脇道に行けと自分が自分を誘導している気がした。こっちに行け、こっちに逃げろと。
今までのどの相手よりも強いだけでなく自分よりも強いと体が感じ取っていた。
騎士が英二を狙おうとこちらを向いた途端、島田がハンマーを持って立ち塞がる。
「お前の相手はこっちだ。くらえぇ。」
振りかぶったハンマーを思いっきり騎士の鎧に向かって野球のバットでボールを打つかのようなスイングをして叩きつけるが金属音と同時にハンマーは振った方向とは反対方向に弾かれる。
遠くから騎士の鎧には傷がついていたように見えたのだが瞬きをしたときにはもう見えなかったので気のせいのだったのだろう。
島田たちの冥福を祈りながら先を進む。
その後はどんどんと入り組んだ道や少し広めの道を横断していき敵の追跡を振り切っていき程よく狭く、みんなが入れそうなところである路地を探し当てそこに入る。
「はぁはぁ、残ったのは10人だけか。戦力差は3倍近くはあるってことだよな。どうしようか。」
残ったのは俺、英二、置野さん、若松、横山、美野、樋田、ロボ子、Dクラスの人、今田だけであった。
「この試合は敵のリーダーさえ倒しさえすれば勝つんだろ。なら、どうやって倒すかだな。」
若松はこの圧倒的不利な状況になってさえ勝利をもぎ取ろうとしている。それを見て俺は安心した。
「俺は他のクラスだけど、この状況で勝つことが出来たらかっこいいよな。最後まで戦ってやるよ。」
樋田もこの状況でもついてきてくれると言ってくれる。他のDクラスの2人も同時に頷いてくれる。その他の人を見ても目の奥は光を放ってこっちを見ているのが少し期待されていると思い緊張してしまう。
俺だけが負けたくないと思っているわけではない。
だが、1人だけはもう敗北をしてしまっているオーラを醸し出している。
「どうしたんだ、英二。ここから勝利するんだろ。」
そう言って肩を持って揺らしてどこか遠くにいるであろう英二の意識を戻そうとする。
しかし、英二は肩にある俺の手を強く振り解くと不気味な笑みを浮かべる。
「これからどうやって勝つかだって?はは、何を言っているんだ。負けだよ、負け。」
未だに意識がここにはないらしい。
「俺たちには無理だったんだ。社会人なんて学生の頃からロードをやってたんだ。初めて1ヶ月そこらの俺たちには到底勝ち目なんてなかったんだ。社会人に勝つのは次のチャンスを待とうぜ。」
そう言って狭いこの場所に響く空笑いしてこの場で寝ようとしている。俺の心の奥深くイラつかせる。それと同時に英二には同情のような怒りとは違う感情が生まれた。
先程まであった熱い空気は一気に冷め切ってしまった。
そこに俺は無意識でため息をついてしまう。みんなから視線が集まる。
「お前はこの試合をもう負けると考えているから降参するってことだな。」
「ああ、そうだ。どう考えたって負け試合だ。そんなことに時間を使う気はない。さっさと帰って練習に時間を使う方が有意義ってもんだろ。」
英二は本当に諦めているようにしか見えない。
「ほんと、なさけないな。お前は。」
英二は俺の胸ぐらを掴んでくる。
「なにがなさけないだ。この状況で降参することがなさけないなんていうのか。どこかの体育会系みたいに諦めければどうにかなる。なんて根性論でも俺に言う気なのか。」
英二はなぜか俺たちの考えとは違うことを思っているようだ。根性論なんてものは俺も普段の努力によるものだと思っているので信じちゃいない。
「お前は俺が根性論でお前を説得しようとでも思っていたのか。俺は次のチャンスを待つっていう姿勢がなさけないと思っているだ。」
「高校生をしているうちなら次はいくらでもあるだろうが。大人と同じにするなよ。」
すると、横から若松が俺の胸ぐらを掴んでいる英二の手首を掴む。
「佐藤、お前は俺たちが置かれている状況をわかっているのか。」
「は?何を言っているんだ。」
「俺たちは高校の中で最底辺にいるんだ。しかも、他の生徒からもお墨付きの最底辺で今回の相手もそのことを知っているだろう。そんな俺たちがここで降参なんてしたら次に学校からのチャンスなんてものがあると本当に考えているのか。」
若松の隣にいた置野さんは立ち上がって英二の目の前に座ると
「佐藤さん、諦めるのも一つの手だとは私も思います。けど、今はその時ではないと思います。何事も始めた時にはうまくいくことなんてそうそうないと思います。なら今は当たって砕けろという状況だと私は思います。」
英二は顔を上げずに俯いたままだ。
「知るかよ。俺は宗斗がこの試合をしたいっていうから話を受けたんだ。負ける可能性が高いっていうのにやる方がおかしいわ。そもそもチャンスがあるかわからないなんてのは悪魔でそうなるかもってことだろ。これでロードのことも人生のことも終わるわけじゃないだろうが。」
かなり声を大きくして怒り始めた。
ただ、諦めるなってことを言ってもそれを「はい、そうです」って理解できるのは馬鹿なやつかこんな状況でも冷静でいられる場慣れしているようなやつぐらいなもんだろう。
俺も諦めないのがただそういうことをしたくないわけではない。
なら、説得するためには自分のことは少しぐらい話してもいいのではないだろうか。
「なら、ここからは諦めるなとかは言わないよ。ちょっとした会話でもしようか。」
「あん?会話だ。」
英二はあっさりと説得から引いた俺を不思議そうな顔で見てくる。
「光石家って知ってるよな。」
「ああ、現・光の勇者様の家系だからな。昔から金持ちで色々な事業で成功している日本の貴族、大商人だろ。それ、今関係あるのか。」
いきなり試合とは関係ない話をされたと思ったのか怒りが消えている。
「その一家の一番偉い当主が今日来賓で来ているんだよ。その人、俺の父親。」
「は?ロード協会の幹部の人がお前の父親だと。嘘だろ。けど、それがどう関係が。金持ち自慢か?」
流石の英二も驚いているようだが、周りの方がすごく驚いている。なんでだろう。
「まぁ、あの家、光石家は一番優秀な子供だけを望んでいてそれ以外の子供は人間の扱いをされないんだよ。今だったら通報案件なんだけど権力者であって実家の近くには家なんてのがいないし警察も迂闊に絡めないからさ。」
「ごめん、ちょっと横からだけど藍田と光の勇者との関係はどうなんだ。それ聞いている限りだと。」
若松がそう質問してきたので答える。
「うん、光石華蓮と俺は姉弟だよ。それでわかる通り姉が世界最強レベルの子供とわかった時には俺は生まれたばかり。俺は予備として生まれた子供だったから実家では人間として扱われなくなった。そして、名前がすぐに決まった。宗斗、ダストシュートから取られた嫌われるための名前だ。その日から俺は光石家の汚物として扱われることになった。」
誰もが言葉を発さない。
「幼稚園に入る頃には実家から追い出されて祖父母の家で暮らしていたんだ。それから親の顔はテレビ以外では実際に見ることすらなくなったんだ。幸い祖父母は優しかった。けど、本当の親から最初から嫌われていた俺は生きる上のレールもゴミにふさわしいという感じで決められていた。いつも、鋼鉄の鎖で縛られていた感覚に襲われていたよ。」
英二は顔を背けてより一層顔を曇らせる。
「言いたいことはチャンスは何度来ようとも一回一回を投げ捨てることはしてはいけないこと。そのチャンスで得られるものはそのチャンスだけ。ふてるならそのまま見つからないとこにいてくれ。俺たちは進むから。」
すっと立ち上がるとDクラスの連中以外が立ち上がる。
樋田は英二のことを指差してから親指を立てる。ここは任せてくれと伝えてくる。
付き合いが短いのにもかかわら何を伝えようとしているのかがわかる。なんでなのだろう。




