第11話「4月少し過ぎた教室と屋上」
「はー、試合までの1週間と違ってやる気が出てこないな、横山。」
「そ、そうだね。僕も勉強には力が入らないよ。でも藍田くんは集中力を切らさないで授業を聞いていたね。」
「うん?まぁ、授業をちゃんと聞いて理解しておけばテスト勉強の時間がかなり減るからね。そういえば、若松はあまり授業を聞いていないようでこの前のテストかなり良かったじゃん。」
クラス同士の試合から2週間が経った。
他のクラスの勝敗はAクラスに近い方の対戦チームが勝利をした。唯一Eクラスという入学当初の実力最下位のクラスだけが勝利をした。
それからは通常通りの授業を行うだけの2週間だった。
普通の高校生としての授業とロードの授業をこなし寮に帰って寝て起きて学校に行くだけのサイクル。
なんて、つまらないのだろう。
だが、そんな日常にも変化は起きた。
試合で同じ部隊であったアート好きの横山、無愛想だが嫌いにはなれない若松と友人になって日々を一緒に過ごすようになったことだ。
英二も時々一緒にいるのだが頼れる兄貴分としてクラス中から連れ回されている。
最初は今までが陰キャのように人と仲良くするっていうのが少し怖かった。
けど、俺以上に陰キャの横山は人畜無害であるのでとても話がしやすい。
若松は無愛想なのはご愛嬌、話せばわかるやつなので一緒にいると楽しい。
試合を経て仲間になっていくというのはとても嬉しいことだ。RPGの主人公になったような気分になる。
「テストは授業で出たところが出るだけだ。そういえば、藍田は試合でもらったポイントの使い道は決めたのか。俺は新しい服を買うんだ。」
若松はそう尋ねてきた。
「俺は新作のゲームを買うだけだな。あとは貯めておいて長期休みで一気に使う予定だな。横山は何に使うんだ。」
横山は不気味な笑みを浮かべながら答える。
「僕はあの人気イラストレータの天の点さんの画集を買うんです。予約をしていて今日行くんです。」
と鼻息が最後にすごく聞こえてあまり発言をしない横山にとってはすごい迫力だ。
みんながみんな欲しいものを購入するものがあるのでせっかくなら誘ってみる。
「それなら放課後にモールにでも行かないか。今日は金曜日で明日は休みなんだし。」
「それはいいな。横山の用事も俺の用事も藍田の用事も一気に終わるし。」
「僕もいいですよ。」
と2人共大丈夫とのこと。もう少し人数が多い方がいい気がする。
「なら、英二も誘っていいか。労ってやりたいし。」
「いいんじゃないか。少し人数が増えても。」
若松は了承してくれて、横山も頭を縦に振っている。
なら、さっそく椅子でうつ伏せになっているやつに声をかける。
「おい、英二。聞いていたと思うけど放課後一緒にモールに行こうよ。」
「う、おう。いいぞ。久々に外出したいからな。」
起き上がってそう言うとまたうつ伏せになったようだ。お疲れのようだ。
「佐藤くんも行くのなら私も行ってもいいかな。」
教室の前の方から歩いてきて加藤さんがやってきた。
「いいけど、男の買い物とかだから退屈かもしれないよ。」
「うん、大丈夫。男の買い物に興味があるから。」
加藤さんはいい笑顔を向けてきた。
横山は光を浴びて灰になりそうになっていて面白い。若松は来ようと来まいと関係ないという面白くない顔をしている。俺としては英二目的ということがわかっているのでこれを断ったら大変なことになることもわかる。
「わかった。放課後にまた。」
「了解〜。」
と軽い敬礼をして他のグループへと戻っていく。
その後、午前中最後の授業を受け昼休みとなった。
「今日はどうするんだ。購買にいくか、学食に行くのか。」
若松が早速声をかけてきた。
ほとんど生徒は寮で暮らしていることから昼ごはんは購買と学食のどちらかになる。ごく少数は寮でのキッチンを使って弁当を持ってきていることもあると聞いたことがある。
「そうだな、学食行って混んでいそうだったら購買に行こうかな。」
そう若松に言って携帯を取ろうとしているとスーツを着た2人組が教室に入ってきた。
「お昼休みにすみません。事務の坂口というものです。クラスのリーダの佐藤くんはいられますか。」
少し線の細い男の坂口が英二を探している。
「はい、俺がリーダの佐藤です。何か用件でも。」
「理事長からの要件を伝えにきました。別室でお話をしたいと思っています。藍田さんという方も一緒に。」
俺も呼び出しを受けた。まぁ、理事長からの要件ということはめんどくさいのは間違いはないけど。
「行かないと余計めんどくさいか。」
「お前この学校の1番の権力者の呼び出しを無視しようと考えたのか。いいから行ってこいよ。」
「うん、行ったほうがいいよ。」
と若松と横山に行ってこいと言われたので嫌々席を立っていくことにした。
英二と2人の事務の人に連れられて少し歩いて応接室に通される。
応接室は二人ぐらいが座れそうなソファーが向かい合って並んでいて、その間にはかなりの重量がありそうな机がありその上に何かの機械が置いてある。
壁には何かの絵画がソファーの後ろにかけてあり奥には花瓶が置いてある。
「それでは理事長と通話を繋ぐのでこちらのソファーに腰掛けてお待ちください。」
坂口にそう言われたのでソファーに腰掛ける。
坂口が携帯を操作をすると空中ディスプレイで映像が浮かび上がってきた。
ディスプレイには昔に使われていた電話の子機のマークが表示されていてその下に理事長と書かれている。
数秒ぐらいするとモニターに理事長の顔が表示された。
「お、二人共いるようでなによりだ。さて、さっそくだが話をしよう。先日の教師のことだ。」
すると理事長の顔が消えて以前話していた。教師の顔が表示された。
「こいつは1週間前にこの学校を正式に解雇になった。あいつがやった証拠を突きつけて教育委員などに提出、しかるべき手続きをしたから問題はなくスムーズに済んだ。だが、あいつの中では反省というものはなかったらしい。これを見てくれ。」
理事長は新しい資料を提示した。
書かれているのは挑戦状だった。
「今日から8日後の土曜日に1年Eクラスとの練習試合を申し込む。試合に必要な手続きはそちらの了承のみとなっている。試合人数は25人とする。人数が足りない場合でも試合を行うものとする。とまあ、このように君達と私に向けての挑発をしている。こちらとしてはまだ経験の少ない君たちを試合に出すのは少し気が引ける。」
と画面を戻して心底めんどくさそうな顔をしている。
「相手は社会人ということなんだろ。」
英二はどの相手とも言ってはいないのに対戦相手を言った。
「そうだ、社会人チームでそれなりに強さはある。この地方では最強のチームの一つだ。」
「そうだろうな。俺たちに恨みがあるなら不安定な学生のクラブチームよりは社会人チームを選ぶのが妥当だからな。小学生でもわかることだ。」
少し英二は不服そうに言う。そう言われればそういう答えが出てくる。
それに対して理事長の顔は俺たちを真っ直ぐに真剣に見ている。
「だが、これはチャンスでもある。学生だと社会人との試合が出来ないことが多いんだ。それが今入学したての君たちが挑戦できる。」
「だからって負けてしまったら意味がないじゃないか。負けが見えているのに向かっていくのは馬鹿がやることだ。」
と英二は全くその挑戦を受けず突っぱねると言う。
けど。
「おいおい、学生のうちでそんなことを言っていてどうするんだ。」
「学生かどうかなんて関係ない。この話は終わりだ。昼休憩がもったいない。」
と言って席を立って部屋から出ようとする。
その英二の横顔はいつものように余裕のある表情ではなく少しだけこわばっている。
「英二やろうよ、試合。」
何も考えずに帰ろうとする英二を自然と止めていた。
「なんでだ。社会人と試合なんて負けるのが決まっているような試合だ。お前は社会人とやっても負けないだろうが試合はチーム戦だ。負けるのがわかっていることをするなんて時間の無駄だ。」
「負けるなんて決まってはいないよ。社会人だけど地方で強いチーム。学生が勝てない道理はない。理事長、俺たちが勝てる可能性はありますよね。」
理事長は笑顔で首をゆっくりと縦に振る。
「ああ、厳しい戦いにはなることは間違いないだろうが私は君たちが勝利すると思っている。」
「ほらね。英二は負けるのが決まっていたなら嫌なんでしょ。勝てる可能性があるのならやろうよ。せっかくのチャンスなんだから。」
目がキラキラとしているのが自分でもわかるぐらいテンションが上がっている。
英二は頭をかいてため息を吐きながら少し考えると
「ああ、わかったよ、わかった。俺の指示で負けても知らないからな。」
「ありがと。しっかりとやってくれよ。」
了承はしてくれたが少し不服そうな顔をしているので不安だ。
「それでは私は試合の申し込みの受け入れることを相手に伝えておこう。厳しい戦いになるのはお互いに正々堂々とした場合だ。相手チームの選手にはやつもいる。気をつけてくれ。試合の詳細はまた日を追って伝達しよう。」
理事長はそう言って通話を切った。
「お二人ともありがとうございました。今後の練習は学年対抗で使用したところより広い場所を提供します。よろしくお願いします。」
「ああ。宗斗、行くぞ。俺は練習内容を考えておく。お前は敵の主力を相手してもらうから頼むぞ。」
英二はそう言って今度こそ立ち上がって部屋から出ようとするので、それについていく。
「英二、この試合のこと嫌だと思うけど了承をしてくれてありがとう。」
「ああ、お前が活躍してくれれば問題はない。さっさと昼飯を食いにいくぞ。」
俺としてはいい方向に話が転がったと思ったが、英二の顔には少し雲がかかっているように見えたのが気がかかりだ。
試合が決まって日の夜。寮にある屋上で宗斗は空を見上げていた。
今まで住んでいたところからは星がしつこく輝いていて嫌いであった。
ただ、ここから見える星は雲と近くにある街の光によって見えなくもないぐらいのささやかな光しか発していない。
それが彼の心を癒すものとなる。
だが、心を癒されると同時に鎖が身体中に巻きつき縛りつけてくるような錯覚に襲われる。
どこにも行かせない、何もさせない、人形のように手のひらで踊れなどと呪いのように過去の言葉が聞こえてくる。
ここに入学できると決まるまでの彼ならば手足が震えてしまい立つことすらできなくなっていたのだろう。
今は違う。
「これからだ。閉ざされた未来を変えることが出来る。」
拳をかつてないほど無意識で強く握りしめる。
彼は星のように輝く光、そして絶望を表す闇、そのどちらも嫌いであり自身には全くもって似合っていないということを再認識をして屋上から立ち去る。




