第4話 追われる日々は記念日を忘れさす
いつもと同じ電車に乗り定刻通りに教室につく。昨日と変わらない教室で昨日と違うのは由早のハグが無かったことだけだ。
由早 「おはよ。」
由早は私達3人に向けて挨拶をする。昨日の事があったためかいつもより少し元気が足りない気がする。私の思い過ごしかもしれないが、こういうのはイラッとする。だったら初めからしなければいいのに。
瑞希 「由早ちゃんおはよう。」
都花 「おはよう。」
瑞希と都花はいつもと同じように挨拶をする。が、私は挨拶をしてあげない。代わりに周囲にあまり人がいないことを確認し由早の背後を取りハグをする。
紗希 「うりぁー。(棒読み)」
あ、大きいですね。それはそれでイラッとしますよ。由早さん気を使ってくださいね。
由早 「え?どないしたん?」
驚いた顔で聞き返す由早に私はこう返してやる。
紗希 「いいやん。減るもんやないし。」
言ってやりましたよとドヤ顔を由早に向ける。なんかスッキリです。ここからは私のターン。教室から由早を連れ出し階段の裏に連れて行く。今日の私はいつもの私じゃありませんよ。きょとんとしている由早は私になされるがままです。
紗希 「昨日のことはもういいのでいつも通りにしてくださいね。私もそんなに子供じゃないので少しくらいの悪乗りは私のブロードマインドで許してあげますよ。」
由早に反応が無い。何か考えていますか?それともこの前解いた英語の問題に出ていた単語を入れたのが分かりにくかったのですか?しかしターンは渡さない。
由早 「いつも通りでええの?」
ここら辺でとどめと行きましょう。楽にしてあげますよ、由早さん。
紗希 「いいですよ。じゃ、仲直りですね。」
さし出した私の右手をすり抜けて私の薄い体に飛び込んでくる。ハグ魔が息を吹き返す。あれ?私のターン終わっちゃいました。始業時間近くの廊下はかなりの人通りになっている。場所が場所だけに大きな声がでそうになったがこらえる。人目を避けた場所を選んだのが裏目に出ました。
紗希 「ちょっと、由早・・・」
由早 「紗希がさっきええってゆーたやん。」
由早さん声が大きいですって。階段の裏でとか見つかったら経緯はどうであれギルティですよね。言った後でちょっとさっきから鬱陶しいなぁと反省する。言質を取られていては私も言い返せない。結局由早に押し切られる形となった。でも、こっちの方が由早らしいので今回は良しとしといてあげますよ。その後今日一日由早の機嫌は良かった。なんだかんだで昨日のことを朝は少し気にしていたようだ。いつもの調子を取り戻し放課後を迎える。
さて今日は部活に行かずに茶道部でも冷やかして帰ろうかと思っていましたが、由早がそれを許さないとばかりに私の右手を引っ張り部室へと誘う。
紗希 「今日は部活行きたく無いのですが。」
出来ることならもう引退まで行きたくない。
由早 「紗希が私を将棋部に入れたんやろ。紗希来んかったら私誰と指すんよ?ちゃんと責任とらんとあかんよ。」
昨日茶園場とあんなふうになったの誰の責任だと思っているのですか由早さん。嫌すぎて気が重い。イライラして吐き気がする。考えすぎて熱っぽいかも。
紗希 「病は気からというので病気になったら大変なので帰ってもいいですか?」
由早 「あかん。」
私の脳内での思考を端折った論法も由早にはなんの効果もなく部室の前まで連行された。今日仲直りしたばっかりなのに由早さんひどい。
紗希 「入らないとダメですか?」
私の問いかけを無視して由早が戸を開ける。無視ですか?仲直りをして数時間で由早さんに愛想をつかされました。礼をして中に入ると私が自意識過剰なのか視線が痛い。確認して安心したい衝動にかられた私は不本意ながら茶園場を探す。いた。向こうがこちらを向いていることを認識すると目線を合わさずにいつもの定位置に視線を向ける。やっぱり帰りたいです。
由早 「行こう。」
視線を避けるように俯き気味な私の手を引いて由早が前を歩く。視線よけになってくれているのですかね?まだ愛想を尽かされていないのですかね。不安が止まらない。
由早 「何も悪いことしてないんやから堂々としとう方がええんちゃう?」
今朝元気がなかったくせによく言いますね、今朝の由早さんに聞かせてあげたい。流石に今日は茶園場は来ない。来たら退部の決意までしていたと思うのでその点だけは良かった。
モブ1「で静臥昨日ふられたん?」
茶園場は「あはは」と面目なさそうに頭を掻く。振られたとかそんなんじゃなくて友達にならなかっただけですよ。否定して下さいよ。否定すると言い訳がましいとか女々しいとか思ってるんじゃないでしょうね?私に好意を持っているとか言うならこの状況を何とかしてくださいよ。
モブ2「今日、目合わさんかったもんな。」
今日だけじゃなくていつも目なんて合わしてないですよ。時折聴こえてくるモブの冷やかしに心の中で突っ込みながら指しているとひどい指し筋になっていた。集中できない。メンタル弱いですね。繊細。どれくらい繊細かというとプレパラートに載せるカバーガラスくらい繊細。それでも暫くすると冷やかしも止み下校時間が来る。
試合でも無い将棋を指していただけなのにドッと疲れた。早く部室から出たいので急いで駒と盤を片付けると鞄を取る。由早に「行きますよ。」と言って早足で扉へと向かう。扉を開けると出合い頭に茶園場と目があった。状況理解出来ずに、え?っと呆気に取られていると後ろから由早が挨拶をする。
由早 「おつかれさん。」
ここで茶園場に挨拶されたら返さないといけないじゃないですか。「チッ」と舌打ちしそうになった。しませんよ、はしたない。
静臥 「お疲れ様。昨日はごめんね。」
そう思うなら今話しかけないでくださいよ。ばーか、ばーか。昨日「また。」といった手前返事だけはしないといけない気がしたので完結に答える。
紗希 「お疲れ様です。では。」
立ち去ろうとする私の鞄を由早が引っ張り不意をつかれた私はカクンと後ろに転けそうになった。由早さん危ないですから。
由早 「ちゃんと返事する。茶園場君のためやのうて紗希のためやで。」
あなたは私の母上ですか?母上は放任主義なのであまりこういうことは言わないですね。ほんと誰得なのですかこの状況?
モブ1「先行ってるわ。」
はい、その気の使い方間違っていますから。あとニヤニヤしないでくださいキモいですよ。残された私、由早、茶園場に沈黙が流れる。早く帰りたい私が答える。
紗希 「別に気にしていませんよ。もういいですか?」
別に茶園場のことは気にしていない。気になるのは周囲の視線とかです。とにかく早く帰りたい。
静臥 「ありがとう。やさしいね。」
ええ?どこがやさしいのですか?心の中で「ばーか」って言っているし、そっけない態度を取っているのにもしかしてMな方なのでしょうか。心の中は関係なかったですね。ありがとうと言われたのでもういいと解釈して昇降口に向かう。
由早 「あ、紗希。茶園場君またね。」
早足で遠ざかる私を追って由早もその場から離れた。
由早の小言を受け流しながら靴に履き替え坂を下ると瑞希と都花が校門の手前にある茶道部の部室から出てくるところだった。
瑞希 「お疲れ様。いいタイミング。」
右足で立って左足を曲げ靴のかかとに指を入れて靴を履きながら声をかけてくる。見覚えのある娘達が瑞希と都花に会釈をして出てくる。瑞希と都花は小さく手を振って答える。茶道部の後輩だろうか外面の良い瑞希の部長姿も板についている。昨日の「パパァ」をこの娘達にも見せてあげたいですよ。後私を見て瑞希を二度見するのやめてくださいね。間違い探しじゃないですから。
由早 「おつかれさん。私は区別つくよ。」
挨拶をしながら、二度見した子を訝しげな目で見ていた私の方を見て呟く。父上でもたまに間違えるのに本当ですか?それより心情を読まないでください。
都花 「お疲れ様。私もわかると思う。」
都花の場合は瑞希が分かり消去法で私がわかるのだと思う。微妙なニュアンス分かっていただけますか?文才なくてすみません。瑞希と瑞希っぽい人といったところでしょうか。駅まで雑談をし電車に乗り今日も今日とて一日が過ぎていく。あ、今日ギルド戦で初勝利を納めました。しかも二連勝。SR武器もドロップいい一日でした。全然よくない。疲れた。
土曜日が来た。三宮に行く日が来た。デパートだ。ここで「学生にはデパートは敷居が高い」とか間違った表現をする人がいますが本来高級すぎて分不相応とかいう意味はない。不義理をしてそこに行けないとかいうのが元々の意味ですよね。BCDだかCDEだか某局の女子アナが食レポ等で「敷居が高そうに見えますが」とかいう表現をたまに聞くと、知り合いの店?何かやらかしたのですか?と勘ぐってしまいます。そんなことないと分かっていますが。日本語の未来が心配。久々の三宮とあって少しおしゃれをする。白いニットのチュニック、お尻ギリギリの丈ってかわいいですよね。キャメルのダッフルコートに黒のホットパンツそしてニーソ。足元はローヒールのショートブーツ。ちょっと狙いすぎた感がありますが三宮なので問題ないです。瑞希は御揃いのコートとブーツにピンクの御揃いのチュニック白いフレアスカートに黒ストッキング。まずまずのシンクロ率。二人ともマフラーを巻いて防寒は完璧です。瑠希ちゃんも支度を終えると出てきましたが出発はもう少し後のようです。
瑠希 「一服していい?」
乗せていってもらう私達に拒否権はない。未成年がいる車の中では吸わないという心遣いはうれしい。受動喫煙の方がきついらしいですからね。そんなことよりも匂いが苦手。お気に入りの服に匂いがつくとか悲しいです。一服も終わり車に乗り込むと高速に乗る。天候にも恵まれ明石海峡大橋がはっきりと見える。道は空いているようだ。高速を降りると一気に皆さんが想像している港町神戸感が出てくる。センター街から少し遠い駐車場に車を停める。少し離れるだけでかなり安くなるみたいです駐車料金。
瑠希 「先にお昼済ませよっか。こむし。」
混雑の中ご飯を食べるのは落ち着かないので11時を少し回った所だが承諾をし、ついていく。正直ファーストフードとかかなと思っていたが何やら寂れた、じゃなかった雰囲気のあるビルの2階に入っていく。外観とは違いおしゃれな店内には誰が座るのって感じの存在感のある巻貝みたいなソファーに暗めの照明。カコンカコンと靴音を響かせる板張りの床がいい味を出していますね。雰囲気にのまれていると瑠希ちゃんが慣れた感じで店員さんに人数を告げる。まだ少し時間が早かったのか空いているようで4人掛けの低いソファー席に案内されるとマフラーを外しコートを脱ぐ。こんなお店をさらっと選択できる瑠希ちゃんかっこいいです。とか思っていると料理が運ばれてくる。みんなそれぞれ違うものをオーダーしシェアする。瑞希はローストビーフDON・・・意外とがっつりしたもの選びますね。食後のグレープフルーツジュースを飲みほすと12時前になっていた。店内も込み始めていた。お腹も満たされたところで精算に向かおうとすると瑠希ちゃんが伝票を取り上げ支払いを済ませてくれた。ごちそうさまお姉さま。ビルから出ると通りには人がごった返していた。
フラワーロードを横切って太丸に着いた。見たいものがあるのでと2時にティースティース集合で私と瑞希は瑠希と別行動をする。チョコ売り場には行かずにブランドを物色する。
瑞希 「何買うかもう決めてるん?」
紗希 「スマホ対応の手袋とマフラーとかどうですか?」
それまでは手袋をしていましたが今年はしていなかった。多分無くしたか汚してしまったのだと思います。マフラーも変えがあったほうがコーデに幅が出ていいと思うのです。ブランドを見て回ると仕事使いも出来てワンポイントのリボンが可愛いデザインの手袋を見つけた。え?手袋で5万4千円?ごめんなさい予算オーバーです。相場を知りませんでした。私と瑞希合わせて予算は2万円。余裕と踏んで下調べもせずのこのことやってきたことに後悔しました。おかしいな・・・オゾン2千円で売っていましたよ。10倍の資金に胡座をかいていた自分が恥ずかしい。と、落ち込んでいる私をよそに瑞希はフロアを駆け巡る。更にフロアを移動し私を呼ぶ。何かを見つけたみたいだ。
瑞希 「これどうかな?」
濃いグレーのスエード生地で三本のレザーの紐が手首にあしらわれていてさらに花の模様が人差し指と手の甲にあしらわれている。さっき見つけた物より可愛い、しかもスマホ対応。値札を見ると1万円を切っている。安い!充分高いのですけどね。さっきの5万4千円で金銭感覚がクライシスに陥っています。危機って言ったほうが文字数少ないですね。すみません。クライシス言ってみたかったのですよ。
紗希 「すごくいいじゃないですか。」
これをキープしてマフラーを探す。小物は同じブランドの方がテイスト合わせやすいので持っているコートの色を鑑みて選んだ。予算内に収まりデザインも気に入っている後は渡すタイミングですね。お目当てのものも買えたので催事場に行き由早と都花と父上のチョコを買う。ん?瑞希は少し多めに買っている。私の知らない部活関係とかでしょうか?
紗希 「誰にあげる分ですか?」
見た?という感じで瑞希が振り向いた。
瑞希 「んー部活のお茶請けとかにもいいかなって。」
今明らかに考えましたよね。後付けですよね。あんまりしつこいとへそを曲げるので追求はこの辺でやめておきます。手袋とマフラーをチョコの袋でカムフラージュして待ち合わせ場所に行く。既に瑠希は席についていて私たちに手を振る。
瑠希 「遅かったね。いいのあったん?」
そう言う瑠希の横には10個以上入っているんじゃないかってくらい袋が置いてあった。社会人って大変ですね。
瑞希 「いいの買えたよ。瑠希ちゃん本命チョコどれ?」
瑠希 「みぃちゃん、残念ながらこれは義理です。」
瑞希 「こんなに色々あるのに?」
同じの買うのが無難だと思うのですが、確かに包装紙が違うのが何個かありますね。でも瑠希は面倒くさがりなのになぜか本命には手作り派なので嘘ではないと思いますよ。それより瑞希のチョコ多かったのが気になります。ティースティースでお茶をした後せっかくなので商業施設のオイオイやクレソンを見て回る。いつもならクレイジージャムでクレープと行きたいところですが甘いものはもうお腹いっぱいというか、夜に向けてセーブしておきます。あぁでもクレープ食べたかったですね。元町から三宮をぐるっと回って瑞希と打ち合わせ通り再びクレソンに戻り一階にあるフレグラントグラスに入る。
紗希 「お土産買うので瑠希ちゃんどれがいいですか?」
父上と母上はリサーチ済みです。瑠希と瑞希も選びお会計へと向かうと瑠希が支払おうとするのを制止する。
紗希 「お昼おごってもらったのでここは私が。」
珍しく支払おうとする私を珍しい物を見るような目で見る。いえケーキ代の資金は母上からいただいております。「私が」じゃないですね。でもこの言い回しでないと・・・おっと口が滑るところでした。
瑞希 「いやいや私が。」
瑠希 「何それ、おっさんぽい。」
この言い回しおっさんぽかった見たいです。こんなところでコントとかする気はないのですが少し受けました。それでも素直に支払わせていただけたので良しとします。
予定していたものを全て終了し家に着くとすっかり日も落ちていた。時計の針もまっすぐに上と下を指し18時を告げる。食卓の上には母上が用意した瑠希の好きなおかずが並んでいる。そう今日は瑠希の誕生日。じゃなくてですね昨日誕生日だったのですよ。なのに瑠希ちゃん本人が忘れているってどうなの?
一同 「瑠希ちゃん誕生日おめでとう(1日遅れ)」
瑠希 「そういえば会社からももらってたわ。」
瑠希の勤める会社はブラックだと思うのですがこういうあざとい感じの贈り物をしてきます。子供のいる人には入学祝とかあざとい。
瑞希 「これ私と紗希ちゃんから。」
あ、一緒に渡そうと思っていたのにずるい。しかも考えたの私なのにとかなかなかの小物っぷりを露呈しても仕方ないので我慢する。
紗希 「一生懸命選んで買いました。大切に使ってください。」
小学生っぽく付け加え反応を見る。
瑠希 「言い方重っ。」
姉上ひどくないですかね?ここは「ありがとう。大切に使うね」が正解じゃないですか。それでも袋から取り出しつけて見ると気に入ってもらえたようで何よりです。
瑠希 「ありがとう。大事にするわ。」
ちゃんと言えるじゃないですか。父上からは安定のスマホ課金用プリペイドカードを貰ったようだ。安定。冒険しない父上も好きです。そんなこんなで1日遅れの瑠希ちゃんの誕生日会も終わりまた今日が終わっていく。後日談ですが当日は誰かと過ごすかもというのもあり、母上がいろいろと皆の都合のいい次の日の土曜日に決めてくれたそうです。母上放任主義かと思ったら気を使っていてくれているのですね。愛されていないとか言ってすみません。あ、今日ギルド戦忘れていました。




