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第3話 晩ごはん頑張って作って食べるの一瞬

私達はそれぞれのホームに移動する。都花だけが下りのホームに向かう。こちらのホームでは瑞希と由早がまだ話し足りないかのように会話を弾ませていた。下りホームに着いた都花はこちらに軽く手を振ると鞄を開けイヤホンを付けて参考書を取り出す。先ほどまでの賑やかさとメリハリが効いていて自分がもうすぐ受験生であることを思い出させられる。そうしている間に私たちの乗る電車がホームに乗り入れる。冬至を過ぎたとはいえまだまだ日の入りは早い。17時半を回ったところだがすでに辺りは暗く街灯が寒々しく線路の先を照らしていた。


最寄駅に着いた私たちは外気と内気の温度差に身震いしながら階段を上る。改札の手前でマフラーを締め直し、いつもなら塾に向かう由早に「じゃあ」と手を振って分かれる所だが今日は違っていた。

由早 「今日は悪乗りしてごめんね。怒っとう?」

電車の中で一言もしゃべらなかった私の両手をがしっと掴むと上目づかいで覗き込む。基本公共の場では静かにしましょう。あとわかっているなら辞めてもらえないですかね。18時過ぎの駅にはそこそこの人の流れがあり、あまり目立ちたくない私は由早を許して早くこの場から離れたい。

紗希 「いいですよ。いつものことですし。」

簡単に許すのも癪なので嫌味の一つも入れてみる。これが余計なことでした。

由早 「ひっどーい。」

由早の大きな声が駅構内に響き渡る。由早さん公共機関ではお静かに願います。

瑞希 「由早ちゃん。しーっ。」

あまりの大きな声に瑞希が口に人差し指を当て静かにするように促す。自分の声の大きさに驚いた由早も口に手を当てる。こちらに向いた通行人の視線に二人は軽くお辞儀をしながら私の手を引いてその場から離れる。

由早 「みぃちゃんごめんね。もう、紗希が悪いんやからね。」

えー私のせいですか。じとっと不満げな視線を由早に向けると思い直した由早が謝罪を口にする。

由早 「いや、ごめん。なんか紗希やと悪乗りしてしまうんよ。ごめん。」

最後のごめんはトーンが低く消え入りそうな声だった。本当に悪いと思っているようだし、ここまで謝られるとそれはそれで私も嫌味を言った手前申し訳なく思わないでもなかったりする。心の中でも素直になれない。

瑞希 「由早ちゃん。紗希ちゃんも分かってるから大丈夫だよ。」

またしても人の心情を代弁する瑞希。そのうち私はしゃべらなくても会話が成立するのではないかと思う。私が怒っていると思い俯く由早に先ほどまでの元気はない。人がへこんでいる時の瑞希はやさしい。私はどう接していいか分からず呆然とすることが多い。かくいう私もその一人ですがこういう行為は偽善だの自己満足だのと言う人がいる。でも、それって自己防衛ですよねっとか言ってしまうと何もできない。立場で見方が変わり理屈をこねているだけなら私はただただ自分の出来ない事をさらっとやってのける瑞希の行動を尊敬したい。

紗希 「もういいですよ。怒ってないですから。」

イラッとはしましたが。

由早 「ほんと。ごめん。」

瑞希が由早の後頭部に手を回し自分の方に引き寄せる。腰に手を回し優しく髪を撫でる。

瑞希 「大丈夫。伝わってるから。」

ほら、私のセリフいらないじゃないですか。オカンスキルを発動させた瑞希は由早を優しく介抱する。自分と同じ顔が自分とは違う行動を取っている事に違和感を覚える。私もあんな風になれたら。少し瑞希が羨ましかった。


寒さに挫けそうになるがそれでも背筋を伸ばし家にたどり着く。「ただいま。」と同時にハモるが返事は帰ってこない。誰もいないがついつい癖で言ってしまう。玄関の暖房はあまり効いていないようだが外気との温度差で心地いい。手を洗いうがいをするとたたっと階段を上りルームウェアに着替える。スマホを取り出しアプリを立ち上げる。一通りの操作を終えると灯りの付いていない薄暗い台所へと向かった。灯りをつけてケトルでお湯を沸かしながら献立を考える。父上、母上、姉様の順で帰ってくるが、なるべく晩御飯は一緒に食べたい。冷蔵庫と相談しようとすると瑞希が声をかける。

瑞希 「筑前煮とあとは水菜のサラダくらいの材料はあったと思うよ。」

昨日の夕食当番の瑞希が今日の献立を提案してくれる。昨日の法蓮草のソテーも残っているしそれで了解をする。ぱぱっと牛蒡、人参、蓮根、椎茸を乱切りにし鶏肉と蒟蒻をフォークでつついてから大きさを合わせてさいの目に切る。あ、蒟蒻は熱湯をかけて臭みを取ってくださいね。ごま油で火の通り難い物から炒めると、レンジ横の母上のレシピを取り出し鍋におおよその分量で調味料を入れる。ひと煮立ちしたところで味見をした。美味い。母上のレシピ安定の美味さですね。家庭の味というのは刷り込みの部分が大きく影響するらしいですが、家に来るお客さんは概ね母上の料理をがつがつと食べていたのを見ると及第点はあるのだろうと思います。味が決まったので落し蓋代わりにアルミホイルを鍋に入れて弱火にする。後は煮込むだけです。水菜のサラダは直前に盛り付けるので他の野菜と一緒に切って水に晒しておきます。普通の家庭ならこれで終わりなのですが、私は炭水化物を18時以降なるべく摂らない様にしています。面倒くさい奴ですね。自分でも分かっています。でも太るの怖いし自分で作るので大目に見てください。豆腐を取り出しレンジで水を切ると片栗粉を薄くまぶしフライパンで焼き目が付くまでしっかりと焼き大根おろし小口ネギをあしらって完成。そうこうしているうちに皆が帰ってくる。

瑠希 「ただいま。寒い寒い。ごはん何?煮物?」

甘辛い匂いで察知したのかジャンルは正解です。

瑞希 「瑠希ちゃんの好きな筑前煮だよ。」

私が配膳をしているので瑞希が代わりに答えてくれた。昨日瑞紗が作った御味噌汁を温め直してご飯をつけると晩ご飯が揃い家族がテーブルに着いた。いただきますをしていつも通り食事が始まり箸を進めていたがなぜか瑞希が暴走を始めた。

瑞希 「今日、紗希告られたらしいよ。」

進んでいた父上の箸が止まる。母上は何もなかったかのように箸が進む。瑠希は興味深そうにこちらを見る。ちょっと瑞希さん今日いろいろあって疲れてるんですからやめてくださいよ。

瑠希 「どんな子?」

チャラくて関東弁っぽいよく知らない人ですよ。

瑞希 「いっちゃんと同小で結構人気のある人で頼りがいのある人かな?ね?」

ね?と言われてもね?姉妹で正直ここまで見解が違うとは思いませんでした。瑞希の問いに首を縦に振らずかしげていると瑠希の次の質問が来た。

瑠希 「で?どうしたの?」

瑠希の質問に父上はお茶を飲み平常心を装う。

紗希 「いや、友達になって下さいって言われただけですよ。受験も近いのでお断りしましたが。」

誤解は事実だけを端的に述べて説いたほうがいい。ホッと軽く息を吐く父上となぁんだと残念そうな姉上と微動だにしない母上。母上もう少し私に関心を持ってください。愛されてないのかと思って泣いてしまいますよ。瑞希の方を見るとごめんという手振りをしてテヘペロをした。許しませんよ。私を生贄にしてひと盛り上がりあった夕食は作るのに1時間もかかったのに食べるのは10分そこそこでごちそうさまとなった。


リビングで撮りためていた深夜アニメを見ながらスマホをいじる。どうやらこの時間帯はギルド戦というのが行われているらしい。要領を得ていない私達は惨敗を喫した。

瑠希 「火力が全然足りない?」

違いますよ、お姉様。コンボとか合体とかで威力が上がるみたいですよ。

紗希 「根本的に戦い方が間違っていると思いますよ。」

抽象的な答え方にうーんと考え込む瑠希。すみません。まだ一戦しかしてないので最適解が導けません。もうしばらく待ってくださいね。気遣いの末っ子は上手くまとめる。

瑞希 「でも火力あるにこしたことないからレイドやろうよ。」

瑠希 「そだね。」

それには賛同しレイドボスから出るレアアイテムのドロップを期待してポチポチとタップする。行動力を消費したところで「お風呂が湧きました」と音声ガイドが知らせてくる。瑞希と二人でお風呂に入ると子供ころあんなに広かったお風呂が狭く感じる。話題は再びバレンタインデーに。

瑞希 「いっちゃんと由早ちゃんのチョコどうする?」

髪を洗っている瑞希に頭からシャワーをかける。

紗希 「やってくれましたね、みぃちゃん。」

ご飯の時の恨みがふつふつと時間差でよみがえる。

瑞希 「??パパァー・・・」

瑞希は昔から不利な喧嘩になりそうな時は父上を召喚する。状況を考えてください今裸ですよ。別に親なのでいいですが、いや良くないか。瑞希の口をふさぐと「分かりましたから」と言って懐柔する。

瑞希 「でチョコどうするの?」

悪びれる様子もなく聞いてくる。この子本当いい根性してますね。双子なのに一卵性なのに性格が全然似ていない。もしや私は拾われた子・・・とか容姿を見れば双子って分かるのでそれはない。なんか腹が立ちますが質問に答える。

紗希 「瑠希ちゃんにも聞いて三宮行くなら乗せてもらえばいいんじゃないですか?」

バイトもしていない高校生に交通費は結構きつい。クリスマスとお正月で頂いた資金にはなるべく手を付けたくない。となれば頼れるお姉さまに頼るのが定石ではないでしょうか。将棋部なのに囲碁由来の言葉を使う。将棋では定跡ですね。

瑞希 「あ、そうだね。上がったら瑠希ちゃんに聞いてみよう。」

この会話で思ったのが二人とも手作りはしないという事ですね。それは本命ができた時にでもとっておきましょう。あ、映像化するときはサービスシーンは無しでお願いしますね。全年齢なので。お風呂から上がって髪を乾かしていると一服から瑠希が戻ってきた。金ケ崎家は禁煙なのでスモーカーの瑠希は家の外でニコチンを満たしてきたようだ。

瑞希 「瑠希ちゃん、バレンタインどうするの?」

先に髪を乾かし終わっていた瑞希が口をゆすぎに洗面所に来た瑠希に聞いた。煙草の匂いが苦手な私は瑠希にドライヤーを向ける。せっかくのトリートメントのいい香りが台無しですよ。

瑠希 「え?あ、ごめん。そんな時期やね。どうしよっか?」

車を持っている姉はのんびりと構えている。実際近くのスーパー「オゾン」にいけばバレンタイン用に売り場が設けられている。定番ガディバから瑠希がいつも買うジャン・ポール・エヴィン、私が好きなライズのポテトチップのチョコレートがけ、父上鉄板の東都帝国ホテル、他にもかわいい動物をあしらったものやカラフルなチョコが展示されている。しかし私の目的はチョコではないので三宮に行きたい。

紗希 「三宮に行きたいです。デパートとかよくないですか?ティースティースでお茶できますよ。」

姉さま大好きティースティースで三宮行きを引き寄せる。ティースティースはお小遣い制の貧乏高校生には少し高価だが美味しいので私もやぶさかではないです。ティースティース言っているとお笑い芸人ヘップバーンの春日部さんを思い出したが本編とは何も関係ない。

瑠希 「そうやね。久しぶりに行こっか。」

三宮行の切符をゲット。お目当ての物が楽しみです。あ、目的何だったでしょうか?読み返してみるとチョコですね。ついでにチョコレートも買いましょう。

瑞希 「ティース。」

私が三宮行を感慨深げに考えていると瑞希が小さく右手人差し指を上げてつぶやく。春日部さん少し関係ありましたね。流石双子、少しシンクロですね。


チョコの仕入れ先を確保したところで自室に戻り少し勉学に励む。学生のたしなみです。その間にもスマホをポチポチといじる。はっと気づくと先ほどのギルド戦で負けたのが悔しかったようです。自分の負けず嫌いが面倒くさいですね。次のギルド戦は22時からですか。ギルド戦と言っても12人いるうちの私達3人しか稼働していない。後は登録してすぐ放置してしまった人たちでしょう。実際この手のゲーム何百万ダウンロードと言っても稼働数は半分もいないんじゃないでしょうか?最下層ランクのギルドならなおのこと少ないのは仕方のないことですね。21時半を回った所でリビングに降りる。瑠希、瑞希と私三人でこたつに入りスマホを置く温かいお茶を用意してみかんを食べる。こたつみかんはあかん。人をダメにするよ。とか思っていたらギルド戦が始まっていた。瑠希に作戦を説明をして順番に攻撃する。効果は絶大だ!しかし万全の態勢で挑んだが、開始5分もすると、することが無くなった。オートで復活して攻撃するみたいですがそんなの待てないので座談会になっていた。嫌な予感がする。やはり恋話になった。彼氏いらない歴=年齢の私にもお鉢が回ってくる。

瑠希 「で、その子なんで断ったん?」

姉様は人の話を聞いていないのだろうか?来年受験だからですよ。

紗希 「受験とかあるじゃないですか?」

瑠希 「ふーん。受験が無かったら付き合ってたん?」

その返しは鋭いですね、お姉さま。受験を隠れ蓑にしていたので言葉につまる。むーっとした表情で黙っていると瑠希が口を開く。

瑠希 「冗談冗談。紗希は理想高いからね。どんな子連れてくるか楽しみやわ。」

別に理想高いと思わないのですがね、比較対象が無いので分かりませんが。それよりも先に姉様が連れて来てくださいよ。そんなこと言えませんが。

瑞希 「順番からすると瑠希ちゃんが先だよね。」

怖い・・・瑞希ちゃんハート強すぎです。

瑠希 「痛たたたっ。お姉ちゃんに突っ込むとかええ度胸やな。じゃあ瑞希のタイプゆーてみ。」

こたつの中で足がバタバタと動くどうやら瑠希が瑞希の足を抑えて逃げられない様にしているみたいです。すると瑞希は身をよじらせて「あはは」と笑いこたつの中が一層ばたつく。ゴンッとこたつの天板が浮き上がる。二人共落ち着いてくださいよ。

瑞希 「わ・・・わかった、言う・・・言うから。」

瑠希のこちょばし攻撃に瑞希は軍門に下った。攻撃が終わった後も瑞希は弾んだ息を整えられずに「ふーふー」と言っている。答えることができない瑞希に瑠希が追い打ちをかけようとする。私は巻き込まれないようにお茶をテーブルから避難させる。

瑞希 「普通。普通。」

とりあえず言葉を口にしたが何が普通か分からない。だから言っているじゃないですか。単語でものを言わないでください。適当に答える瑞希に再び瑠希が襲いかかる。

瑞希 「ま・・・まって。」

手を前に出して静止を乞う。父上を呼ぶにも声が出せない。流石姉様、瑞希が追い込まれているのを久々に見ました。息を整えた瑞希は「んー」と考え込んだ。

瑞希 「えーと、優しくて、イケメンで、お金持ち。ね、普通でしょ?」

あざとく小首をかしげるが、体は瑠希の攻撃に備え少し身構えている。えーと、どこから突っ込めばいいのですかね?確かに一般的考えて普通と言えば普通ですが、本気なら黒って思いますね。どこまで本気かわからないし、嘘くさいし、しっくりとこない。

瑠希 「見つけたら先ず私に報告するように。」

しかし姉様は獲物を狙うかのように報告を義務付ける。そう言えば姉様とその友人が開く女子会の名前は「女豹の会」でしたね、どうでもいい情報ですが。そうこうしているうちにギルド戦の時間は過ぎていた。

紗希 「あ、終わってた。」

今日も惨敗です。せっかく準備していたのに無駄でした。相変わらずの脱線力で集中力が無いなぁと。

瑞希 「瑠希ちゃんがかわいい妹をいじめてたからやね。」

みぃちゃんやめて、またやられますよ。どたばたするのはあまり好きではないです。瑠希がまた瑞希を捕らえようとすると、するりと躱し父上のところに行く。

瑞希 「パパァ。」

こうなると誰も瑞希に手を出せない。父上の威を借る瑞希。そうして今日も夜は更けて行き次の日の朝を迎える。

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