第22話 明後日いいますよ
館内で相談というのは迷惑がかかるので一旦外に出ることになった。
由早 「お昼やけどどうする?」
宗磨 「せっかくやから「かつめし」とやらが食べたいわ。」
「かつめし」というのはこの地域のB級グルメで一般的にはお皿の上にライス、牛カツ、デミグラスソース付け合せにボイルキャベツが乗ったものです。私は牛カツが苦手なのでトンカツ派なのですが。
瑞希 「ここからだと結構距離あるけどいい?」
私達が以前瑠希に連れて行ってもらった店の事なのだろうか歩いて行ける距離ではそこしか思いつかない。
氶太良「どのくらい?」
瑞希 「駅の南側だから来た道を戻るって感じかな。」
やはり私が思っているお店のようですね。
宗磨 「結構あるな。でも食べてみたい。」
結構あるのかな?毎日歩いている距離なのでさほど気にならないのですが。というかサッカー部じゃないですか。それくらい体力あるでしょ?
瑞希 「いっちゃん大丈夫?」
こっちは心配です。
都花 「大丈夫。」
なぜか即答の都花の方を見ると彼女は胸の前でぐっとこぶしを作りやる気を見せていた。どうやら「かつめし」に興味があるようですね。
蒼甫 「金ケ崎さん達は大丈夫?」
距離の事を聞いたのかメニューを聞いたのか分かりませんがとりあえず駐輪場の方を指さし距離は問題ないと示す。
由早 「私も大丈夫やで。自転車取ってくるね。」
由早に続いて私と瑞希も自転車を取りに行く。戻ってくると瑞希を先頭に歩き出す。私だけ自転車で行こうとしましたが、由早に無言で自転車を引っ張られて降りる羽目に。自転車引っ張るの危ないですから、あと、協調性とかいらないですよ。
瑞希 「いっちゃん荷物。」
都花 「あ、ありがとう。」
都花の荷物を荷台に載せて中よさそうに先頭を行く。その会話に入るのを窺っている谷八木が見て取れる。面白い。
宗磨 「あれ?こっち?」
先頭の瑞希が道路沿いにまっすぐ進むと怪訝な表情で問いかけてきた。この人どこ通ってきたのでしょう?
蒼甫 「ほらこっちやったやろ。」
宗磨 「おかしいなぁ。こっちのはずやのに。」
おかしいのはあなたですよ。納得できない様子の日富美を無視して一行はずんずん進み小学校横の陸橋を超えるとすぐに駅の北側に着いた。そこから線路沿いに東に向かい踏切を渡って駅の南側にでる。飲食店が立ち並ぶ区画が国道まで続いている。
氶太良「結構にぎやかやね。」
瑞希 「うーん。ここだけやけどね。一本奥に入ると寂れるよ。」
確かに局地的に店が多い。例えるなら神戸市中央区と北区が隣り合わせ。え?わかりにくいですか?そうこう言っているうちにお店に着いた。
宗磨 「意外と近いやん。」
無視。中に入るとすでに女性のグループが2組いました。
店員 「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
瑞希 「8名です。」
店員 「お座敷へどうぞ。」
奥の座敷に案内され一息つくと「はっ」となった。結構な出費ですね。お昼はコンビニおにぎりで済まそうと思っていたのに。とか思っていたら。店内をきょろきょろ見渡す日富美がうっとうしく思えてきた。
紗希 「落ち着いて下さい。恥ずかしいですよ。」
完全に八つ当たりですが落ち着いてほしいのは確か。
由早 「まぁまぁ、いつも学食かファーストフードやからめずらしんちゃう?」
由早さんも何気にひどい。
宗磨 「やっと話しかけてくれたかと思ったらお叱りでしたか。」
泰河 「ツンですな。」
お、大蔵谷いたんですね。影が薄いので見落としていました。一番遠い席からの突っ込みに一瞬びくっとなってしまいました。
蒼甫 「豚と牛があるんやね。」
話を断ち切る上ノ丸さんナイスです。
由早 「かつめしの基本は牛やで。」
お冷とおしぼりを持ってきた店員さんが注文をとる。
店員 「お決まりですか?」
紗希 「琉球豚かつめしお願いします。」
瑞希 「私も。」
氶太良「えっと琉球豚の人。」
瑞希と都花、谷八木が手を上げる。私はかつめしが食べたいのであって琉球豚では無いので手を上げない。察した瑞希が店員に数量を告げる。
瑞希 「琉球豚4で。」
蒼甫 「じゃあ和牛の人。」
上ノ丸と日富美が手を上げる。この人たちは和牛に認定。
店員 「和牛2ですね。」
由早 「私は琉球豚チーズで。」
ここでもさらに乳製品を摂取とか貪欲ですね。ちらりと由早の胸のあたりに視線をやり思考する。だからこのクオリティなのでしょうか。
紗希 「以上で。」
なぜか注文を締めくくる言葉が口からこぼれてしまいました。
宗磨 「ちょ、泰河もおんで。」
完全に忘れていました。スルーされたのになぜか大蔵谷は満足げな表情を浮かべている。しまった。大好物でしたか。
瑞希 「大蔵谷君何する?」
瑞希が姉の失態のフォローに出る。最後に残された大蔵谷に自然と注目が集まる。
泰河 「ハ・・・ハンバーグ。」
なるほど。注目されるのは苦手なようですね。え?オタクでコミュ障で注目されるのが嫌とか、え?私こんなんじゃないですよね。こんなんとか言ってすみません。
宗磨 「あえて、ハンバーグとかやるな。」
会話の意味は分からないが大蔵谷はサムズアップで日富美の賛辞に応える。なんか嫌ですね。暫くすると料理が運ばれ昼食が始まる。2ヶ月前なら考えられない光景です。
宗磨 「紗希ちゃんはこういうお店よく来るわけ?」
何度言っても分からない人は何を言っても分からないと思うので無視。
瑞希 「あんまりこないねぇ。紗希ちゃんは料理上手だから自炊の方が好きだよ。」
余計なことを。これないのは財政的な事も大きいですよ。
宗磨 「まじか。食べたいなぁ。カレーとか。」
ほらね。こうなるでしょ。でもあなたが食べることは無いでしょうよ。
由早 「厳密に言えば、もうみんな食べたことあるよ。」
え?また由早さんがおかしなことを。記憶にないですよ。クラス違うから調理実習も違うし、ましてや家族以外に作った記憶がありません。由早さん捏造?
蒼甫 「課外学習のカレーやね。」
ああ、大きな寸胴で作ったあれですね。なるほどあれを手料理というならそうですね。由早さん捏造とか言ってすみません。
紗希 「私カレー作るの下手ですよ。カレー好きじゃないですし。瑞希の方がカレー上手ですよ。」
これで瑞希の方に興味持ってくれないかなぁ。でもなぜかカレーパンは好き。
宗磨 「氶よかったな。でもカレー嫌いとかおんねんなぁ。じゃあ得意料理何?何?」
しまった。会話をしてしまいました。そして甘かった。谷八木が嬉しそうに頷く。図に乗らせてもなんなので日富美は無視します。
瑞希 「パスタとかめっちゃ美味しいよ。お店のより紗希ちゃんの方が好き。」
また余計なことを。
宗磨 「パスタかぁ。部活の試合前とかいけるやん。」
いや、何がいけるのか分からないですが、そもそもパスタは出来たてじゃないと美味しくないですよ。私に現場で作れという事ですか?
蒼甫 「いや、のびるでしょ?」
由早 「そうだね。」
都花 「ははは。」
ひとりテンションの上がった日富美を冷静な人たちがたしなめる。つくづくこの人が頭いいというのが不思議。
宗磨 「そっかぁ。来るべき日が来るまでのお楽しみやな。」
その日は来ないと断言できます。呆れた顔で日富美を見ているとそれに気付いた日富美がにやりと笑う。イラッとしたのですぐに視線を外しご飯に集中。暫くたわいもない会話が続きご飯を食べ終える。お店を出ると再び図書館に向かう。線路を跨ぎ駅まで戻ってくると私も思っていた疑問を由早が投げかけた。
由早 「で、どの道通って来たん?」
日富美はスマホを取り出し由早に見せる。あ、スマホの地図は使ってたんだ。
宗磨 「この道が最短やからここを右に。」
由早 「なるほどね。あの陸橋地図に載ってないんやね。」
由早はそういって私の方にスマホを傾け地図を見せる。
紗希 「あ、なるほど。」
私の疑問を読み取ったのか由早が謎を解明させる。確かにこの地図だと住宅街に入ってしまいそうです。そう言う事もあるんですね。
宗磨 「そら迷うわ。地図にやられたな。」
いや、住宅街までの過程は仕方がないとしても以降の住宅街で迷ったのは自己責任ですよ。それにしても地図は車中心に描かれているのでしょうかね?エレベーターまで付いている大きい陸橋なのに載っていないとか。図書館に戻り暫く勉強するともう4時を回っていた。土曜日は8時までやっているが今日はここまでという事になり解散することになった。駅まで見送ろうかと由早が提案したが、空気を読んでいただき図書館での解散となった。都花は迎えを呼び、迎えを待つ間4人でぼーっとしていた。
由早 「紗希もだいぶ話せるようになって来たね。」
紗希 「いや、もともと会話位できますから。」
由早 「思ってるよりもコミュ障やって。」
デジャビュ。じゃなかった。二度目ですね。由早さんひどい。
瑞希 「確かに。」
こういう時妹は味方になるべきではないでしょうか。都花は?と都花の方を見る。何か意見を求められていることは理解したみたいです。
都花 「いいんじゃないでしょうか。」
明るくおどけて見せていましたが相変わらずのよくわからないフォローが慰められたようで惨めに思えてきます。
由早 「わざわざここまで来てくたんやからいい人たちやね。感謝せなね。」
瑞希 「紗希ちゃんの表情を読み取り図書館解散になったしね。」
いちいち引っかかる瑞希は無視してお礼を言う。
紗希 「いっちゃんありがとう。」
達というのが気になりますが都花には素直にお礼を言います。
由早 「言うと思った。男子もね。」
それも言うと思いましたよ由早さん。
紗希 「たの・・・」
由早 「頼んだ覚えはありませんよ。キリ。」
ここからは先の読みあいですか?
紗希 「だいたい姫路には私達が行ったのでお互い様ですよ。」
瑞希 「そう言う所がコミュ障。」
何ですか?2対1ですか?助けていっちゃん。と都花の方をむくと相変わらずにこにことこちらのやり取りを見ている。戦力外。
瑞希 「素直に感謝の言葉くらいいえないかなぁ?」
あ、本当だ。コミュ障っぽい。そういわれてしまうとどうしようもない。
紗希 「ここにはいないので明後日言いますよ。」
『居たらいうつもりでしたよ。』とかも考えましたが、『今からやろうと思ってたのに』とかいう小学生のそれに類似しているのでやめておきます。
由早 「おお、進歩やね。」
都花 「明後日楽しみやね。」
あれ?都花さんそっちサイドの方でしたか。味方でいてくれると思っていたのに。都花は最初から瑞希派ですもんね。




