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第21話 計ったな由早!

反対方面の都花達と別れた後やり遂げた感に満たされた帰りの電車はテスト明の放課後の様に体が軽かった。

由早 「何やらご機嫌やね。プレゼントうれしかった?」

忙しそうにスマホをいじりながらこちらにも気を配る。分かっているはずなのに的外れな質問。今度はこちらが誘いに乗らずにスルーする。

瑞希 「私は、まぁうれしいかな。」

こちらもスマホをいじりながら会話に参加する。谷八木から貰って上機嫌なのだろうか口が軽い。脇の甘いところを見せられてスルーするはずが誘引される。

紗希 「父上に報告ですね。」

瑞希 「いいよ。私がうれしかったのは氶君が紗希を助けたことやから。ちゃんと報告してね。」

そう来ましたか。やはり誘い出されてしまいました。「むむむ。」と考えていると瑞希がたたみ掛ける。

瑞希 「あとそれ誰得なん?瑠希ちゃんに知れたら紗希も大ダメージだよ?」

確かに。うっかり瑠希に聞かれるととんでもない事になりそうです。

紗希 「無かったことにしましょう。」

せっかく一難去ってまた一難とか一興ではないのでここは共同戦線と行きましょう。

由早 「ほほう。紗希とみぃちゃんの弱点は瑠希ちゃんやね。覚えておこう。」

由早がいたずらっぽくキラリと目を光らせて私の顔を覗き込む。私が嫌そうな顔をすると満足そうにする。なんなんですか?私に嫌がらせをして喜んでいるとか友達付き合い考えますよ。電車の車内はいつもの風景。いつもの風景に安堵を覚える。途中の駅でボックスの座席が空いたので座ることにした。コートの裾を捌きながら座ると端の方の人と目があった。すぐにこっちを見ていないよといった感じで目を逸らされた。いつもなら不快感を覚える所ですが、今日の出来事に比べたらなんでもない。他人からしたら何でもない事なのかもしれませんが、私はそれだけ大きなことを乗り切ったと思っています。

由早 「やっぱり機嫌がいいね。」

由早が面白そうに絡んでくる。

紗希 「そうでもないですよ。普通です。普通。」

私は由早の方を見ずに面倒くさそうにあしらう。

由早 「今日を乗り切ったことで、月曜日の勉強会が楽しみなんやね。」

突如提示されたイベントに息が止まる。

紗希 「・・・?」

すっかり忘れていました。そんなのありましたね。え?でも、いつとか聞いてませんでしたが?

紗希 「聞いてませんが?」

やっとの事で声を振り絞った。

瑞希 「言ってないし、急転直下で今決まりました。」

LIMEの画面を見せて決定を今報告される。グループLIMEには私以外の先ほどの一行の名前が行き交いしている。

紗希 「承知していないのですが。」

無駄なのは分かっていますがすがってみる。

瑞希 「私が代わりにOKって言ってあげたよ。」

無慈悲。

紗希 「いや、勝手に言わないでください。」

懇願。

瑞希 「じゃあ、LIME入る?」

無慈悲。

紗希 「いえ、結構です。」

LIMEとか面倒くさい。来たら返さないといけないし、返さないと次の日学校で返さなかった理由を聞かれるのも億劫で仕方ない。こういうのを青天の霹靂というのでしょうね。急転直下は私にとっては間違い。せっかく空のグラデーションが綺麗だとか言ってたのに空も私の心を酌んでくれたのか闇になっていました。時間が経過しただけですね。分かってますよ。空くらい味方にしたっていいじゃないですか。それからというものこの空の闇は朝が来るまで晴れる事は無かった。当たり前。


翌朝昨日の曇天が一転快晴。空にも見放された焦燥感が私を襲う。なぜあのタイミングで暴露されたのか分からない。深い意味は無いのでしょうが。これって土日憂鬱のパターンじゃないですか。いい天気なのに勿体ない。私が「嫌なことの時間というのはその事象が起こっている時間だけでなくその時が来るまでの時間も含まれると思うのです。」とかフラグを立ててしまったからでしょうか。色々と悔やまれます。

瑞希 「おはよう。」

時計はすでに8時を回っているが、ベッドから出る気がしない。幸い今日の朝食当番は私ではない。

瑞希 「おはよう。」

寝ぼけている風に布団を巻き込みローリング。ロールケーキ状態に変形。

瑞希 「おはようってば。月曜日の件キャンセルしといたから。」

餌につられた私が少し顔を出すとスマホを取ってLIMEの画面を証拠と言わんばかりに出す。出された画面のやり取りを目で追って確認し布団から這い出す。

紗希 「でかしました。」

流れを確認するためスマホを奪おうとするとさっと躱される。

瑞希 「土日ずっと空気悪いとかいややから。」

紗希 「もう無いという認識でいいですかね。」

瑞希の意見を聞かずに自分の思いだけを質問する。

瑞希 「それは紗希ちゃん次第ちゃう?」

何ですかその脅迫っぽい言い回し。

紗希 「私次第とは?」

瑞希 「さぁ・・・」

興味がないというような感じでスマホを触りながら返事を返す。あ、これは根拠のない適当な発言ですね。

瑞希 「まぁええやん。今のところは無くなったんやから。」

一縷の望みにかけて週末を過ごさないといけないとか誰得ですか?厳密に言えば違うのでしょうが瑞希、谷八木、日富美、上ノ丸この辺の得でしょうか?随分いるじゃないですか。面白がっている由早とか加えると過半数。

紗希 「信じてますからね。」

瑞希 「今のところはだよ。」

希が薄い。疲れた顔をしてリビングに降りるともっと疲れた顔の瑠希がいた。朝食の準備が整った食卓に着席する。瑠希の反応は無い。

紗希 「お、おはようございます。どうかしましたか?」

社用のスマホとにらめっこしている瑠希に思わず声をかけるのを躊躇しました。

瑠希 「あーおはよう。昨日入職した人がね、今日無断欠勤。そして先方さんからの問い合わせに対して「私には無理そう」とか。いつもながらじゃあなんで見学の時点で断らなかったと思うわ。」

何やら地雷を踏んだようでスマホを弄りながら瑠希の話は続く続く。半分聞き流しながらマグカップに注がれたミルクティーを口に運ぶ。

瑞希 「瑠希ちゃんの話は鬱になりそう。」

朝食のパンをかじりながら、瑞希がげんなりとしている。瑠希の話を要約すると、瑠希は一昨年より派遣会社でコーディネーターをしておりその愚痴。中には希に優秀な人がいてそのまま正規雇用になったりするのですが、なぜそのような思考になるのかという人が、瑠希が担当する人に多いという話。社会の陰鬱な一面を垣間見て未来に希望が見えなくなりそうになる。

紗希 「でもそれってどこの会社でもある話なんじゃないですか?議員さんだって失言で失脚とかよくあるじゃないですか?」

号泣していらした議員さんも居ましたね。

瑠希 「いや、割合の話だと思うよ。私の運が悪いのか、仕事の仕方が悪いのか今までの人生でこんなに人間不信になった事無いよ。」

まぁまだ人生前半戦ですけどね。消え入りそうな声で一層の悲壮感を醸し出す。

紗希 「お、お疲れ様です。」

これ以上この話題に触れるのはやめよう。沈む。瑠希は沈んでいる。昨日が何の日だったかとか触れる余裕すらないようです。これは瑠希には申し訳ないですが私にとっては好都合。沈んでなくても自分の誕生日忘れる人ですから触れないかもですが。やはりホワイトデーはバレンタインデーと違って存在感が薄い様ですね。

父上 「おはよう。」

しめしめと思っていると父上が元気に入ってきた。何かを持っている。私の危機感知システムが警鐘をならす。

父上 「はい。一日遅くなったけどホワイトデー。」

私と瑞希は持っていたマグカップを置くのも忘れてポカーンと口を開く。

父上 「ん?どうした?」

『瑠希ちゃんのいる前でなんてこと言うんですか。』と、心の中で叫んだが父上に言える筈もなく、本来やましいことが無ければ問題が無いわけで、その点では父上は悪くない。やましくもないのですが。

瑞希・紗希 「あ、ありがとうございます。」

そーっと瑠希の様子を窺うと目の奥に光が戻っていた。

瑠希 「あーありがとう。」

大げさに喜ぶ瑠希。これはプレゼントが嬉しかっただけでは無いようですね。

父上 「はい、ママも。」

父上が母上に包みを渡し二言、三言言葉を交わしているとリビングの戸がパタンとしまる音がして瑞希がいなくなった。しまった。逃げ遅れました。何もなかったかのように退室しようとする私に瑠希が呼びかける。

瑠希 「紗希ちゃん。友チョコのお返しもらった?」

無視して出ていくことも可能ですが、あらぬ想像をされても嫌なので迎撃する。

紗希 「友チョコの時点で交換なのでホワイトデーは特にないですよ。」

外堀を埋めて本丸を狙うつもりでしょうがそうはいきません。反撃です。

紗希 「瑠希ちゃんこそいっぱい買ってたじゃないですか、お返しとかあるんじゃないですか?」

瑠希 「あれは会社の経費で買っていますので個人の物ではありません。」

敵もさるもの隙を見せない。そして瑠希ちゃんのカウンター。

瑠希 「それよりも大量にチロル買ってたよね?ばらまき作戦?」

紗希 「あれは瑞希が買ってきたのですよ。部活で配るとかで。」

嘘は言っていない。買ったのは瑞希(出資は私)だし、部活(将棋部)で配った。父上が聞き耳を立てている。ほら、共倒れになりますよ。仕方ないですね、最終奥義です。

紗希 「そんな事より取引先に連絡しなくていいのですか?」

瑠希の目が瞬く間に光を失った。ごめん。お姉ちゃんごめん。


本来ならおうち大好きな私は休日に引きこもるのですが、瑠希の追及を凌いだ私は二次災害を回避するために外出を画策します。図書館、ストバ、ワクド、オゾンさてどれにしますかね。思案に暮れていると由早から珍しくLIMEが来た。

由早 『暇?』

「暇」一文字(疑問符は含みません。)とは失礼な人ですね。

紗希 『まぁ。』

二文字で返してあげました。

由早 『図書館。』

三文字ですかやりますね。図書館は自宅から自転車で10分。候補にも入っていたので悪くは無い。

紗希 『了ですよ。』

由早 『みぃちゃん。』

これは瑞希も誘えという事なのでしょう。お互いに文字数制限を意識して分かり難い。こんなやり取りでも通じ合うって流石由早。

紗希 『承諾しました。』

最後までルールにのっとりLIMEを終えた私は瑞希を誘いに二階へと階段を駆け上がる。

ん?私の方が3文字多く打たされた。コミュ障の私の方に多く文字を打たせるとはやはり由早侮れない。

紗希 「みぃちゃん。」

瑞希の部屋の前に来た私は戸をノックする。

瑞希 「はい。おまたせ。」

部屋から出てきた瑞希はもう仕上がっていました。そうですよね。私にLIMEして瑞希にしてない訳ないですよね。じゃあ、あの由早の『みぃちゃん。』は、瑞希にはもう伝えたからとかそういう意味だったのでしょうね。把握。由早もあれで伝わったとか思ってなくてこの子大丈夫かなとか思われていたのかと思うと恥ずかしい。なのでここは平常心で。

紗希 「早くしてください。行きますよ。」

100点です私。言葉とは裏腹に自分の部屋に入りいそいそと勉強道具を鞄に詰め直し出てくる。抜けていてかっこ悪い。

瑞希 「紗希ちゃんの方が遅いんですけど。」

瑞希の突っ込みを無視して靴を履き自転車の鍵を用意して玄関を開けながら図書館に行く旨を家族に告げる。いいとか駄目とか誰ととかの質問を回避するための方法です。不意を衝かれた瑠希ちゃんは追ってこられない。何か言ってそうでしたが聞こえない。玄関を締めてしまえば聞こえない。駐車場に止めてあった自転車を駆り図書館を目指す。

瑞希 「紗希ちゃん早い。待って。」

早いとか遅いとか騒がしいですね。図書館前まで来たものの開館時間は10時。まだ後5分ほどある。由早もまだ来ていない。外で待つのは寒かったので向かいのコンビニに入る。瑞希も付いてきた。何も買わないのも悪いのでおでんの蒟蒻と温かいミルクティーを買う。おでんの中では蒟蒻が好きです。コンビニを出てミルクティーと蒟蒻を食べていると由早がこちらに気付きよってきた。

由早 「食べ合わせ。」

言いたいことは分かりますが、否定するなら先ず実践してください。

紗希 「美味しいですよ。」

由早 「各々美味しいのは分かるけど、その組み合わせはないわぁ。」

まるで汚らわしいものを見るかのような目で私を見る由早。

瑞希 「いや。意外と行けるんだな・・・これが。」

過去に同じことを言って実践させた瑞希は私の味方。

由早 「そうなん?みぃちゃんが言うならそうなんかなぁ・・・」

何んですかこの瑞希贔屓。

紗希 「その言い方私が納得できませんが?」

むっとした態度で由早に抗議をするが取り付く島もない。

由早 「寒いしもう開いてるから入ろ。」

瑞希 「だね。」

「だね。」じゃないですよ。私帰ってもいいんですよ。しかし家に帰っても瑠希ちゃんが待っているので、今回は大人しく図書館に入ってあげますよ。


一番乗りかと思った図書館はすでに数人の人が入っていた。意外と人が多いことに感心した。私の中では「図書館=真面目」という印象なので真面目な方が多いんだなぁと勝手に感心しています。

由早 「あっち行こうか。」

由早は床から天井までガラス張りになっている壁沿いの席を指し示す。円形の図書館は中央部分の天井に明り取りがあり晴れていると池からの反射や直接の外からの明かり、天井からの明かりやらで光に包まれた気分になる特等席です。難点と言えば眠たくなること。

由早 「ここ。ここ。お気に入りなんよね。」

そういって背中に光を受けながら席に着く。神々しい。瑞希が由早の正面に座ったので私は由早の隣に座る。座って参考書を広げていると見覚えのある美少女が音を立てない様に早足で近付いてくる。え?都花?

瑞希 「いっちゃん。」

小さく呼んで胸の前で手を振ると都花はさらに速度を上げて近づいてくる。

紗希 「おはようございます。」

とりあえず挨拶したものの、「え?なんで?」ってなっています。

都花 「おはよう。」

都花の方は普段の学校の様にコートを脱いでたたみ椅子に掛ける。今日もかわいいですね。じゃなかった。なんで?

由早 「遠かった?」

都花 「車で送ってもらったから。」

私の疑問をよそに会話は進む。

由早 「じゃぁ別で来たんだ。」

ん?別?他に誰?このパターン良い予感が全くしない。この予感は的中していました。入口付近にきょろきょろした4人組の男子を発見。『傾向が分かっているので私が行かなければ成立しませんよ。』とか言っていたのに新たなパターンには無力。間もなくこちらに気付き真っ直ぐにこちらに向かってきます。私の平穏な日常という船が沈みかける中ドヤ顔の由早がこちらを見る。

由早 『フフフフフ、紗希、聞こえていたら君のコミュ障を呪うがいい。』

紗希 『なに?コミュ障だと?』

由早 『そう、コミュ障だ。』

紗希 『由、由早、お前は?』

由早 『君はいい友人であったが、君のコミュ障がいけないのだよ。フフフフフ、ハハハハハ。』

紗希 『由早。謀ったな、由早。私とて金ケ崎家の・・・』

って、私死ぬのですか?妄想しすぎました。

氶太良「おはよう。」

瑞希 「おはよう。」

谷八木は瑞希に一番近い席に座る。

宗磨 「おはよう。駅から迷ったわ。住宅街迷路。」

蒼甫 「先々行くから。」

いや、駅からバイパス越えて一直線ですよ。アプリで簡単に案内できるのに。スマホ持ってないのですか?方向音痴?その後納得いかないものの一通り挨拶を済ませて隣のテーブルに4人が座るのを確認すると由早が声を上げる。

由早 「さぁ、勉強会を始めよう。」

思わず、「アッシェンテ」と言いそうになりました。学校ならいざ知らず、公共の機関では声を上げる事すらできない。気にしない様に参考書の問題を進めていくと1時間が過ぎていた。由早が「うーん。」と背伸びをするとみんなもつられてストレッチを始め小休止となった。

紗希 「どういう状況ですか?」

由早 「ん?勉強会。」

悪びれる様子もなく由早は淡々と答える。

紗希 「私聞かされていませんよ。」

由早 「あれ?みぃちゃんから聞いてない?」

紗希 「聞いてないです。」

由早 「そうなんだ。『承諾しました』って?」

都合よく解釈してくれますね。私もか。瑞希に由早が視線を送ると都花と談笑していた瑞希がこちらに気付き、思う所があるのか席を立ちこちらに来る。私と由早の椅子の間にスカートを捌いてしゃがみ込むと見上げる様に小声で尋ねる。

瑞希 「どうしたの?」

紗希 「聞いてないですよ。」

瑞希 「ほら、憂鬱な時間から解放してあげたんよ?さほど嫌じゃないでしょ?」

心を読まれた?いや、態度があからさまでしたね。

紗希 「確かに・・・ですが聞いてませんよ。」

丸め込められるのが嫌なので、聞いていないの一点だけで議論する。

瑞希 「言ってたら、『傾向が分かっているので私が行かなければ成立しませんよ。』とかいって来ないか、来るまでの時間が憂鬱でしょ?」

確かに。って丸め込められそうです。しかし不思議と嫌ではない。図書館という空間がそうさせているのか私の位置取りが絶妙なのか瑞希に話しかける谷八木以外は視界に入らない。そうこうしているうちにお昼になった。

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