第16話 妹の恋愛事情と行き止まり
点呼も終わり一日が始まるわけですが、勉強会が憂鬱とか思っていたら今日は行われないようで日常が過ごせそうです。図書室に向かうと指定席が空いており満足気に占拠して参考書を開くと瑞希が胸のあたりで小さく手を振っているのに気が付いた。ああ、と思いながら手の振られている方を向くと谷八木達もこちらに手を振っていた。どう考えても付き合ってるんじゃないですか?付き合った事無いので分からないですが。あれですか、女と男の友情というやつですか?
由早 「みぃちゃんあれで付き合ってないっていうから不思議だね。」
私の横で谷八木に気付いた由早が私に耳打ちする。
紗希 「そうなんですよ。グレー超してダークグレーですよね。」
意味の分からない返しで由早に同意する。
瑞希 「どうしたの?こそこそして。」
感のいい瑞希が怪訝な表情でこちらを見る。
紗希 「瑞希と谷八木君が怪しくてお姉ちゃんキュンキュンしちゃいますって話ですよ。」
私のおどけた答えに対して瑞希が「はー」とため息をつく。
瑞希 「やっぱり。パピも言ってたじゃないですか。卒業するまで学業専念って。」
私が免罪符で使おうと思っていたのに瑞希に先手を打たれてしましました。侮れない。
由早 「それで谷八木君は納得してんの?」
瑞希はかわいらしく小首を傾げ「ん?」という表情でとぼけてみせる。将来悪い女になりそうです。いやもうなっているのですかね。
瑞希 「納得も何もあれ以来そういう話して無いよ。」
そうですね。今の状況でいい雰囲気なのに無理に押して今の関係を壊すのは得策ではないと打算的になるのも分からなくはありません。その場合確実に落とせる時まで関係を築いていくというのも選択肢としては間違っていないかもです。かわいそうにと谷八木の方を見ると気付いた日富美がこちらに手を振っていたような気がしたが見なかったことにしました。
そういえば去年のクリスマス前偶然瑞希が呼び出された場面に遭遇しました。偶然ですよ。偶然。部室に迎えに行くと都花がひとりで待っていました。
紗希 「瑞希は?」
都花 「ん?なんか用事があるらしくって。」
由早 「用事って何?」
都花 「ん?なんだろう。」
この子に隠し事とかできないようですね。女子とは元来おしゃべりが大好きな生き物で恋バナともなればどこからともなく漏れてしまうものです。
茶道部「金ケ崎先輩呼び出されたって?」
茶道部「だれ?誰よ?」
茶道部「知らんけど食堂っていってたよ。」
茶道部「ちょ、見に行こう。いくやろ?」
茶道部の後輩たちはどこで知ったのか興奮気味で声が外までダダ漏れでした。都花の頑張りは無に帰しました。
都花 「ははは。」
そうですね。笑うしかないですよね。隠していたことは責めませんよ。むしろナイス友情です。隠しきれていませんが。
紗希 「ちょ、見に行こう。いくやろ?」
後輩の真似をして誘ってみましたが意地悪なだけで効果はありませんでした。
都花 「いやぁ。流石に私たちはだめでしょ。」
ここまでばれていても頑張る都花には瑞希にばれた場合ちゃんとフォロー入れますね。でも見に行くのはやめませんよ。由早も都花を同行させるのは酷と思い理解を示すがやっぱり行くのはやめない。
由早 「そうやね。いっちゃんは無理やね。紗希行こか。」
紗希 「りょですよ。」
急いで食堂に向かう。ゆっくりしていて機を逃してはもったいないですからね。と思っていたらとぼとぼと男子生徒が出てくるところに遭遇した。この人?いや断定するのは早計ですね。足音がしない様に茶道部の後輩たちとゆっくりと且つ迅速に食堂に侵入する。腰高の窓の下に滑り込み背を壁に体を添わせる。ゆっくりと上体を起こし窓を覗き込む。しかし誰もいない。遅かったのですか?じゃ瑞希はどこ?
瑞希 「何しとんの?」
不意に後ろからハイキングのイチゴ味のストローを咥えながら出てきた瑞希に話しかけられた。
紗希 「急に何やら特殊部隊の潜入工作員ごっこがしたくなってですね。茶道部の後輩さん達を巻き込んで今に至るわけですよ。いいダンボールないですかね。」
瑞希 「ふーん。」
「何しとんの?」とか聞きながらも現状を大方理解している瑞希にそんな言い訳が通じる筈もなく冷ややかな目で見つめられその矛先は茶道部の皆さんへも向けられていた。
由早 「後輩ちゃん達といっちゃんは悪くないからね。」
被害を最小限に減らすべく由早が周りを庇う現実的な行動に出た。
瑞希 「ふーん。とりあえず部室戻ってね。」
冷ややかな表情を保ったまま後輩ちゃん達に圧をかける。怖い。
茶道部「はい。」
後輩ちゃん達も普段と違う瑞希に気圧されて即答する。
瑞希 「あ、ちょっと待って。」
出ていこうとする後輩たちを止めて瑞希は少し考え込む。後輩さん達もびくっとするが素直に立ち止まりこちらを向く。
瑞希 「来年受験なのでそういうのは今は無いと理解していただいただけです。あと他言無用です。言いたいこと分かってくれますね?」
穏やかな表情で語りかけるが目が笑っていない。怖い。
茶道部「はい。」
瑞希 「じゃあ、部室戻ってください。」
にっこりとした表情で手を振っている姿が怖い。茶道部怖い。瑞希怖い。
由早 「さて、うちらも戻ろっか。」
由早がゆっくり立ち上がりスカートを払って何事も無かったかのように立ち去ろうとするのを瑞希は許してくれなかった。
瑞希 「そんなに急がなくてもいいよ。」
紗希 「いや、いっちゃんも待ってると思うし。」
とりあえず三人でいるのが気まずいというか怖い。
瑞希 「聞きたいことあるんとちゃうの?あとからいっちゃんの前で聞くとか無しやからね。」
なんで都花に聞かれるのが嫌なのか分かりませんでしたが、さほど気にすることもなくここで完結したいのだろうと思い話を進める事にしました。あまり怒ってなさそうでよかったです。
由早 「じゃあ何やったん?告白?」
瑞希 「そうだよ。付き合ってくださいって言われたから、「今はどなたともお付き合いする気はないです。それでも答えが必要でしたらお答えします。」って答えただけ。」
光景が目に浮かびます。こんなこと言いながらも表情はにっこり瑞希ちゃんスマイルなのでしょうね。やっぱり怖い。というか、言い方に血のつながりを感じずにはいられませんね。
由早 「それで。」
瑞希 「「ありがとう。また機会があったら。」って。」
このやり取りがあった時、後輩ちゃん達の中に中等部の子も混ざっていたのでそれが谷八木の妹だったのかもしれないと思えば、多少なりとも谷八木の耳に入り、強く押せないというのも分からなくはありませんね。
過去の出来事に思いを馳せていると1限目が終わることを告げるチャイムが鳴る。案の定
日富美たちが立ち上がりこちらに向かってくる。随分と仲良くなった気でいらっしゃるのですね。でも由早や都花に用事があるかも知れないのでこっち来ないでともいえませんね。避けてトイレに行くのも癪なので机に突っ伏して寝たふりを敢行する。
由早 「あ、触ったら嫌われるで確実に。」
人が後ろに立つ気配がしたので嫌な予感がしましたが、由早さんが未然に防いでくれたみたいです。ありがとうございます。
宗磨 「お、おう。」
その返事の仕方だと呼ぶという行動に託けて触る気だったのですね。狡猾。
氶太良「あ、俺前やらかした。ごめん。」
そうです。よく覚えていましたね。そして謝罪。誠意を少し感じました。
由早 「多分起きてるけど、自分から話すまで待っといたほうがええよ。」
いや、起きてますけどばらさなくてもよくないですか?そういうこと言うから私が変な子に見られるのですよ。と人の所為にしてみましたが、反省するところは多々あり申し訳ないです。由早さんの私の取り扱い説明書的なフォローは有難いです。
宗磨 「了解。俺嫌われとんの?」
表情は見れないので分かりませんが、この前のトーンより元気がない。私の悪いところは下手に出られると申し訳なく思ってしまう所です。
由早 「本人に聞いたら「そんな事は無いですよ。」って返ってくると思うで。」
そうですね。嫌いって程ではないですね。いうなれば無関心。そっとしておいてくれれば問題ないですよ。私がしゃべらなくても会話が成立する由早さんはすごい。たまに大きく間違えていますけどね。暫くの沈黙の後何を感じ取ったのか日富美の声は元気を取り戻した。
宗磨 「そっか。また来るわ。」
だから、来なくていいです。そっとしておいてください。谷八木は瑞希と都花とそれなりに盛り上がっている様子だがもう日富美の声は聞こえない。かといってすぐに起きるのもどうかと思い状態をキープする。待ちかねた始業のチャイムが鳴り私はむくりと上体を起こす。
由早 「おはよう。」
読みかけの文庫本にしおりを挟み手提げにしまいながら目も合わせずに挨拶をする。寝てないと知ってるくせに意地悪だ。
紗希 「おはよう。」
由早 「どうすんの?」
どうすんのってあなたたちがまいた種じゃないですか。あたかも他人事のように言ってのける由早さんはひどい人です。
紗希 「どうもしないですよ。」
どうするも何もどうしていいのか分からないです。
由早 「またくるよ?」
来るたびに寝たふりは流石に滑稽ですね。
紗希 「誰のせいだと思っているのですか?」
由早 「誰のためやと思っとんの?」
腹が立ちますね。あの無表情な顔。しかし言い争っていても解決しませんね。どうしよう。いい考えも浮かばずポチポチとスマホをいじっているとまた休み時間を告げるチャイムが鳴る。普段は休み時間大好きなのに今日はメランコリック。やはり寝たふりは滑稽なのでスマホをいじって話しかけるなオーラを出す。頑張れ私。
宗磨 「お、今度は起きとうやん。機嫌直った?」
さっきも起きてましたけどね。機嫌は元から悪くはない。悪ければ90分そこらで良くなるものでもない。
宗磨 「SNSなんかしてる?LIME交換しよ。」
来た。面倒くさいやつ。そんなのに答える筈もなくスルー。
宗磨 「番号教えてよ。」
しつこいなぁ。周りの眼もあるので簡潔にお断りして黙ってもらいます。
紗希 「家族と由早といっちゃん意外とは交換しません。しても既読スルーなので用がある場合は瑞希経由でお願いします。」
黙ってくれなかった。
宗磨 「やっと口きいてくれたと思ったら断りとかついてないわ。でも前進やね。」
ついてないって運が良ければ交換できると思っているのでしょうか?何が前進?謎だらけ。
宗磨 「というわけで瑞希ちゃん交換してくれる?」
話を聞いていなかった瑞希はきょとんとしている様子。谷八木もあっけにとられている様子。
宗磨 「いや、紗希ちゃんと連絡取りたいんやけど瑞希ちゃん経由でって。」
瑞希 「ああ。いいですよ。でも紗希ちゃん伝えても返さないんでそこは了解してくださいね。」
友達の友達だと交換に抵抗は無いようですね。
宗磨 「いいよ、いいよ。障害が大きいほど達成したとき気持ちいいから。」
こういう考え方は嫌いではないのですが、自分がその障害で、乗り越えられるとか気持ち悪い。瑞希は何の抵抗もなくスマホを取り出して日富美とLIMEを交換した。その光景を谷八木は何とも言えない表情で見つめていた。そんな顔するんだと、やり取りを眺めているとこちらに気付いたらしく表情を戻した。彼女でもない瑞希には何も言えない。これ完全に瑞希にやきもちですよね。瑞希さん悪女。
宗磨 「ありがとう。これでまた一歩前進やわ。」
そこからは行き止まりですがね。




