第10話 口角が上がると危険です。
部活も終わり下校の時間を迎える。3月ともなると春めき、日によってはマフラーが荷物になる。手提鞄からひょっこり顔を出したマフラーは春の訪れを見据えているようだ。瑞希達と合流すると珍しく瑞希が肩を寄せて手を握ってくる。
瑞希 「丞くんとは何もないよ。ただの友達。」
どういう風の吹き回しか瑞希の方から話し始める。聞いていいのか戸惑う由早は居場所を探すように少し下がる。
瑞希 「由早ちゃんも聞いてね。じゃーん。というわけで土曜にみんなでお買い物に行きましょう。」
というわけでと前文がつながらないのですが?どういうことでしょう?約束してしまった以上行くしかないですね。にしても由早と都花まで巻き込まれたのですね。御気の毒に。4人で買い物って久しぶりですね。買い物と言っても特に何を買いに行くわけでもありません。ぶらぶら服とか小物を見てお茶をする程度の事です。あ、でもせっかく姫路行くならメガネ新しいの欲しいですね。レンズに傷が少し入ってしまったので。とか思っているとお買い物が楽しみなのか反対側の手を由早に握られた。なにこれ?ロズウェル事件ですか?負けじと都花も瑞希の反対の手を握る。あ、広がり過ぎですよ通行の邪魔になるので端によって下さい。通行の迷惑なんじゃないかと落ち着かないので瑞希と握っている方の手を離し2列になると落ち着いた。小さいな私。そこそこで由早とも手を離した私とは違い瑞希と都花は駅までしっかりと手をつないでいた。手汗かかないのかな。
電車に乗り駅に着くと瑞希が小腹がすいたとコンビニの肉まんを要求してきた。普段買い食いはしない私ですが、今日の件もあるので私が瑞希の分も買おうとするとコンビニのおばちゃんが話しかけてきた。
パート「はい肉まん二つね。双子さん?ようにとんね。美人さんやねぇ。」
紗希 「はぁ。」
突然の事でどう答えていいか分からない私は無愛想に返事をする。おばちゃん声大きいですよ。
瑞希 「そうです。ありがとうございます。」
愛想よくニッコリと答える瑞希も声が大きい。チラチラとレジに注がれる視線が痛い。
パート「うちの甥のお嫁さんが双子なんよ。」
いや、それ単なる他人ですから。私たちが双子とわかると自分の知り得る一番近い双子を探して報告される事がよくありますが、それを聞いてどうすればいいのか分からない私は「はぁ。」とだけ返す。
瑞希 「へぇ。そうなんですか。」
話広げますね・・・おばちゃん仕事してくださいよ。
パート「お姉ちゃん達その制服京神?賢いんやね。うちの姪は順常いっとんよ。」
このパターンもあります。制服で学校を言い当てると自分の知り得る一番賢い親戚を報告して来るパターン。私たちよりも偏差値の高い学校を出されると「凄いですね。」とでも返せますが、そこそこ賢いが偏差値的に下の学校を出されると返答に困ります。
瑞希 「いえいえ遊んでばかりですよ。順常いいところですよね。」
本人は本当にそう思って言っているらしいが傍からはそう見えない。遊んでばかりで学年一桁とかチート設定ですか?いいところって行ったことあるのですか?京神生が順常校をいいところとか慇懃無礼じゃないですかとか思いましたが、おばちゃんは満足そうに「そうなのよ。」と返す。差があると思っていた私の方が見下してました。すみません。コンビニを出ると肉まんを頬張る。あったか美味しい。滅多にしませんからね歩き食い。おうちまで待てないわけじゃないですけど冷めるとね、悲しくなるじゃないですか肉まん。
瑞希 「土曜日楽しみ。」
肉まんを頬張りながら唐突に話を切り出す瑞希にそう言えばそんな面倒な事ありましたねと思い出す。休日はなるべく家でごろごろしている派の私としてはそれなりに大仕事。一緒に行くのがいつもの3人ということだけがせめてもの救い。
紗希 「ついて行くだけですからね。」
瑞希 「いいよ。来てくれるだけで。」
なんか引っかかりますね。怒っていた割に低い要求とか、今の言い方とか。ニコニコしている表情とか。
紗希 「何か隠してます?」
瑞希 「だから氶くんは単なる友達だって。しつこいなぁ。」
紗希 「いや、そういうことじゃなくてですね。わかって言ってます?」
この流れでその返答はおかしいです。私より聡い瑞希が取り違うとか不自然じゃないですか。
瑞希 「ん?どういう事?」
紗希 「分からないならいいです。了解しました。」
あれ?本当に取り違えましたか?ならいいのですが。でも腑に落ちない。私の了解を聞いて瑞希の口角が上がった様な気がした。




