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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

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神山蒼空は一人苦悩する

 蒼空は訓練場に居た。

 クリミネルの中に居ると時間の感覚が失われるが体内時間で恐らく深夜は回っているだろう。

 蒼空はまだ一六歳だ。高校にだって通っている。と、いっても隼人が造った簡易的な高校になるが。

 未成年の彼が遅くまで家に帰らないのは家人が心配する。けれど、蒼空はもう何日も家に帰ってはいない。クリミネルの中で寝泊まりしているのだ。最初の方は両親もできるだけ家に帰る様に言ってきたが今はもう何も言わなくなっていた。

 たまに家に帰った時はとても喜び、クリミネルに戻る時は何か言いたそうにするが結局何も言わずに見送ってくれる。

 分かっている。そんな彼らに甘えているのは。けれど、二年経った今でもまだ慣れないのだ。静まり返った家。家の一角に置かれた見慣れない仏壇。一つ少なくなった部屋。

 其れらを見る度に思う。もっと強ければ、と。

 「くそっ」

 蒼空は訓練場で木刀をひたすら振っていた。無心になりたくて。けれど直ぐに気を抜けば二年前、いずなの左足が飛び、舞子が体を強くコンクリートに叩きつけられ動かなくなった。そして青い炎に包まれた鷹人のことが浮かぶ。

 結局、蒼空は誰も守れなかった。藍華のことも。


 もっと強くなりてぇ


 額から汗が落ちる。

 全身、汗まみれだ。一〇時間以上も木刀を振り続けていたが体は疲れを通り越して何も感じなくなっていた。

 乱れた息を整え蒼空は汗でべっとりする体をシャワーで流した後はクリミネルで与えられた自分の部屋に行きベッドの上に仰向けになる。だが、眠さは来ず知らない間に朝になっていた。

 「アンタ、また訓練場に籠っていたの?」

 呆れたようにいずなが勝手にズカズカと部屋に入ってくる。

 「ノックぐらいしろよ」

 「今更でしょ」

 「・・・・・・」

 「あまり無理しすぎると任務に支障が出るわよ」

 「嗚呼、分かっている。気をつけるよ」

 いずなは絶対に家に帰れとは言わない。蒼空が家に帰りたがらない理由を察し気を遣っているのだ。

 「其れよりあの子達、自分の問題点に気づきチームでの方向性も一応見つけたみたいよ」

 「ソルダはソルダで、白鬼隊は白鬼隊でチームワークを高めるんだろ。確かにあいつらは其れすらできてないからな」

 「何だ知ってたの?」

 いずなは仰向けになっている蒼空のベッドの上に腰かける。

 「お前が会議室に居た時俺も近くに居たからな」

 「気になってたんだ、あの子達」

 「二年前の俺達だからな。バラバラで、突っ走ってた」

 まだ誰も死んでいなかった時のことを思い出したのかいずなは懐かしそうに眼を細めた。

 「そうね。ねぇ、アンタは白鬼隊のことをどう思っているの?鷹人の敵でしょ」

 「アイツは直接白鬼隊にやられたわけじゃない。力の使いすぎだ」

 だから恨んではいない。そう蒼空の目は語っていた。

 「そういうお前はどうなわけ?鷹人と違って一宮は白鬼隊にやられたんだろ」

 「そりゃあね、最初はふざけんなって思ったけどでも接しているうちに」

 「情が湧いた?」

 いずなは苦笑した。其れが答えだった。

 「お人好しだな」

 「そうかもしれない。でも、其れ以上にもう嫌なんだと思う。殺したとか殺されたとか」

 「・・・・そうだな」

 何となく重い空気になったのでいずなはわざとらしく明るい声を出し、勢い任せに立ち上がった。

 「あの子達の訓練に付き合いに行くわよ。アンタはどうする?」

 「もう少し休んでから行くよ」

 「分かったわ。じゃあ先に行くわね」

 そう言っていずなは出て行った。蒼空は何の色もついていない天井を見上げた。

 セカンド世代のチームワークは最悪だ。自分達も上手いかと言われればそうでもない。でも、鷹人がそんな自分達に指示を出し、藍華が調整をしているような感じはあった。

 出すぎている人間には必ず注意をしていたし、だからこそ形だけでも保てていたのかもしれない。

 「藍華、鷹人。お前達が今此処に居たらどうしてただろうな?」

 呟かれた言葉はあまりにも小さく天井に届くことなく空中で飛散した。

 意味のないことを柄にもなく考えた自分に苦笑し、蒼空はクリミネルの制服を着て訓練場に向かう為に部屋を出た。

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