戦士と眠り姫
問題は抱えたままだが渋谷での作戦は無事終了した。今日はみんな任務で疲れているので明日もう一度クリミネルで会う約束をして解散した。
仲間と別れた彰は無事に帰還したことを藍華に伝える為に藍華が眠る部屋に入った。
ドアを開け、中に入って彰は直ぐに足を止める。其処には既に別の人物が居たから。
「こんにちは」と笑顔で言われたので取り合えず「こんちには」と返した。
「えっと、誰?」
「嗚呼、ごめんね。俺はフェイク」
フェイクの髪は白鬼と同じだけど目が黒い。
「白鬼の人じゃないですよね」
「違うよ。俺はゼロ世代だから」
ゼロ世代。聞いたことがある。
確か孤児を集めて行われた実験の被験体。体に直接コアを埋め込み、大量の呪符を張り付けて其の力を制御している。
ファースト世代のソルダの基盤となった実験だと言われているが此の男の見た目はどう頑張っても二〇代ぐらいだ。ゼロ世代にしては若すぎる。
「もしかして疑っている?」
「あなたはゼロ世代というには若すぎますから」
「嗚呼、知らないんだね。ゼロ世代は不老だよ」
「は?」
「ある一定の年齢に達したら体の衰えが止まるんだ。此れは最近になって分かったことなんだけどね、コアを直接体に埋め込んでいるゼロ世代は体にかかう負荷が大きすぎるんだ。体が衰えるとコアの負荷に耐えきれなくなるからね。コアが其れを阻止する為に体が衰えていくのを止めるんだ」
コアには意志がある。其れは藍華を始めとしたファースト世代が証明している。体の死はコア自身の死でもある。死を恐れるコアは死なない為に体のつくりを変えるのだ。だから彼の話には頷ける部分がある。其れでも不老というのは俄かには信じ難い。
「不老であっても不死ではない。ゼロ世代で生きているのはもう俺だけだ。後はみんな死んでしまった。今は少しでも長生きする為に全戦から離れているけどね」
「どうしてコアを取り除こうとはしないんですか?俺達みたいに遺伝子にコアを移植されているのなら無理ですけど、あなたは違う。取り除くことはできるはずです」
「そうだね。でも、そうすると守れないから」
そう言ってフェイクは優しく藍華の頭を撫でた。
とても愛おしそうに「大切な人の忘れ形見なんだ」と言った。
「其れって」
「嗚呼、違うよ。恋人とかそういう意味じゃないから」
「そうなんですか」
「そうなんです。少し似ているのかもしれないけれど似て非なるものかな」
よく分からない。そんな彰の心が伝わったのかフェイクは苦笑した。
「ゴメン、分からないよね。俺もよく分かっていないんだ」
「はぁ」
「俺はもう行くからあとはごゆっくり」
結局何しに来たのかは分からないが、彼は部屋を出て行った。
彰は藍華の傍に椅子を持って来て座る。
「ただいま帰りました、藍華さん」
藍華からの返事はない。二年前から彼女は眠ったまま目を覚まさないのだから当然だ。
「渋谷は無事、奪還できました。全員無事です。でも、俺達の闘い方じゃあ駄目なんだって気づいてしまいました。どうしたら藍華さん達みたいに戦えるんですか」
質問したところで返ってくる声はない。其れが悲しい。
固く閉ざされた瞳、口。
もう二度と彼女はあの綺麗な漆黒の瞳で自分を見ることはないのだろうか。
凛とした声で自分の名前を呼ぶことはないのだろうか。
そう思うと悲しくてたまらない。
絶対目覚める保障なんて何処にもない。其れでも『きっと』と信じてずっと待ち続けている。
「藍華さん。藍華さんが目覚めることには日本に帰れるように頑張りますね」
彰は最後に優しく藍華の頭を撫でて部屋を出た。
彰がいなくなり静寂が満ちた部屋で一人、眠りにつく藍華の指が僅かに動いた。だが、其れを知る者は誰も居なかった。




