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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

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渋谷奪還作戦始動中

 「ねぇ、白牙君また一人で行っちゃったけど大丈夫かな?」

 心愛は心配そうに珪が去った方向を見つめた。

 「知るかよ」と一世は素っ気なく返す。

 「けれど、敵地での単独行動は死を意味するわ」

 素っ気ない一世の態度を諫めるようにルルーシャは言った。すると、一世はルルーシャを睨みつけた。

 「そんなに心配ならお前らが行けばいい。其の方が俺も安心する」

 「どういう意味?」

 「白鬼隊なんか使用できるか。俺はお前らと戦う度に後ろから刺されないかヒヤヒヤしている」

 「何ですって!」

 「ルルーシャ」と白鬼隊の方からはイスファーンが彼女を諫め、ソルダの方では彰が一世を諫めた。

 「此れから闘いだっていうのに俺達が争い合ってどうするのさ」

 「事実だろ。此奴らは敵だ」

 「違う。仲間だ」

 「二年前、此奴らは俺達の国を滅ぼした。過去はなかったことにはならない」

 「そうだね。彼の言う通りだ」

 イスファーンは二年前のことを思い出す。幼い頃から白鬼として育った彼らにとって命令だけが全てだった。自由などなく、自由の意味すら知らずに生きて来た。

 「すまない、と思ってはいる」

 「馬鹿にしているのか!」

 「一世!」

 滅多に声を荒げない彰が今度は強く一世を諫めた。其処で彼は漸く白鬼隊から目を逸らした。

 「誰も忘れていない、二年前のことは。でも、彼らには彼らの、俺達には俺達の事情があった。みんな自分達が生き残る為に必死なんだ。ただ其れだけなんだ」

 バラバラだと夜無は渋谷に入ったメンバーを見て思った。

 敵地に居るのに統率が取れていない。そもそも心がバラバラなのに統率なんて無理な話だ。

 みんな其々にいろんな過去を抱えている。だから其れは仕方がないのかもしれない。

 「サウロンだ」

 重い空気のまま渋谷の奥へ進んでいくとサウロンが闊歩しているのが見えた。いち早く気がついた夜無が仲間に其れを告げる。サウロンは全部で三体はいる。此の人数なら余裕だ。

 「ネージュ」

 夜無の前に雪の結晶が現れた。此れが夜無のエヴァンジルだ。そして鷹人のエヴァンジルと同じで特殊能力を有する。

 「グラセ」と夜無が唱えるとサウロンの足元が凍り、彼らは行動を止めた。

 「プワゾン」

 髑髏のピアス剣に変え、一世が三体のサウロンを斬りつける。するとサウロンの全身に呪詛が回り、苦しみ悶え始めた。だが、ファースト世代と違って能力が制限されている分直ぐには死んではくれない。

 其処で白鬼隊のルルーシャが剣でサウロンに止めを刺した。

 彼らはエヴァンジルという道具を必要としてはいない。自らの血で武器を形成することができるのだ。

 一世は最後に止めを刺したのが白鬼隊というのが気に入らずに睨みつけていたが彰の手前喧嘩を売ることはしなかった。そんな二人の様子を見て彰は疲れた様に溜息を零した。

 渋谷奪還作戦終了は四八時間。まだ開始から一時間も経ってはいなかった。

 「何だか、大変そうだね」と心愛は険悪の雰囲気一歩手前の仲間の様子を他人事のように夜無に言った。

 「・・・・・」

 心愛は視線だけを向けて来た夜無にニッコリ微笑む。

 「次に行こうよ。クロワを設置しないといけないんでしょ」

 「そうだね」

 今回の目的は闇雲にサウロンを狩ることではない。クロワを四か所に設置することだ。此のクロワは見た目は以前と同じだが性能は違う。言うなればクロワ改良版だ。

 黒崎藍華が使用していたサン・グラールを分析し、其れに近い性能をクロワに新たに加えたのだ。残念ながらクロワ一つでは性能を発揮できない。

 クロワを四つ渋谷の端と端に設置し、線で結んだときに地区に大きな十字架ができるようにする。後はコントロールルームから遠隔操作で発動すると其の地区のサウロンが一気に石化するのだ。

 「手分けした方がいいんじゃないか?」

 「いや、サウロンが常に単体や少数で居てくれるは限らない。一撃でサウロンを倒せない以上纏まって動いた方がいいよ」

 安全第一の彰に肩を竦ませて一世は再び渋谷の中を歩き始めた。つられるように他のメンバーも足を進める。

 「暗いね。何だか、お化けが出そう」

 「居るわけねぇだろ」

 呆れながら答えた一世に心愛は不満そうに頬を膨らませた。

 「何で、目撃者だって居るじゃん!絶対にいるよぉ」

 「其れはそいつのただの勘違いだ」

 自分の意見を曲げる気のない論争は無意味なので心愛は直ぐに矛先を別に向けた。

 「いるよね、ルルーシャちゃん」

 「え?」

 まさか自分に矛先が向くとは思わなかったのでルルーシャはとても間抜けな顔をしてしまった。

 「いるよね」

 もう一度心愛が聞いてくる。聞いているはずなのに彼女からは「NO」と言わせない圧力があった。

 「はぁ」

 「ほら、いるって」

 「いや、彼女はそんなこと一言も言っていないから」

 心愛以外のメンバーが心に思ったことを彰は代弁した。

 「幽霊なんかいねぇよ。ただの勘違いだ」と一世はもう一度強く言うので隣で聞いていた夜無はつい口を出してしまった。

 「ならあなたは幽霊でもいいから愛しい人に会いたいという思いもそうやって否定するの?」

 其れは囁くような小さい声だったので一世にしか聞こえなかった。

 一世は夜無を見ることなく「そうだよ」と肯定した。

 彼には其の方が都合がいいような感じがしたので夜無は其れ以上は聞かなかった。

 ソルダと白鬼隊は極力サウロンとの戦闘を避けて渋谷の中を進んだ。

 「よし、設置完了」

 クロワの一つを設置完了した。

 「そろそろ休憩にしない」

 「でも、何処で休憩するの?」

 渋谷に入って一〇時間は経過している。其れまでに四度のサウロンとの対戦。サウロンを警戒しながら進むのにはさすがに精神を使う。

 「建物の中がいいんじゃないかな?」

 「誰かの家にするか。リビングとかなら直ぐに逃げられるし。カーテンを閉めていれば外のサウロンには気づかれない」

 ゼフェルと彰の提案に「えぇ、人の家に勝手に入ったら怒られるよ」と心愛が場違いな反論を示した。

 「怒る人間なんか今居ないだろ」とつかさず一世が突っ込んだ。彼女はどうも天然のようだが其のおかげで場の空気が和らぎ思った以上の精神的負荷は今のところメンバーにはかかっていなかった。だからこそ、彰は一人明かりのない渋谷を闊歩する珪のことが心配だった。

 「彼のことが心配?」

 普段は殆どは話さないくせにこういう時だけは夜無は固い口を開ける。

 「彼は今一人だからね」

 「放っておけよ。アイツは一人が好きなんだろ」

 一世はそう言うが、彰はやはり心配だった。あまり交流がないとはいえ同じソルダのメンバーに選ばれた仲間だから。

 「何処に居るかも分からない彼を探すのは無理よ。其れに運よく鉢合わせても彼は合流を拒むでしょう」

 夜無の意見に彰は反論するどころか其の情景が目に浮かぶので珪のことはひとまず放っておくしなかった。取り合えず一同は手頃な家に入り、カーテンを閉め、念の為サウロンが居ないかを確認した後は退路の確保。其処までして漸く休憩だ。

 敵地なので完全にリラックスはできないが四方を壁に囲まれるのはとても安心できる。

 「はい、昼食」

 彰は鞄から一人ひとりの携帯食を取り出した手渡した。

 「此れ、あまり美味しくないんだよね」

 「文句言わないの」

 携帯食しかないので心愛は溜息をつきながら其れを食べた。やはり美味しくはなかった。まぁ、まずくもないので其処がせめてもの救いなのかもしれない。何の救いかは知らないけれど。

 「クロワはまだあと三つもあるのか」

 「制限時間もまだ余裕があるから大丈夫だよ」

 「早く帰りたいね」

 「そうだね」

 任務中はお風呂にも入れないので女子には辛いのだ。体は汗でベトベト。やはり女の子なのでこういう時はあまり男子に近づいて欲しくはない。

 ソルダのメンバーがリビングの真ん中で休憩している最中、ゼフェルはカーテンの隙間から外を窺っていた。

 「ゼフェル君も休憩したら?」

 「している」

 「警戒するのもいいけど、しすぎたら後がもたないよ」

 「・・・・・」

 彰はニッコリ笑って手招きをする。確かにまだ任務は続く。休憩はしっかりとっておいた方が良いと思い直し、ゼフェルもリビングの真ん中に座る。

 「一時間後に任務再開しようか」

 彰は手首につけた時計で時刻を確認する。人のいない渋谷は夜になると完全な闇だ。其処でサウロンと戦闘になると完全に不利なので任務は明るいうちに行うことになっている。


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