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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

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渋谷奪還作戦始動中 ~珪の場合~

 他のメンバーが人の家で休憩をしている頃、珪はクロスする十字の真ん中に居た。周りにはサウロンの死骸があり、生き物は彼以外にはいなかった。

 一人、闇の中に居た。

 太陽も出ているし、まだ昼前なので明かりが無くても其処は明るかった。だが、珪には其処が底知れぬ闇に見えた。

 「殺せ、殺せ、殺し尽くせ」

 珪は呪詛のように繰り返し呟き、再びサウロンを求めて歩き始める。彼の中には他のメンバーのことなど入ってはいなかった。ただサウロンを倒すことだけが今、彼を占めているのだ。

 「見~つ~け~た~」

 サウロンが珪の存在に気づき、彼を囲い込む

 「シャン」と珪が言うと黒い犬が現れ、サウロンに噛みつく。此れが彼のエヴァンジルだ。サウロンに跳ね返されても上手に地面に着地し、再びサウロンに食らいつく。

 ソルダである珪は其の間無防備になる。だがそんなことは気にしない。サウロンが珪を襲ってきても珪は逃げようとはしなかった。地面に転がされ、またがってきたサウロンを珪は見つめた。其の顔には笑みが浮かんでいる。

 「ほぉら、シャン。早くしないと俺殺されちゃうよぉ。あはは」

 <死ヲ恐レヌカ>

 「あははは、喋った。喋ったよ、シャン」

 シャンは目の前のサウロンを倒し、急いで珪を襲っているサウロンに噛みついた。サウロンは慌てた様に珪からどく。

 体を起こした珪はシャンがサウロンを嚙み殺している様を無表情に見つめた。

 サウロンを全て片付けるとシャンが近づいて来たので珪は其の頭を撫でた。





 珪には親と妹が居た。其れに大きな黒い犬を飼っていた。

 「ただいま」と珪が学校から帰ると直ぐに飼い犬がお出迎えをしてくれた。リビングでは妹がおもちゃで遊んでいる。

 「お帰り、珪。もう直ぐ夕ご飯できるからもうちょっとだけ待っててね」と母の優しい声がした。

 父は一八時には必ず家に帰って来ていた。たまに残業とかもあって夜が遅くなる時もあるけど其れでも家族を大事にしてくれていて、仕事が終わると真っ直ぐ家に帰って来てくれる優しくて真面目で温かい人だった。

 「珪は大きくなったら何になるんだ?」

 「そんなのまだ分かんないよ」

 未来に不安などなかった。確かにまだ未定だったけどなりたいものを見つけて、其れを叶えて幸せに暮らすんだと確証もないのにそう思っていた。あの日までは。

 「みんな逃げなさい」

 見たこともない化け物が家を襲った。父はそいつから家族を守ろうとしていた。でも、あっけなく死んだ。びしゃりと水がはじけたような音がして、でも其れは水ではなくて父の体内で循環しているはずの血液だった。

 半狂乱になって何かを叫んでディアーブルに突っ込んだ母は憑依された。

 逃げればよ良かったのに。あの日、妹を連れて早く逃げれば良かったのに。突然壊された日常。意味の分からない化け物。

 混乱する頭では逃亡することすら浮かばず、ただ茫然と母だったものを見つめた。

 「お兄ちゃん、お兄ちゃん助けて。痛いよぉ、怖いよぉ」と泣き叫ぶ妹を母は殺した。そして、母の標的が自分になった時、初めて我に返った。

 珪は自分の姿を見た。父や妹の返り血で汚れていた。そして母も同じ血を浴びて汚れていた。

 母が、優しくて愛情をたっぷり注いでくれていた母が息子(自分)を殺す。

 殺される。そう思った瞬間、珪は台所に走って行き。包丁を持った。其れで何をしようとしているのかあの時の自分は考えていなかった。

 ただ死にたくないと此のままじゃあ殺されるからと思った。思っての行動だった。

 でも、気がついたら自分が持っていた包丁は母の心臓を貫いていた。

 珪は自分が生きる為に母を殺したのだ。




 目の前に憑依された人間が居た。

 「シャン、殺せ」

 シャンは珪の命令に従い、人間の喉元を嚙み千切った。ぴしゃりと水が弾ける音がした。珪の顔半分と肩に人間の血液が付着した。でも、何も感じなかった。

 「殺せ、シャン。殺して、殺して、殺し尽くせ」

 珪は狂ったように言う。そんな珪をシャンは見つめた。黒点のような闇が見つめる中珪は人のいなくなった渋谷を闊歩する。

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