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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

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渋谷奪還作戦始動

 週に何回かはセカンド世代と白鬼隊で戦闘訓練をしている。ファースト世代は寿命も短いので極力後方支援という形で戦闘に参加している。

 今回は戦闘訓練ではなく日本奪還作戦だ。此れはもう何回目になるか分からない。作戦と言っても一つの地区を絞ってただひたすらサウロンを駆逐するだけだ。

 セカンド世代の彰、心愛、珪、一世、夜無の五人。白鬼隊のゼフェル、イスファーン、ルルーシャが作戦に参加する。ファースト世代であるいずな、蒼空は伯明、夏帆と共に艦隊で待機。問題があれば上陸し支援することになっている。

 一度も学校に来たことがない珪だが、彼はサウロンとの戦いが気に入っており作戦には必ず参加する。今も興奮気味に渋谷へ向かう艦隊の中から外を見ている。

 「早く、早く着いてくれよ。ヒヒヒヒヒ。楽しみだ。またたくさん殺したいな」

 不気味な笑みを浮かべながら呟く珪に好き好んで近づくものはいない。

 「此れ美味しい。夜無ちゃんも食べなよ」

 心愛は大好きなお菓子を食べていた。隣で本を読んでいた夜無に勧めるが無視される。

 「甘いもの嫌い?」

 「・・・・・」

 「ほら、ああーん」

 口にうりうりとお菓子を押し当てるがいつものことなので夜無は完全に無視する。其れでも止めない心愛に彰が「気が向いたら食べるんじゃないかな。少し残しておいてあげたら」と提案する。

 今から戦闘に行こうなどという雰囲気が微塵もない。

 「呑気ね」といずなは呆れながら呟く。

 「下手に緊張されるよりはよっぽどいい」

 そう言った蒼空の左目は黒い眼帯で隠されていた。

 戦闘中に負傷したのだ。神経までやられた深いものだった。今までなら問題なくコアの力で治癒できただろう。でも、遺伝子抑制剤の薬の影響で今までできていた重症の治癒ができなくなった為蒼空は左目に眼帯をつける羽目になった。

 もし、薬がもっと早い段階で出来上がっていたらいずなの足も戻らずに一生車椅子生活だっただろう。

 一日でも長く生きたい。でも仲間や家族を守る為に今まで以上の力を望むことはやはり傲慢なんだろうか。

 いずなは緊張感の欠片も見せず、現場に着くまで思い思いに過ごすセカンド世代と白鬼隊を見て傲慢、なんだろうなと思った。

 「おーい、着いたぞ」と艦内居た戦闘要員に伯明から声がかかった。

 「やっとか」と一世は船旅に飽きた声で言った。

 夜無は変わらず無表情だ。

 「うーん」と気持ちよさそうに背伸びをした心愛は「久しぶりの渋谷だ」とまるでショッピングにでも行きそうな雰囲気だ。

 「早く、早く殺してぇ。たくさん、たくさん殺してぇ」と珪は変わらず興奮状態。

 そんなセカンド世代を見ていずなは蒼空に聞こえるように「多少の緊張感は必要よ」と言った。蒼空から返答はなかったが彼も同意していることは見れば分かる。付き合いも長く、任務で四六時中一緒に居たせいか、蒼空の読みにくい感情でもいずなは分かるようになっていた。

 ファースト世代、セカンド世代、白鬼隊は艦隊の外に出た。

 澄んだ空気は吸いこむだけで気持ちが良いが日本のサウロンは艦隊から見ただけでも分かるぐらいサウロンの巣窟と化していた。

 「みんな、私と蒼空は艦隊で待機だけど何かあれば直ぐに駆けつけるからね。あまり気負わないで。いい、突っ走らず必ず自分と仲間の位置を確認するのよ。サウロンは一人じゃ倒せない。助け合うのよ」

 いずなの激励に一同は無言で頷く。此処まで来ればさすがに戦闘モードだ。ただ一人を除いて。

 白牙珪だ。彼は今も興奮状態でくだらない激励よりも早く殺したい、戦いたいとギラギラ光る眼が言っている。一番厄介なソルダだといずなは内心警戒していた。其れは勿論、いずなの半歩後ろに居た伯明も思っていた。

 蒼空からの激励はない。彼は今までそんなことをしたことはない。基本的に激励はいずなや伯明の役割だ。

 「じゃあ作戦開始な。作戦終了時間は今から四八時間後だ」

 今回の作戦、伯明も艦隊で待機になっている。二年前と違い戦闘要員は多いので伯明が現場でフォローに回ることは少なくなっていた。

 最後に「幸運を祈る」という伯明の激励を受けてセカンド世代と白鬼隊は艦隊を降りた。

 艦隊を降りて直ぐ珪は「殺すぞ。殺しまくるぞ」と言って勝手に言ってしまった。此れはいつものことだ。最初こそ仲間はそんな彼の暴走を止めようとしたが今はもう止める者すらいない。

 「アイツ、また勝手に」と艦隊から見ていたいずなは珪の独断専行に舌打ちをした。

 「いつものことだろ」

 「でも死ぬ可能性だってあるのに」

 「案外、死にたかったりしてな」

 一人、サウロンの中に消える珪の背後を見ながら蒼空は言った。いずなは彼の言葉を聞きながらもう一度珪の方を見たが其処にはもう珪の姿はなかった。

 残りのメンバーも既にサウロンを探しに渋谷の中に入って行った。

 「頑張んなさいよ」と呟いたいずなの言葉を聞いているメンバーは当然いない。

 艦内で自分達よりも年下の彼らが無事に帰ってくることを祈るしかできないいずなは自分がそういう立場になって初めて自分達を戦いに向かわせていたクリミネルの職員の気持ちが分かったのだ。

 

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