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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

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好きな人





 学校終了の鐘がなり彰は面倒なのに捕まる前に教室を出た。

 今日の晩御飯は何にしようと考える。昨日はチャーハンにした。其の前はハンバーグだ。ヘルシーさを考えて豆腐ハンバーグにした。祖母には高評価だったが、姉には評判が良くなかった。まぁ、お肉の代わりにお豆腐を使っているのだ。確かに物足りない感はあるのかもしれない。でも最近、また一段と太った気がするから低カロリーの方が良いと思う。

 此のままだと絶対に行き遅れる。でも祖母は孫に甘い。何でも好きなものを食べさせるからぶくぶく太るんだよなと彰は溜息をついた。こんなことを考えていることが日名子にばれたら間違いなく鉄拳が飛んできそうだが此処は中学校。高校生になった日名子は居ないので好きなだけ心の中で貶しておく。

 そんなことをしているものだから罰が当たった。「彰君」と女子から声をかけられた。げっと思いながらも気づかれない様に「何?」と笑顔で振り向く。こういう時、人間関係は面倒だと思う。

 佐久間さんみたいに無視したり一世みたいに「うぜぇ」の一言で片づけられないのが彰の人柄だ。

 「話があるんだけど」

 「今日は予定がないから早く帰ってゆっくりしたいんだけど」

 「ソルダの訓練大変そうだもんね」

 「本当、ソルダの人達って凄いって思うよ」

 彼女達は今日の朝、校門の近くで彰の好きな人の話題で盛り上がっていた子達だ。津々ヶ谷結子つつがやゆいこ、桐谷たかきりたに、そして彰に気があり『好きな人がいる』という情報の真意を一番確かめたいと思っている但馬亜矢子つしまあやこの三人。

 「其れはどうも。なら帰るよ」と踵を返す彰の前に「ちょっと待った」と言いながらたか子が立ちはだかった。

 「何?」

 「アンタって好きな人いるの?」

 彰と三人の女子は同じ学年の同じクラスだけど(一クラスしかないので)仲が良いわけではない。挨拶は基本なのでされたらするが其れ以外で会話をしたことがないのだ。つまり極端に言えば彰にとって彼女達は初対面と同じ感覚なのだ。其れなのにいきなり「好きな人はいるのか?」というのは不躾ではないかと彰は笑顔の裏で感じた。

 「其れは桐谷さん達には関係ないよね」

 「たか子ちゃん、もういいよ。末守君も忙しいだろうし」

 亜矢子は彰の前に立つたか子の所に行き袖を軽く引っ張ってぼそぼそとそんなことを言っていた。彰は人よりも耳が良いので普通なら聞こえない音量の声でも聞こえてしまった。

 「亜矢子は黙ってて」というたか子の言葉に彰は脱力しそうになった。元は彼女の友達である亜矢子の為に彼女は此処にいて不躾な質問をしているはずだ。なのに其の彼女を蔑ろにするのは可笑しくはないかを思った。亜矢子も亜矢子で彰に対して申し訳ないと思っているのならもっと強く出ればいいのに彼女は結局自分の意見を引っ込めてしまった。

 この何とも言えない状況を早く脱したいと彰は切に願った。

 彰に好きな人がいると余計な情報を流した元凶の結子は成り行きを見守るだけで関わる気はないようだ。

 「用は済んだ?なら帰るよ」

 「いや、まだ済んでいないし」

 どうやら質問に答えるまでは帰してくれる気はないようだ。女子のこういう時の団結力って男の自分には全く理解ができない。

 「好きな人の有無ってプライベートの質問だよね。そんなのに答える義務はないと思うよ」

 「誰にも漏らさないから」とたか子は言ったが女子の言葉を彰は信用できない。何故ななら自分の姉がそうだからである。

 「絶対に言わない」と言いながら直ぐ余計な情報を祖母や周りに漏らすのだ。だから彰は「絶対に言わない」とか「私は口が堅いから」という女子の言葉を一度も信用したことがない。

 第一「此れ誰にも言わないでね」という女子に限って自分で漏らしていたりするのだ。中には本当に口の堅い女子がいるかもしれないがそういうのを見極める力が彰にはない。だから最初から信用しないことにしている。

 でも言わない限り此処を通してもらいそうにない。ならばと彰は尤も女子に好まれる笑みを浮かべる。彼は自分の顔が女子にどれだけの影響を及ぼすか知っている。だから其れを最大限生かせるのだ。

 案の定、前に立っていたたか子も其の横にいた亜矢子も頬を赤く染めている。

 彼は留めとばかりに顔を近づけ艶っぽい声を出し再度言った。

 「君達には関係ないよね」

 さっきと同じ言葉だが二人は赤面し、コクコクと首を上下に振る。結子だけは何の反応もなく見ているだけだが彼女は二人に付き合っただけで真相はどうでもいいみたいなので其のまま放置して彰は二人の横を通り過ぎた。

 何とも面倒なものに捕まったと嘆息しながら彼は帰路に着いた。


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