羨望
始めまして。私の名前は佐久間夜無。セカンド世代と呼ばれるソルダの一人だ。
両親はいない。生きているのか死んでいるのかも分からない。顔も知らない。私の出身は孤児院になる。
色とりどりの目や髪の色を持った子供の中で黒髪黒目という前時代の日本人の特徴を持って生まれた珍しい子供だ。自分で言うのもなんだが。
私に友達は居ない。無口で愛想がないというのが一番の要因だろう。だが、其のことを特に何とも思っていない。そもそも学校のカースト制度は友達の人数やメンバーによって決まるようだがそういうの面倒だから関わらない。
誰かに気を遣って生きるのは苦手だ。だから友達は要らない。そう思っていたのに。
「おい、ソルダの佐久間さんだ」という声が校門を潜って直ぐに周りからする。
「すげぇよな。あんな化け物と戦うんだぜ」
「格好いいよな」
「俺も戦ってみてぇ」
「あんたじゃあ無理よ」
なんてみんな好き放題言ってくれる。元々友達は居ないので、付き合いづらい性格というのも功を奏してか遠巻きに見られることが多いが、視線がうぜぇ。
「嫌気がさすよね」とさりげなく声をかけて来たのは同じソルダの末守彰だ。
夜無の視線に気づいた彰はにっこり笑って「おはよう」と声をかけてくる。当然、無視だ。
彰は気がついていないが結構女子に人気がある。彼の笑顔に周りの女子からピンク色のオーラが見える。人のオーラが見えるなんて能力は持ってはないが、其れでも見えるぐらい女子から黄色い声が聞こえた。
「やっぱりいいよね。彰君」
「あの甘い笑顔が素敵」
「彼女とかいないのかな?」
「私立候補したい」
「アンタなんか相手にされるわけないじゃい」
「そんなの分からないよ」
「でも、彰君好きな子居るみたいよ」
まさかの爆弾発言に騒いでいた二人の女子は桜色の髪を二つ結びした結子を見つめる。
「嘘!」
「本当だよ。告白した子がフラれて『付き合っている子がいないなら私と付き合ってよ。好きな子ができるまででいいから』って言ったらしいの」
「うわっ。厚かましくない其の子。何処の誰よ」と横やりが入ったが結子は気にせずに続けた。
「そしたら彰君『じゃあ君と付き合うのは尚更無理だよ』って言ったらしいよ。其れってつまり好きな子が居るってことじゃないの?」
「でも、曖昧な表現じゃない。断言しているわけでもないし」
「まぁね」
「そいつ、其処突っ込まなかったの?」
「さぁ。其処までは聞いてないから。気になるなら本人に確認してみたら?」
などと三人の女子が話している間に彰は夜無と一緒に校舎の中に入った。背後でしている三人の女子の会話は当然彰の耳にも入っていた。
面倒だなと心の中で彰は溜息をついた。
そんな彰を横目で見ながら夜無はつくづく自分がモテる側の人間でなくて良かったと。
しかし夜無は気がついてない。性格に難がある為表だってアタックしてくる人は居ないが彼女の見た目は人並みよりもいい。室内で過ごすことを好むせいか肌は白く、顔も整っている。
夜無と彰の席は離れている為、教室に入ると二人は直ぐに別れた。校門から教室まで夜無は結局一言も口を利かなかった。教室に入っても拒絶を示す様に直ぐに自分の席に戻る姿を見つめて彰はまだ仲間として心を開いてはくれないんだなと少し残念に思った。
「何を見ているんだ、彰」
そう声をかけて来たのは赤い髪と金の瞳をした鬼塚一世だ。
一世は彰の視線の先を追って其処に夜無を見つめて顔を顰めた。
「幾ら何でも付き合う女ぐらい選べよ」
何か変な勘違いをされた。
「そんなんじゃないよ」
「そうなのか?さっき女子共が騒いでただろ。お前に好きな女がいるって」
どうやら同じ時間帯に彼も校舎の外に居たようだ。
「君がそんな話を振ってくるとは思わなかった」
「何で?」
「明らかに興味なさそうな顔をしているから」
「どんな顏だよ」と一世は呆れた。
「甘い顔をの王子様とまで呼ばれているお前を虜にしてしまう女に興味持つのは友人として可笑しくはないと思うけど。で、どうなの?」
「内緒」と言えば一世は「あっそ」と簡単に引き下がる。
彼は彰の性格をよく理解している。彼が言わないと言えば絶対に口を割らないので無理に聞き出そうなどという無駄な労力は使わない。
別に隠すことではないが友達に好きな人の話というのは何だか気恥ずかしくて彰は口にしたくはなかったのだ。其れに藍華は美人なので知られて興味を持たれたくないというのも大きい。
「おーい、彰、一世」
数人の男子が楽しそうにやって来た。
「お前ら、昨日サウロンと戦ったんだろ」
エデンに移り住んでからサウロンの襲撃はない。今のソルダの役割はサウロンからの日本奪還だ。艦隊を使って日本に行き、サウロンの駆除に当たる。一日でも早く故郷に帰りたいと言うのが日本人の総意だ。
「俺も戦ってみてぇ」
「なぁ、エヴァンジルってやつ発動してみてくれよ」
一世と彰を囲む男子は喜々として色々な質問や要求をしてくる。ソルダに選ばれなかった彼らにとってはゲーム感覚なのだろう。分からなくはないが配慮に欠ける。男子の会話が耳に入って来た周囲の人間は顔を顰め嫌悪を露わにしていた。だが、全ては男子達の背後で起こっていること。其の為、彼らは周囲が自分達をどんな目で見ているかに気づけなかった。
「なぁなぁ、サウロンと戦うのってどんな感じ?」
「お前らうぜぇ!」
元々気の短い一世だ。彼らの言葉に悪意がないのは分かっても其れを受け流す器量はない。
「そんなに闘いのなら勝手に日本に行って戦って来いよ!」
「何だよ、偉そうに」
一世の態度が不満だったのだろう。男子達は不機嫌な顔をする。今すぐ殴り合いの喧嘩が始まりそうだと彰は内心ヒヤヒヤした。
「命がけの闘いがしたいんだろ。日本に行けば好きなだけできるぜ。もっともお前らが映画やドラマの主人公になれるかは不明だが」
「エヴァンジルがないのに戦えるわけがないだろ」
「エヴァンジルがあっても同じだ」
反論しようとした男子達を今度は女子がヴ―イングした。
「そうよ、男子」
「遊びじゃないんだからね。少しは考えなさいよ」
其処で彼らは初めて自分達がクラスの殆どを敵に回してしまったことに気づき、反論を止めて大人しく席に戻った。
みんなの為に特殊な武器を使用してサウロンという化け物と戦う。戦っている本人達にとっては大変なことだが確かに実際に命がけで戦ったことのない人が憧れるのは分かる。実際にソルダは学校中の憧れの的となっている。
「はぁーい、ホームルーム始めるよ」と先生が名簿を持って入って来た。其処でクラスの空気が重いことに気づき「どうしたの?」と聞いて来たが「何でもない」とクラスの誰かが答えると先生は不思議に思いながらも追及はしなかった。
「白牙は今日も欠席か」
先生がクラスの重い空気よりも気になるのは入学から一度も学校に来ないクラスメイトの白牙珪だ。
「彼、ソルダだよね」
先生はソルダのメンバーの顔を一人ひとり見ている。
「学校に来るように言ってくれないかな」
「無理だろ」
一世は即答した。
「アイツ、狂ってるし俺らとも関わりねぇし」
「そんなこと言わないでよ。同じクラスメイト。命を預け合う仲間でしょ」
「あんな奴よ一緒にするな」と一世は素っ気なく言う。
一世の気持ちはソルダのメンバーなら同意してしまうぐらい彼は異質な存在だ。
「先生」
「何、壬生」
「白牙君はクリミアにも滅多に来ないので伝えるにしても時間がかかると思います」
心愛のセリフに「そうか」と先生は疲れた溜息を吐いた。不登校生が居ることで校長や教頭辺りにでも嫌味を言われているのだろう。推測だが。教師も大変だ。




