表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/69

愛睦

 クリミア総司令官、黒崎勝成は最期まで己の使命を全うし研究所と共に死亡

 ソルダ開発第一責任者、黒崎仁美はトライゾンの研究所近くで死体が発見された。銃殺だった。

 日本初のソルダ黒崎藍華は未だ意識が戻らず新たに用意されたクリミア本部の奥深くで深い眠りについている。

 残された愛睦は誰も居ない家に一人。

 簡単な料理ぐらいはできる。藍華にいろいろ教えてもらっていたから。お金はクリミアから出されている。取り合えず愛睦が成人して、自分で稼げるようになるまでは、とうことで。たまにいずなが様子を見に来ることもある。其の為、生活に不自由はしてない。

 エデンで新たに用意された部屋は一軒家だ。リビングには栄養ドリンクの空の瓶が転がっている。リビングだけではない。玄関にある靴箱の上にも。其れにキッチンにもある。

 二年経っても愛睦の整理整頓をしないところは治っておらず、ベッドの上には空のペットボトルや使用済みのティッシュまで転がっている。

 「ちょっと愛睦、あんたたまには片づけないさいよ!」

 意外に面倒見のいいいずなが今日も愛睦の家に押しかけて来た。

 前まではいずなは愛睦のことを『黒崎姉』と呼んでいた。だが此処二年で二人の関係が劇的に変わった為、今では『愛睦』と名前で呼んでくれるようになった。

 「片付けてるもん」

 正直、愛睦はいざいと思っている。

 「何処が片づけてんのよ!其処ら中ゴミだらけじゃない」

 「ゴミじゃないもん」

 「じゃあ何だって言うのよ!」

 いずなは腰に手を当て、前のめりになって愛睦に尋ねてた。愛睦は不機嫌に口を尖らせて顔を背けるだけだ。

 最近になって分かったことだが愛睦は都合が悪くなると黙る。

 藍華は愛睦を甘やかしすぎだと今も深い眠りについている藍華をいずなは心の中で叱った。

 「まぁまぁ、先輩。取り合えず片付けましょうよ」

 たまにいずなと一緒に彰も愛睦の家に来ることがある。いずなの両親や蒼空、鷹人の両親は「一緒に住まないか?」と何度か愛睦を誘ってきたが愛睦は全て断った。

 元々、人が嫌いで、必要以上に人付き合いをしたがらない愛睦にとって他人と暮らすのは何よりもの苦痛なのだ。其れに藍華が目を覚ました時待つ人が居る。目を覚ますかどうかは分からない。けれど目を覚まさないと断言できない以上愛睦は待ち続けるつもりだ。そして其処はやはり他人の家ではなく家族の家で待ちたいと思っている。

 両親がして来たこと、藍華がしてきたことを知った時は正直、何も感じなかった。そもそも現実味がなさ過ぎて何を思っていいのか分からない。其れが愛睦の本音だった。

 ソルダ開発のことや仁美の裏切りで心無いことを言う人も居る。でも、こうして気にかけてくれる人も居るので愛睦は取り合えず何とかやっていけている。

 「嗚呼、もう何よ此れ。ちょっと脱いだ服は洗濯機に入れなさいって言っているでしょう!」

 洗濯物を持って怒りながら脱衣所に向かういずな。床に転がった下着を見てしまった彰は赤面して顔を背けていた。

 一人暮らしになってから洗濯機は一週間に一回はするようになった愛睦だが、いずなが脱衣所に行けば山のような洗濯物が待っていた。洗ったところで干せる場所があるか不明だ。そもそも此の量は洗濯機を三回以上は回す必要がある。

 其の労力を考えていずなは溜息をもらすが洗濯機を一度も回さなかった愛睦の当初を思うとまだましになったのかといずなは苦笑して洗濯を始めた。

 「そう言えば、愛睦」

 洗濯を終えてリビングに戻ると愛睦もゴミ袋片手に片づけを始めていた。一人ではしないが誰かが始めると一緒になってするので愛睦は片づけができないわけではないのだ。

 「前から思ってたけど家族写真とかは飾らないの?」

 リビングに飾られているのは友達や藍華とのツーショットの写真ばかりで家族四人が一緒に映っている物は一枚もなかった。というか両親が映っている写真が一枚もないのだ。

 「だってないもん」

 「一枚も?」

 「うん。家族写真は藍華と二人で映ったものしかない。家族旅行とかもしたことがないし、そもそもあまり家に居ない人だったし」

 そう、二人とも滅多に家に帰る人ではなかった。今思えば日本を守る為に働いていたのだから忙しいのは当然だと思う。でも、二年前までは知らなかったので医療関係者とはそんなに忙しいのか。なら自分は絶対になりたくないなと愛睦は思っていた。

 そもそも愛睦は自分さえよければいいと考えているし、其の自覚もあるので誰かの為に其処まで頑張れるクリミア関係者の気持ちが愛睦にはよく分からなかったのだ。

 「だから意外と広い家に一人って慣れているかも。藍華がソルダになってからは帰らない日も多くなったし」

 「・・・・寂しくはないんですか?」

 彰は恐る恐る聞いた。

 愛睦は「別に」と素っ気ない答えを返したが無表情の顔から其の答えが本心なのか二人には見抜くことができなかった。見抜ける人間はもう此の世にただ一人。深淵に捕らわれたままクリミアの最奥に居る一六歳の少女だけだ。

 「そうだ。昨日作った煮つけが余っていたから冷蔵庫に入れておいたよ。今晩食べな」

 いずなは空気が重くならない様に話を切り替えた。其れに彰は直ぐに乗った。

 「俺もコロッケを冷蔵庫に入れているので。まぁ、藍華さんの味には遠く及ばないかもしれませんが」

 「そんなことないよ。藍華と同じくらい美味しい。二人ともありがとう」

 「そう言ってもらえると嬉しいです」

 和やかな会話をしながら三人はテキパキ片づけをして序に食事も一緒にして時計が一九時を示す頃二人は帰って行った。家族の待つ温かな家に。

 いきなり静かになった家は電気がついているのについていない時と同じくらい真っ暗な気がした。

 リビングにいても仕方がないので愛睦は寝室に行く。隣の部屋は藍華の寝室になっている。日本を離れる際に何も持ち出せなかったので其の部屋には何もない。

 使う人間も居ないのだ。たまに掃除はしているが部屋に入る度子供が空だと分かっていながら其れでも宝物があるんじゃないかという在りもしない期待を抱いて箱の中を覗き、がっかりする時の気持ちと同じ気持ちになる。だから愛睦は藍華様に用意されている部屋に入るのが嫌だった。でも、いつか帰ってくるかもしれないから掃除しないわけにもいかないので彼女は週に何回かは部屋に入って掃除をしている。

 もうあれから二年も経ったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ