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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第一二章 先へ

 何がどうなっているのか分からない。

 流コウは隼人の命令でトライゾンに侵入していた。天井裏を使って音を立てない様に注意しながら研究所内を進む。

 そうすると下から『将軍』と呼ばれる男と『来須』という男が日本に攻め入る話をしていた。

 えぇ、なんじゃそりゃあ。今は人間同士で争っている場合じゃないでしょうが。正体不明のサウロンとかいう化け物を倒す為に手を組んで戦いべきじゃないのかと思っていたら。あらやあらやと言う間に日本で見た黒崎藍華が誘拐されて来た。

 彼女は実に冷静に、騒ぐこともなく、どんな相手がこうようとも臆することなく話をし従順を装っていた。本当に一四歳の女の子かよ。下手な二〇歳そこそこの奴らよりも大人じゃんと感心していたが、一つ気になったことがあった。

 まぁ、トライゾンが日本に戦争を仕掛けたことで美玖のことや佐夜子のこととか心配事はたくさんある。隼人ととの話の内容をばらすことができず、二人には調査の為に外国に行くことだけは伝えてある。理由を言えないと言ったコウに何か言いたそうな顔をしていたが結局二人とも何も言わずに見送ってくれた。そんな二人の安否が心配だが、此処で仕事を放棄して日本に帰っては意味がないので、不安を何とか胸の奥に仕舞いコウは少し黒崎藍華について監視してみることにした。

 其処で気になったのが藍華がトライゾンに来てから何も口にしないことだ。ある程度の自由は保障されており、食事も三食必ず出ているが藍華は食事には一切口をつけていなかった。何か入っているのか疑っているのかもしれない。もしくはやはり、祖国に戦争を仕掛けた国に攫われて精神的ストレスが原因で食べれない可能性もある。

 なんだかんだ言っても彼女はやはり一四歳の女の子なんだとソルダのことを詳しく知らないコウは結論付けた。

 監視付ではあるが黒崎藍華は研究所内を歩き回り始めた。何かを探しているのかもしれない。コウは天井裏を伝い藍華の後をついて行く。すると、許可がないとは入れないというドアの前に行き着いた。距離がある為、藍華と『将軍』と呼ばれている男の話を全て聞くことはできなかったがかろうじて聞き取れたのは『人造人間』という言葉だ。

 ソルダのことといい、白鬼隊のことといい今回の人造人間といい今の世界には倫理観というものが欠如している。此れも生存意欲がなせる業なのかと半ば呆れながらもコウは藍華が進めなかった先に進めた。さすがに天井裏には扉がない。

 コウが進むのは簡単だった。だが其の先には地獄が待っていた。人間の傲慢が形となって現れたようだ。

 両開きドアの先にあったのは血に汚れた手術室。こんな所にある手術室が真っ当な使われ方をしているとは思えない。其れを部屋全体も教えてくれているのか、薄暗く狭い部屋には鉄錆の臭いで噎せ返っている。吐きそうになる口を押えてコウはカメラを構えた。愛用のカメラではなく無音の設定が施された携帯のカメラでだ。

 写真を撮り終えたコウは更に奥へ進む。次にコウが見たのは檻に入れられた白髪に赤目の少年少女。骨が浮き出て、ガリガリの彼らはお世辞にも健康的とは言い難い体型をしている。目は空虚で、其処には『無』が存在していた。

 彼らは上に居る白鬼隊とは少し違うような気がした。彼らは幼い時から戦闘訓練を受けている為、其れが洗脳のような作用をもたらし任務に忠実な人形のような子供もいる。其れでも仲間に対する何らかの感情が目に映ったりする。決して『無』などではない。

 人間としては彼らを助けてあげたいが今のコウにそんな力はない。当然だ。彼はジャーナリストで専門的な訓練も受けていなければ戦闘能力もないのだから。

 コウは子供達の写真を撮った。全員分。

 次は何が出てくるんだと心の中でトライゾンに対する嫌悪を抱きながらコウは更に奥へ進む。其処あったのはホルマリン漬けにされたサウロンと人間だ。

 「本当にあいつ等一体、何をしているんだ」

 広い部屋で所狭しに置かれた人間とサウロンのホルマリン漬けはかなり不気味だ。

 誰にも知られたくなくて、そして誰も知らないのだろう。さっきからコウが天井裏を慎重に進んでいる研究所の恐らく最奥になるんだろうが。其処には人が全くいなかった。おまけに監視カメラさえない。コウにとっては好都合だ。

 コウは其れでも人が居ないことか慎重に探りながら天井裏から出た。同じようにカメラで状態を収め、コウはメモリーカードを取り出して、コンピューターに差し込んだ。メモリーカードは順調にコンピューターの中に入っているデータをコピーし始めた。

 「こんな所で何をしているんですか?」

 背後から女の声がした。こりゃあ終わったなと思いながらコウは降参の意味を込めて両手を上げて後ろを振り返った。

 其処にはこんな状況なのに妖艶な笑みを浮かべる美しい化け物が確かに存在していた。

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