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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第一一章 母娘Ⅳ

 仁美と別れた後、藍華は自分の部屋に戻り、ベッドの上に仰向けになった。

 仁美に思ったことを言ったことは数えるぐらいしかない。昔は今よりもまだ言えていた。でも、時間が経つごとに言えなくなっていった。

 幼い頃、今もそうだが愛睦は人の物を平気で使う。使うだけなら間でいいのだが、使って其のまま何処かに放置して失くしたり、壊したりする。今でも怒ることはあるがだいたいが溜息一つでなかったことにするようになった。

 昔は愛睦が自分の物を使う度に、壊す度に怒っていた。ある時、愛睦が人のサンダルを勝手に履き、脱ぎ捨てた。しっかりと揃えてくれていたならいいけど、脱ぎ捨てたのだ。其れも勝手口に。今はないが昔は勝手口にボイラーがあった為、愛睦によって脱ぎ捨てられたサンダルは運の悪いことにボイラーの中に入り、片っぽだけだが、焦げてしまった。とても気に入ってたいので当時の藍華は泣きながら愛睦に怒った。だが、愛睦は『知らない。履いてない』と言い張る。肯定しなければ言い逃れができると思ってるのだ。

 其の考えは黒崎家では正しい。幼い子供のサイズのサンダルなど履く人間は藍華と愛睦しかいないのは事実でも其れは証拠にはならない。まぁ、黒崎家では証拠があろうがなかろうが関係ないが。

 サンダルのことで藍華が愛睦を責めていると、仁美は藍華を叱った。『そんなことぐらいでいちいち怒るな』と大げさに溜息をついて。幼い藍華には衝撃的だった。どうして自分が怒られるのか分からなかった。疑問を口にすると更に怒られた。最終的に手が出てくることもあった。

 また、愛睦が藍華の服を勝手に着用するというのもよくあるもので、其れは今でも行われている。『其れは私のだから着るな』と抗議すれば『私も同じものを持っている。同じものを買った』と言う。そして其の服が黄ばんで、使い物にならなくなると『此れが藍華のでしょ』とよく返してくるので『そんなもの要らない』と一喝する。

 服の件でもそうだが藍華が愛睦を責めると必ず仁美は藍華を叱った。『服をしっかり仕舞っていなかったあんたが悪い』、『使われたくないのなら自分なりの工夫をしなさい』と。実に理不尽だと藍華は思った。

 タンスに仕舞おうがクローゼットに仕舞おうが人のいない間に勝手に入って勝手に持っていくのにどうしうろというのだろうか。そもそも何故、其処まで自分が気を遣わなければならないのかという不満は常にあった。だが、不満を爆発したところで仁美から手が出てきたり、物が飛んでくるだけだ。

 そんな様子を勝成は見て見ぬふりをする。同情の眼差しを向けては来るが助けてはくれない。今思えば勝成は仁美の事情をある程度知っていたのだろう。だから仁美の気持ちが分かり、咎めることができなかったのかもしれない。でも、其れは大人の勝手というものでだから藍華に当たっていいと言う理屈などありはしない。そもそも当たられた藍華はどうすればいいのだろう?

 藍華は幼いながらも自分が仁美に嫌われていることは分かっていた。意見を言ったところで通じないのならと多くの言葉を呑み込んだ。けれど、呑み込んだ言葉は消えたわけではない。

 呑み込んだ言葉は藍華の体内に入り、蓄積されていった。其処で知らされた仁美の過去。ふざけるなと藍華は思った。仁美に会って、仁美の話を聞いて感情が爆発するというのはこういうものかとも思った。自分が仁美に歯向かうなんてソルダになって、こんなところに来なければ実際にはなかっただろう。

 藍華は今、敵国に居る。生きて日本に帰れるのか不明。可能であったとしても限りなく低いだろう。そんな中で全部がどうでも良くなって、仁美の過去を知って、彼女も人間なんだとそんな当たり前のことを思ったら自然と仁美に歯向かっていた。其のことを藍華は後悔していない。


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