第八章 休息Ⅳ
「まぁね。私も話す人間は限られてたけど、全員の顔と名前は知っていたわね」
「挨拶序に二,三言話すの。其れで今日の夕食どうしようか迷っていると提案を出したりして、其れで仲良くなった感じ」
「主婦か」と、いずなは突っ込んだ。藍華も「確かにロマンチックさに欠けるわね」と笑った。
「でも、小学生でしょ。姉貴は何をしてるんだか」
いずなは呆れながら少し離れた場所に座る日名子を見つめたが、彼女の性格を知っているいずなはあの姉貴じゃあ仕方がないかと納得した。
「で、藍華は末守弟のことをどう思っているの?あの子、明らかにアンタに気があるでしょ」
「正直、今は可愛い弟分かな」
「だろうね。アンタの態度に恋人の欠片さは一つもなかったもん」
つまんないと口を尖らせるいずなは男勝りな性格のわりに普通の女子と同じぐらい恋話が好きなようだ。
「桜井さんはいないの?そういう人」
「私は駄目だな」
「そうか。じゃあ、彼氏持ち第一号は一宮さんかな」
「もしかして、鷹人とのこと言っている?」
「ええ、其のつもりだけど」
「やっぱり藍華も気がついてたんだ。でもあの二人、まだ気が合うだけでお互いのことをそういうふぅに意識はしていないのよね」
「大丈夫じゃない。何かの映画で言っていたじゃない。危険な場所に居る程お互いを特別に感じるって」
「吊り橋効果ってやつ?」
「ええ」
確かにソルダを続ける以上、危機には陥りやすいだろう。助けられたり助けたりすることで生まれる感情がある。其れが男女なら恋愛に発展してもおかしくはない。でも・・・・。
「能天気な話ね」
命のかかった戦いでそんなことを考える暇が果たしてあるだろうか。
「私は其れでいいと思うわよ」
「どうして?」
「今こうして山に登っているけどさ、もしかしたら事故に合うかもとは考えないでしょ」
「まぁ、可能性としてなくはないけど、考えないわね」
「レストランで出された食事も毒が入っているかもと思いながら食べない」
「そんなことを考えながら生活していたら何もできなくなる」
「そうね。人は死ぬかもと思いながら生活はしないわ。桜井さんの言う通り、何もできなくなるから。だから、こういう時ぐらい戦いは現実ではなく夢物語でいいと思うの」
「そうね。映画とかドラマだと戦闘中に恋に目覚めて、私達は其れを観て『キャーキャー』言う。今までは其れが普通で、其れを捨てる必要もないものね。
戦っている時に恋愛とか考えられないかもだけど、こうやってみんなと遊んでいる時はそういうのもありだなって能天気なことを考えるのもありね」
「あら、でももしかしたら本当になるかもよ。死ぬかもと思ったらやっぱり人間自分の心に気がつくものじゃない。其れで告白して」
「其処で終わるのは嫌よ、私は。どうせ告白するなら結婚して家庭を持つ所まで行きたいわ」
「じゃあ、早く恋人を見つけないと。蒼空はどうなの?」
「蒼空?考えたことない。てか、何で蒼空?」
「ソルダの中だと男はタカか蒼空でしょ」
確かに。もう、葉は居ないのだから。
「もう一つ聞くの忘れたけど、蓮城さんはどうなの?随分、親しそうじゃない」
「・・・・・分からない」
「考えたことは?」
「多分、ないと思う」
いきなり藍華の歯切れが悪くなった。
「はっきりしないわね」
「彰君は完全に弟みたいな存在なのよね。其れは分かるわ。私には一応、愛睦が居るから」
「アンタの方が妹でしょ」と、いういずなの突っ込みは無視して。
「でも、恋愛ってよく分からない。誰かを好きになったこととかないし」
「初恋もまだ?」
「ええ」
「でも、アンタなら引く手数多でしょう」
「何、其れ」と藍華は笑ったがいずなは冗談を言ったわけではなかった。藍華の器量は実際良い。登校中、見知らぬ男達が頬を赤くしながら藍華を見つめていることもある。ただ、告白する人は居ない。見た目が良すぎるから高嶺の花になって、謙遜する人が多いからだ。だからか、藍華自身にモテている自覚はない。
「おーい、そろそろ行くぞ」
「はーい」
一時間の休憩を終えて再び山道を歩き始める。そろそろ目的地が近いので、二度手間にならない様に小枝を拾いながら一行は山を登った。山に入ってから三時間後に目的に着いた。
生い茂る木々の中、中央広場のようにぽっかりと平らな、木が生えていない箇所があった。其処に鷹人と彰がテントを張り、蒼空は火を起こし始めた。
さっき休憩した時にあった川が近くに流れているので藍華と愛睦がバケツに汲みに行った。一応、飲み水として飲料水はあった。だが、何があるか分からないので水の無駄遣いを避ける為に野菜を洗ったり、火消しの水は川の水を使用した。勿論、米を炊く為の水は飲料水を使用した。
「ちょっと、末守、アンタ何よ此の野菜の切り方」
「そういう桜井さんも酷いよ」
日名子を注意するいずなの切った玉ねぎを持ち上げた。全て繋がっていた。日名子が切った人参は大きさも形もバラバラだ。そもそも二人とも包丁を持つ手が危なっかしい。
「いやぁ、私家で家事とかしないから」と、いずな。
「此れだから両親の居る家は。甘えきっていやぁね。私なんて片親だから大変だわ」
心底呆れた感じに日名子が言うのでいずなの額に青筋が立った。
「よく言うよ。家事は全部弟に任せきりのくせに」
「そ、そんなことないわよ!」
「じゃあ、どうして家事をしているはずのアンタがこんなに包丁を使うのが下手なのかしら」
「そ、其れは。料理は基本的に私の担当じゃないから」
「全部、彰君でしょ。料理に限らず。くだらない見栄を張らない。彰君、愛睦、二人と交代して。二人は火の晩」
今晩はキャンプの王道のカレーだ。鍋にかける火とお米を炊く火がある。既にテントは張り終わり、彰は愛睦と一緒に火が消えない様に見張っていた。
因みにテントを張り終えた鷹人、蒼空は食事をする為の簡易テーブルを組み立てたりなどの準備をしている。
「愛睦だって私と一緒で家事はしないでしょう。料理なんてできるの?」
と言う日名子に「ついに家事をしないことを認めたよ」といずなは小声で言ったが、日名子は完全に無視をした。
「全くと言うわけではないわ。洗濯物を取り込んだり、夕飯の一品を愛睦に任せたりすることはあるから、愛睦は料理できるわよ」
愛睦は自分からは絶対に家事をしない。長期、家を留守にすると掃除も洗濯もしないので悲惨なことになる。仁美も家事をしてくれる家庭的な母親像とは程遠いので荒れ果てた家を見ても基本的に放置だ。
でも、愛睦は頼めば夕飯を作ったり、洗濯物を取り込んでくれたりはする。指示があれば動くのだ。唯一指示が合ってもしないのは自分の部屋の片づけぐらいだろう。
「というわけでチェンジ」
料理が全くダメな二人は仕方がなく火の晩に向かい、代わりに彰と愛睦が来た。
「何をすればいいの?」
「取り合えずカレーの材料を片っ端から切って。まだ何も切れてないから。彰君はサラダをお願い」
「分かりました」
愛睦はいつも料理しているわけではないのでリズムよく包丁の音を出すことはできないが慣れた手つきで野菜を切っていく。
「私だって家事ぐらいするし」とぼそりと藍華にしか聞こえない声で愛睦が言った。
愛睦は言い返しはしなかったが不機嫌な顔で日名子を見ていたのであの一言は不快だったのだろう。
確かに頼んでも何もしてくれない日名子より、頼めばしてくれる愛睦の方が有難い。
「すみません、姉ちゃんが失礼なことを」
隣でサラダを作っていた彰が申し訳なさそうに謝る。
「彰君が気にすることじゃないよ」
愛睦は彰と面識が無いので愛想笑いだけ浮かべて終わったので藍華がフォローを入れた。愛睦は顔見知りの鷹人や蒼空とは普通に話すが面識が無いと全く話さなくなってしまう。
いずなと日名子が料理が一切できないことが分かってしまったが取り合えず晩御飯が出来上がった。味付けは藍華が行い、彰に確認してもらって問題なかったので食事にすることにした。時間的に家で摂る食事時間より早いが、お菓子も大量に持ってきているので早めに食べて、お腹がすけばお菓子を食べればいい。
「では、頂きます」と、全員で言って食事をする。
彰は藍華の手料理を食べれることが幸せでならなかった。食事をしながら其々に楽しい会話をして男女別々のテントに入ると何が始まるかと言うと此れも王道だ。さっき藍華といずながしていた恋話。
さっきもしたので藍華といずなは「彼氏は居ない」と答えた。因みに此の話を開始させたのは日名子だ。
「愛睦は彼氏居るの?」
「興味ない」
「うっそー。人生半分損しているよ」
「そんな大げさな」と言う藍華に日名子は「彼氏が居た方が人生が色づく」と反論
「そういうアンタはどうなの?彼氏」
「其の体型で居るとか言わないわよね」と思いながらいずなは聞いた。だが、其れが間違いだった。
日名子は自慢げに携帯を取り出し、一人の男の画像を見せた。
「・・・・・まさか」
「私の彼氏」
「でも、何か、ねぇ」
いずなが愛睦と藍華に同意を求めて来た。見た目はかなり老けている。でも、其れをストレートに言うのは失礼だ。何と言おうか迷っている藍華を尻目に愛睦が馬鹿正直に「老けている」と言おうとしたので藍華が慌てて口を塞いだ。
「結構年上に見えるけど」と愛睦が余計なことを言わないうちに藍華が付け加えた。
「三〇歳」
「おじさんじゃん」と思わずいずなは叫んでしまった。
「失礼ね!」
いずなの一言は確かに失礼かもしれないが、一四歳の女子からしたら三〇歳は確かにおじさんだ。まだ高校生なら納得できるが。
「随分、年上ね。今三〇歳ってことは私達と一六歳差ね。高校生とか同い年の子とかの方がいいんじゃない?」
藍華は言葉を選びながら話題に乗ったが早々に切り上げたいとも思っていた。
「そうそう、アンタなら引く手数多でしょう」といずなは絶対思っていないことをわざと言った。けれど、日名子は何故か「そうでしょ」と同意した。
いずなも藍華も愛睦も言葉を失った。其の自身は何処から来るのだろう。
「でも、高校生何て子供よ、子供」
「三〇歳の大人が中学生なんて相手にするとは思えないけど」
高校生よりも年下の中学生が何を言っているんだといずなは呆れていた。いずな的には人を子供と言う人間が一番子供だと思っている。
「此の見た目だからね」と日名子はセクシーなポーズを取る。醜く集まった肉の塊が隙間と言う隙間を埋めていく。此れはあくまで噂だが体重は一〇〇キロを超えているそうだ。
愛睦が「デブ専」と言おうとしたので藍華は再び愛睦の口を塞いだ。
「ごめん、私達男じゃないから末守さんの魅力が分からないんだけど」と、藍華が言うともう仕方がないわねと日名子は胸を持ち上げた。
「こんなに豊満な胸があるのよ。男が放っておくわけないじゃない」
「肉の塊じゃん」と愛睦が突っ込んだ。藍華の制止は幸か不幸か間に合わなかった。思いもよらなかった愛睦の突っ込みに日名子は固まり、いずなは大笑いした。
「ひ、僻まないでよ、愛睦。胸が小さいからって」
日名子は何とか反撃したが、「僻んでないし」と本気で言った愛睦を藍華が援護射撃という形にはなるが「愛睦の胸は小さくはないよ」と言った。
「黒崎姉はどれくらいあるの?」といういずなの問いに藍華が「B」と答えた。何故藍華が知っているのという目で愛睦が見てきたが藍華は気づかないふりをした。
其れを聞いた日名子は勝ち誇ったように「私はGよ。何だやっぱり私の方が大きいじゃない」と言った。
「所詮は脂肪の塊よ」と今度はいずなが突っ込んだ。
「其れでも大きい方がいいのよ、男は」と日名子が勝ち誇ったように言うので胸は脂肪の塊だが大きい方がいいということで話はまとまった(?)。
いつの間にか胸の話になり恋話は何処かへ消えてしまった。




