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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第七章 異人Ⅲ




 一方、日野では。

 偶然にも瀬谷病院について調べていたコウが居た。

 「ついてるな。俺」

 逃げ惑う人間の波に逆らって行けば人が何から逃げているのかが分かるはずだ。コウは人の波に押されない様に群れから離れた道を選んで進んでいく。

 ピリリリリリとポケットに無造作に突っ込んだままになっていた携帯が電子音を鳴らした。着信相手は佐夜子になっていた。

 「佐夜子か」

 『コウ、今何処?』

 「日野だ」

 『瀬谷病院について調べるって言っていたからまさかとは思ってたけど本当に居るとはね。今、避難勧告が出てるでしょう』

 「嗚呼。そっちのニュースではなんて言っている?」

 『まだ何も。もしかしたら此のまま揉み消すのかも』

 「そうか。俺は此のまま日野に残って様子を見てみる。上手くすれば良い絵が撮れるかもしれねぇしな。お前は黒崎記念病院を見張っていろ」

 『分かったわ。気を付けてね』

 「嗚呼」

 其処で通話は切れた。

 人の波はまだ途切れそうにない。パニックになった人間ほど恐ろしいものはいない。人を押し倒し、我先に前に進もうとする。押し倒された人は後から来るから人間に踏み殺される。親とはぐれた子供はどうすることもできずに立ち止まり泣き喚く。助けようとする人間は何処にもいない。誰の目にも入ってはいないのだ。

 コウはビルの中に入り、人の波を逃れる。完全に人間が居なくなったのを確認してからコウはビルから出る。何処に行けばいいのか分からないが取り合えず人が来た方向を辿っていくとまだ人間がまばらに残っていた。

 逃げる人間を一人捕まえて詰め寄ると、後ろを気にしながら其れでも律儀に「化け物が出た」とコウに教えてくれる。

 化け物の特徴は比喩の表現は人其々だが大体以前取材した竿留稔の証言と一致する。此れは彼を馬鹿にできなくなったなと思いながらもコウは先に進む。

 後ろから「危ないぞ、逃げろ」というコウを呼び止める親切な他人の言葉聞こえたがコウは其れに従うわけにはいかなかった。今足を止めてしまったら真実が遠ざかってしまうからだ。時には危険を冒さないと真実は得られないのだから。

 だからコウは其の親切な他人に「ありがとよ」と言って先を急いだ。

 そしてコウの目の前にあり得ない光景が繰り広げられていた。

 以前、竿留稔はなんて言っていただろう。影のような化け物と人間のような化け物。

 コウの目の前に居るのは鎌で人を殺したり血を啜ったりする人間のような化け物だ。竿留稔は狂ってはいなかった。

 美玖は言った。『否定するよりも肯定して其の上で動いていた方が何かしらの情報は集まる』と。其れを元にコウは動いていた。だが、正直此の事実はキツイ。

 驚くコウの背後から車のエンジン音が聞こえた。コウは直ぐに近くの建物に隠れ、写真を撮るベストスポットとしてビルの三階に上がった。其処は何処かのオフィスのようだったが職員は全て避難している為今は無人だ。課長が座るであろうポジションの後ろは全面ガラスになっており、コウは其処でカメラを構えた。

 竿留稔の言っていた夜空色の髪の特徴を持つ恐らくは黒崎藍華だろうが。彼女の姿はない。だが、代わりに来た少年少女も彼女と変わらない年代に見えた。

 フィルター越しで見る彼らは特殊な武器を持って戦っている。バックに白い法衣を着た性別不明の人間や軍人らしきものも居る。正体不明の組織だとコウは思った。





 「舞子ちゃんは俺の傍から離れるな。いずなちゃんもできるだけ舞子ちゃんから離れない様に」

 「はい」

 「二人は蒼空とタカの援護だ。蒼空とタカは前衛だ」

 「分かりました」

 今回は守るべき住民も居る為神父クラスではあるがフィデールも数人いる。彼らは住民が逃げられる時間を稼ぐ為に可能な限りクロワで閉じ込める。体が弱く、初陣である舞子には有難い環境が出来上がっている。こういう配慮は完璧なんだよなと支持を出しながら伯明は勝成を心の中で褒める。

 「クロ」

 「イロンデル」

 蒼空は獣の牙を持って、鷹人は燕の柄がついたサバイバルナイフを持ってラ・モールに突っ込んでいく。最初に倒すのはフィデールが結界で閉じ込めてくれたラ・モールだ。伯明率いる軍人組は結界に閉じ込められていないラ・モールを少しでも足止めする為に重火器を使って応戦している。

 「フォイユ」

 ラ・モールはディアーブルのように一撃で倒すのは難しく、鷹人がイロンデルでラ・モールの鎌を受けている間に別のラ・モールがクロワの結界を壊して鷹人に攻撃を仕掛けて来たので寸前のところで舞子が止めた。

 舞子が放った無数の葉はラ・モールの腕に突き刺さっているが藍華やいずなのように攻撃があたっただけでラ・モールを倒すことはできない。何度か攻撃を与えないと舞子はラ・モールを倒すことができないのだろう。

 鷹人はイロンデルで受けた鎌を上に弾いた。体勢を崩したラ・モールを斜めに切り裂き、次に其の横に居るラ・モールの腹部を突き刺した。此れで二体のラ・モールを撃破した。

 「うわぁぁぁぁ。助けてくれ」

 前からラ・モール数体に追われた人間が走って来た。伯明は「伏せろ」と叫びながらロケットランチャーを撃つが大した足止めにはならない。

 エヴァンジルの特殊能力で空間移動が可能な鷹人が助けに向かうが一人で複数のラ・モールはキツイ。

 「セマンス、芽吹け」

 「フォイユ」

 いずなと舞子が直ぐにフォローに入る。蒼空も直ぐに鷹人の元へ向かいたいがまだ彼の目の前にも複数のラ・モールが居るので中距離系の二人を残して離れるのは危険だった。しかも舞子は一撃でラ・モールを倒すことができない。此処を離れたらいずなの負担が大きくなってしまう。

 舞子といずながフォローに入りながらおまけに腰を抜かして動けなくなってしまった人間を庇いながら戦うことになってしまった。此れはやばいかもと内心思いながらも戦うことを止めない鷹人の上空から一人の男が降って来た。

 上にはクリミネルが所有するヘリがある。どうやら其処から飛び降りたようだ。

 白髪の男は白いブラウスに黒いコートを羽織った。ソルダと同じ戦闘服を着ている。

 彼は呪符が大量に巻かれた不気味な右手を前に突き出した。すると其処から赤い閃光がラ・モールに向かって走り出し、複数居たラ・モールを一気に滅ぼした。

 「あ、あなたは」

 「フェイク」

 彼は其れだけ名乗るとまだ残っているラ・モールを倒しに走り出した。少し離れた所から見ていたいずな、舞子、蒼空も驚いた顔をしていた。

 「凄い」

 「あれは仲間でしょうか?」

 「・・・・・フェイク」

 「フェイク?」

 伯明の問いに全員が頭に?を思い浮かべた。

 「奴の名前だ。お前達ソルダのことを俺達クリミネルはファースト世代と呼ぶ。対して彼らはゼロ世代。ソルダ開発の為の実験段階で生き残っている奴らのことを言う。

 彼らは体内に直接コアを入れ込み、其れ呪符で抑え込んでいるんだ」

 当然のことだが、自分達ソルダができる前に実験段階としての世代が居る。其れは頭の片隅ありながらも放置していた現実はやはりどのタイミングで聞いても気分の良いものではない。

 だが、今目の前の戦闘に集中しなければならない。フェイクのおかげで大分戦闘が楽にはなったが彼に頼りきりというわけにもいかないだろう。

 鷹人が保護した人間を連れて戻って来た。

 「ああの、此れは一体?其れにあなた達は」

 人間は困惑気味に伯明に尋ねるが、其れに応えるわけにはいかない。

 「おい、此奴を安全な場所に」

 伯明の指示で軍人とフィデールが二名ずつ急ごしらえで作った避難所に案内する。

 ラ・モールも残り三体となった。蒼空はクロでラ・モールの急所を刺して殺す。鷹人はイロンデルで斬りつけ、残りの一体はいずなと舞子の連携攻撃で何とか倒した。

 コントロールルームでラ・モールを全て倒したことを確認した一行はコウが其の光景を一部始終カメラに押さえていることに気づくことなく本部に帰還した。

 会議室で戦闘の様子を見ていたミャンとスーリヤが四人を出迎えてくれた。

 「さすがですね。驚きました。我々には決して真似できない戦い方です」

 心から賞賛の声を漏らしたのは最初から友好的だったスーリヤだ。対して姉のミャンは「まぁまぁネ。ワタシならあの程度簡単に倒せるネ」とひねくれた感想を漏らした。

 スーリヤと違ってミャンは最初から敵対心を剝き出しに来ていたので素直な感想は期待していなかった。

 ミャンの感想を聞かなかったことにする代わりにスーリヤ達にも「相変わらず生意気ね」といういずなの言葉を聞かなかったことにしてもらった。

 「二人はどういう戦い方をするんですか?」

 舞子は興味津々に聞いてみた。するとスーリヤではなくミャンが自慢げに腰に下げていた剣を見せた。

 「此れネ。此の剣にはコアが埋め込まれているネ。後は此れでサウロンを斬りつければいいネ」

 「シン国のソルダは皆さん同じ武器なんですか?」

 「Yesね。銃弾とかにコアを埋め込むのは技術的に難しいネ。だからソルダの武器は大小の違いはあるケド、刀剣が多いネ。ワタシからも質問ネ」

 「何ですか?」

 「お前らの武器、どうやって発動してるネ?」

 「難しい質問ですね。感覚でしょうか?」


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