第七章 異人Ⅱ
「そうかもしれないね。でもきっとどっちも自分の都合だよ。全てを知っていたいっていうのも何も知らずにいてほしいというのも、どっちか片方の都合でしかない。だから人は対立するんだろうね」
「・・・・・難しいね」
「そうだね」
翌日からミャンとスーリヤの日本のソルダについての勉強が始まった。
「私は栗宮和枝。あなた方の指導担当になります。まずはクリミネルのことを知ってもらうために本部を案内しますね。質問は其の都度受け付けるから遠慮なくしてください」
「「よろしくお願いします」」
和枝はまずコントロールルームに行った。
「此処がコントロールルームよ。私の担当部署でもあるわ。日本国内の至る所に監視カメラが設置されており、其処から敵の侵入などを此処で見張るの。もし敵が市街に侵入した場合は直ぐにソルダ達に徴集をかけ、戦闘中に敵の分析を行ったり、支持を出すのも此処。そして・・・・」
和枝は辺りを見渡し、職員と話している勝成の姿を探した。
「彼がクリミネルの総司令官。黒崎勝成よ」
和枝、ミャン、スーリヤの存在に気がついた勝成は右手にコーヒーを持ったまま軽く頭を下げた。仕事で何か支持をしているみたいなので邪魔をしないように三人はコントロールルームを出る。
「あの・・・・」
コントロールルームを出て直ぐにスーリヤが質問をした。
「黒崎というのはもしかして」
「ええ。あなた達と入れ違いになった藍華ちゃんの父親よ。そしてソルダ開発の第一責任者でもあり、また日本のソルダ作製の発案者でもある黒崎仁美は藍華ちゃんの母親よ」
「じゃあ、自分の子供を実験にしたってことですか?」
「ええ」
「はっ。日本の女は凄いネ」
真っ白な廊下を三人は歩く。前に和枝、後ろにスーリヤとミャンが続く。
「親というのは所詮は其の程度。親の愛は無限?無償?」
「はっ」ともう一度ミャンは馬鹿にしたように笑う。
「そんなものは夢物語ネ。子供は所詮親の道具。子供はいつだって親に振り回される。おかげで人生滅茶苦茶」
「姉さん!」
スーリヤが睨むので今回は仕方がなくミャンは引き下がったが謝罪する気はないので、代わりにスーリヤ謝った。
「申し訳ありません。其方にも都合があるのは理解しているつもりです。けれど僕達は物心つく頃には親に捨てられた身。恥ずかしながらシンではそういう子供は珍しくはありません。ですから、どうしても家族や親というものに辛辣になってしまうのです」
「いいえ」
ミャンの言ったことに怒った様子を見せない和枝。其れは演技ではなく、本当に怒ってはいないようだった。寧ろ顔は悲しげであった。
「全て事実です。どんな事実であろうと親が子を実験台にすることは決して許されません。勿論、我々が生まれてくる子の遺伝子を弄るなど。きっといつか天罰が下るでしょうね。其れも覚悟の上で私達は罪に手を染めました」
「黒崎仁美さんも其の覚悟でですか?」
再度、スーリヤは質問した。和枝が頷くと思いながらも。けれど彼女は首を上下ではなく左右に振った。
「彼女もまた人生を狂わされた者の一人。だからと言って許されることではありませんがもし、日本滞在中に彼女と会うことがあったらどうか心に留め置いてください。人が起こす行動には必ず理由や其の原因となった基があることを」
和枝は此れ以上此の件に関しての質問を一切受け付けないという意味を込めて「さ、次は科学班に行くわよ」と言った。
「科学班は二班に分かれているの。まず、一班からね」
科学班一班にはディアーブルとラ・モールが水槽のようなものに入れられて保存されていた。
「大丈夫なんですか?」
「此処に居るサウロンは全てコアを取り出していますので死体と変わりません。
現在。此の班が取り組んでいるのは武蔵野で二体のラ・モールが合体しました。其れについて調べています」
「シン国にも巨大なサウロン、出現したネ。其れと同じカ?」
「可能性はあると思います。二体が合体したサウロンはビル五階建ての大きさになりました」
「シンの方がもっと大きいネ」
「我々はフュズィオン型と命名しました」
「何か分かったカネ?」
「コアが体内で融合し、質量や生命エネルギーが巨大になることしか。コアは一応取り除きました」
「和枝さん、いらっしゃい」
「今日子さん、ちょうど良かったわ。二人とも彼女は津久茂今日子さん。科学班一班の班長よ」
「よろしくね」
「シン国のソルダ、スーリヤです。こっちは姉のミャンです」
ミャンは軽く会釈をした。
「今日子さん、例のフュズィオン型のコアを彼女達に見せたいんだけどいいかしら?」
「ええ。こっちよ」
今日子に案内され、室内の一番奥に行くとアクリルケースに入れられた直径一〇センチメートルのコアがあった。此処からは今日子の方が詳しいので和枝と説明を変わる。
「日本のソルダは胎児の時にコアを移植されるのだけど、コア全てを移植するとコアの力が強すぎて人の体がもたないの。だからまずコアを半分にして、移植。残りの半分は武器化する。同じコアを使用した武器だから拒絶反応やあなた達のように数回使っただけで死ぬようなことはないわ。勿論、一般人に使える代物ではないけれどね」
「其れが分かるまでに何人の人間が死んだネ?」
「一万人って言われているわ。おかげで今の日本の人口は約三千人」
「随分、殺したネ」
「姉さん」
言葉を選ばないミャンをスーリヤは注意する。だが、日本語に不慣れなミャンは注意されても、意図しなくても言葉がきつくなってしまうのでどうしようもないのだ。けれど、今日子からミャンの言葉に対して不快感を表すものは感じられない。
「おかげであなた達のように食料不足に陥ることはなかったわね。ソルダになれる確率は1/4。残りは死ぬか、一般人になるかだけ。此れから先も人口は減り続けるでしょうね。
だから其れに比例して食料は余ってくるでしょうし、お得ね」
「今日子さん!」
日本人で日本語を使っているはずなのに言葉を選ばない今日子を今度は和枝が制した。今日子は和枝の注意を軽く流すだけにした。
「此のコアも誰かに移植するんですか?」
「お姉さんと違って弟君は日本語が上手ね。此のコアの使用方法は今のところ未定よ」
「どうしてですか?」
「サウロン二体分のコアはエネルギー量が大きいすぎるのよね。半分にしたところで人の体がもたない。人の体が持つようになるまでコアは小さくするのも手だけど、一つしかないからねサンプルとして取っておくのも手かもね」
「成程」
「他に質問は?」
「日本のソルダにも寿命の制限ってあるんですか?」
「勿論あるわよ。今のソルダはファースト世代。だから事例が全くない状態だけど、定期的に検査しているし、体の状態や戦闘後の負荷の状況から私達は二〇歳までもてば良い方だと思っているわ。実際はもっと短いかもしれないし、其れ以上持つかもしれないけれど、此ればかりは経過観察ね」
説明が終わり、聞きたいことがあればいつでもどうぞと言って今日子とは別れた部屋を出る前に和枝は「もう少し言葉を選んでください」と言った。
今日子は口に煙草を咥え、火をつけながら「言葉を飾ったところでやってることは変わんないでしょ」と返した。
「あと、此処禁煙ですよ」と、最後に注意して和枝は二人を連れて科学班二班に行った。
「此処が科学班二班です。此処では様々な道具の作成をしています。私達が今着ている服のデザインもそうだし、他には通信機、其れからコントロールルームのコンピューターに外界に散りばめられた監視カメラもそうよ」
二班の説明は此れぐらいだろう。後は簡単な本部の案内だ。訓練室の場所や会議室の場所などの。そうこうしているうちに本部に警報が鳴り、ソルダに召集がかかった。
「此れは何ネ?」
「警報です。戦闘が始まるかもしれません。会議室に行きましょう」
訓練室で訓練していたのでソルダ達は直ぐに会議室に集合で来た。シン国のソルダを連れた和枝が入り、伯明と勝成が会議室に入って会議は始まった。
「藤堂君、説明を」
「はい」
全員を見渡した後、藤堂朝子は会議室のモニターをつけた。其処には市街に入り込んだラ・モールが映っていた。
「また、ラ・モールか」と勝成は呻いた。武蔵野の件で合わせて此れで二回目だ。本来ラ・モールは滅多に出現しない。
「はい。出現場所は日野になります。前回同様、結界に綻びはなくクロワやフィデールにも異常はありません。今回は住民の避難がまだ完了してはいない状態です」
「住民は全てクリミネルで保護し、記憶操作を行う。今回はフィデールを連れて行け。其れと藍華が居ない分の穴埋めとして一宮舞子にも出撃を命じる」
彼女はまだ戦闘経験がない。藍華が居なくても戦えるができるだけ人数が多いうちに戦闘経験を積ませたいという勝成なりの配慮から今回は舞子も出撃することになった。
「では貴君らの武運を祈る」
会議は終了。ミャンとスーリヤは会議室から日本のソルダの闘いを見学することになった。




