第七章 異人
藍華と葉はシン国の為に日本を飛び立った。表向き交換留学の為二人がシンに行ったことになっている。一応、交換留学ということになっているのでシン国からは二人、ミャンとスーリヤの二人が来た。
「初めまして。ワタシ、ミャンと言いますネ」
頭の左右にお団子を作った女の子は片言の日本語で日本の学生の前で挨拶をした。
「僕の名前はスーリヤです。姉共々よろしくお願いします」
姉よりも上手な日本語を操るスーリヤは女子の母性本能をくすぐるような柔らかな笑みを浮かべた。
学校で彼らは直ぐに人気者になった。というか交換留学が珍しいので休み時間になると他学年からも人が押し寄せてくるのだ。
「ミャンがお姉さんで、スーリヤ君が弟ってことは二人とももしかして双子なの?」
「其の答えはYesネ」
「偶然ね。今交換留学でシンに行っている黒崎藍華って子も双子なのよ」
「oh!其れは聞いてますネ。でも、シンにイッタノハ黒崎藍華、高岡葉と聞いてます。苗字が違うネ」
「こっちは双子で行ってないから」
「ナラ、片割れは何処デスカ?」
「愛睦」とミャンとスーリヤを囲んでいた女子の一人が愛睦を呼ぶ。愛睦は顔は男女が混ざった軍団に向いていたが、あまり関わり合いたくなくて傍に行くことはしなかった。
「あれが黒崎藍華の妹デスカ?」
「姉さん、失礼な言い方だよ」
スーリヤが注意するとミャンは大げさに肩をすくませ「スミマセン、日本語ってムズカシイネ」と言うが其の顔は全く反省をしていない。其れは弟のスーリヤにも分かっていたので、愛睦に「すみません」と謝っておいた。
愛睦は軽く会釈をして関りを拒絶するかのように持っていた本を読み始めた。
「oh!あまり愛想ヨクナイネ」
「ごめんなさい。ちょっと人見知りがあるから」
クラスの子が軽くフォローした後話はシンについてになっていった。そんな様子を少し離れた所からソルダであるいずな、舞子、蒼空、鷹人は見ていた。
「あれが交換留学って名目を埋めるために来たシンのソルダ。何だか生意気ね」
「いずなちゃん、そういう言い方は悪いよ。日本のソルダのことを学びにも来てるんだから仲良くしないと」
「でも、なんだか気に入らないわ」
視線に気づいたミャンは自分達を囲む群れの隙間からいずなを見て、フンっ鼻で笑った。
いずなの額に青筋が立ったがさすがに何も知らない生徒が居る前で事を荒立てることはしなかった。
「私、ちゃんと仲良くできるか心配」
舞子の言葉に思わず頷きそうになった鷹人は誤魔化す様に苦笑いをする。
「まぁ、彼女達も喧嘩を売りに来たわけじゃないから」
「どうだか」
いずなはクラスメイトに囲まれたミャンを睨みつける。ミャンは視線に気づいてはいるが視線を向けてくることはなかった。
学校が終わった後、いずな、舞子、鷹人、蒼空はクリミネルに向かった。本部には既にシン国のソルダ、ミャンとスーリヤが居た。
「初めまして、日本のソルダの皆さん」
ミャンと違って友好的な笑みを浮かべたスーリヤが最初に挨拶の言葉を述べた。
「学校でもしましたが、もう一度させて頂きますね。僕はスーリヤ。此方は姉のミャンです。短い期間ですがあなた方日本のソルダについて学ばせて頂きます。よろしくお願いします」
「どうも。丁寧な挨拶をありがとうございます」
鷹人が代表として一歩前に出た。
「此方も紹介させて頂きますね。俺は神山鷹人。隣が俺の双子の弟、蒼空」
「よろしくね」とスーリヤは頭を下げた。対して蒼空は「どうも」と小さくおじぎをするだけだった。
気にせず、鷹人は蒼空の隣に居る舞子、いずなを自己紹介する。
舞子は笑顔で「仲良くしましょうね」と言い、いずなも学校の件は忘れたことにして笑顔を作り「よろしく」と返した。
「日本って随分能天気な国ヨネ。シンとは大違いネ」
友好的にすませようとした空気を簡単に壊したミャンは不敵な笑みを浮かべていずな達を見下す。
「姉さん」
スーリヤは咎めようとしたがミャンが彼を逆に制する。
「だってそうでしょう。サウロンのこともソルダのことも知らない。未だに平和が当たり前だと思っているなんて」
「何か問題がありますか?」
怒って前に出そうになるいずなの腕を引っ張って後ろに下がらせた鷹人は笑顔を崩さずにミャンと対峙した。
「あなた方の国のことは聞いています。ですが、対応は国によって違います。我々の国が選んだ対策を他国であるあなたが否定する権限はありません。ましてやあなたは一ソルダであり、国政に携わる者ではないのなら尚更」
言葉は丁寧だが、言外に「部外者は口を出すな」と言っている。だが、ミャンは構わずに続ける。
「あなたはムカつかないの?何も知らずにヘラヘラ笑って」
「世の中には知らなくてもいいことがあります。俺は大切な友達にこんな辛すぎる現実は教えたくはありません。何も知らなければ笑っていられますし」
「其れって綺麗事じゃない」
「知っていることがそんなに偉いですか?」
舞子は一歩前に出て鷹人の隣に立った。舞子を横目で確認したが鷹人はいずなの時とは違い、止めようとはしなかった。
「シンではサウロンのこともソルダのこともみんなが知っているそうですね」
「そうネ。そして口減らしの為に子供をソルダにさせる親も居るネ。ワタシ達には親が居ないネ。そういう子供もソルダの対象になるネ。分かるカイ?お前らみたいに選択の余地なんてナイネ」
「私達にも選択の余地などありませんでした。確かに食料困難もなく、親に売られたことがない私達はあなた方から見たら幸せなのかもしれません。けれど私は立場が逆でも不幸な自分を憐れみ、人の幸不幸を己の価値観で決めつけるあなたが幸せになれるとは思いません。どんな環境に育っても不幸な人は不幸だし、幸福な人は幸福だと私は思います」
「其れは幸福を幸福と思えないバカな奴らの贅沢な言葉ネ」
「うるせぇな」
今まで黙っていた蒼空が睨みつけるようにミャンを見る。ミャンは顎を上げ見下す様に蒼空を見つめる。蒼空には其の様子が滑稽に思えた。
「こっちは別にアンタらなんか呼んでねぇよ。勘違いすんな。日本に助けを求めたのはシン国(お前ら)だ。日本(俺達)じゃねぇよ。折角こっちが友好的にすませようとしてんのに」
「いや絶対君はそんなつもりなかったでしょう」と鷹人といずなは心の中で突っ込んだ。元々面倒くさがって人付き合いをしたがらない蒼空は最初からシン国のソルダと関わるつもりはなかった。だから何を言われても流していたのだろう。が、蒼空は其れを棚に上げて抗議を始めてしまった。
「そういう空気を簡単に崩しやがって。読めねぇ空気は吸うんじゃねぇよ」
「そんな無茶苦茶な」と鷹人は心の中で突っ込んだ。
そろそろ止めた方がいいんじゃないかと舞子は鷹人に目配せし、いずなはもっとやれと心の中で蒼空にエールを送った。
「はいはい、蒼空。君も人のことを言えないでしょ」
「俺は空気は読める」
邪魔をするなと蒼空は鷹人を睨むが、鷹人はそうもいかないよと目で訴える。
「そうだね。君の場合は空気が読めないんじゃなくて、空気を読まないんだったね」
「あ、其れ分かります」とちょっと天然な舞子が其処でまさかの同意。
「其処でお前が言うか?」
「え?」
本気で分かっていない舞子に蒼空は呆れ、鷹人は苦笑。いずなは舞子の肩に手を乗せ、お腹を押さえながら笑う。
「確かに。キャラ的に私が言うセリフだわ」
張り詰めた空気が一気に払拭され、喧嘩を売っていたミャンは唖然とし、大事になる前に終わって、スーリヤはほっとした。
色々あったが今日は顔合わせで終わった。
ミャンとスーリヤはクリミネルの中は仮眠室しかないので近くのホテルに泊まることになっている。
「姉さん、今日みたいな喧嘩腰は止めた方がいいよ」
ホテルのスィートサービスで食事を済ませ、ベッドに寝っ転がってテレビのチャンネルを弄っていたミャンに風呂上がりで濡れた髪をタオルで拭きながらスーリヤは言った。
「アンタは姉よりもアイツらを擁護する」
此処には二人しか居ないので日本語ではなく母国語を使って、ミャンは怒る。
「擁護も何も、向こうの言い分が正しいよ」
「アイツら、体に敵のコアを入れている。化け物よ。化け物と仲良くしてやる必要はない」
「シン国と日本は友好国だよ。揉め事は避けるべきだ。其れに僕達は日本に助けを求めた側だ。大手を振って偉そうなことを言える立場にはないよ」
「・・・・・分かっている。でも、あんな苦労も知らずに笑っているのを見て腹が立つのよ。ソルダは命がけで戦って今の平和を守っているのに。アイツらは何も知らない」
其れは日本のソルダではなく、其れ以外の子供達に向けられた怒りだった。
「姉さんの気持ち、分かるよ。でも其れが彼らの選択だ。僕は彼らの気持ちも分かる。大切な人には戦いと無縁であってほしい」
スーリヤは愛おしそうに姉の頬を撫でる。たった一人の自分の肉親。信じられるのも姉のミャンだけだ。だからスーリヤが命がけで守るとしたらミャンだけだろう。其れ以外がどうなろうがスーリヤの知ったことではない。
「何も知らずに安寧であってほしい。其れが僕の願いだ」
「でも知らない側の人間はきっと嫌よ。私は嫌。何も知らない間に大切な人が傷ついて、何も知らない間に死なれたらきっと後悔する」




