第六章 共闘Ⅴ
リーファンはともて驚いていたが他二人も藍華がリーファンよりも年下だとは思わなかったらしい。其れにはかなり驚いていた。
ルーファインなんて驚きのあまり車の運転をミスして進路が大きく右に傾いたぐらいだ。直ぐに進路を真っ直ぐに戻したが。
「葉は何となく分かる」とバクの言葉にルーファインとリーファンは「うん」と頷く。
「其れもなんか酷くない」と葉は不満を漏らしたが誰も聞いてはいない。
「でも、藍華は、見た目は確かに幼く見えなくはないな。リーファン、お前もうちっと落ち着きな」
「うるさい、バク」
「ほら、そういう所が子供なんだぜ」
「子供じゃない。もう大人です」
「本当の大人は自分のことを大人とは言わん」
「其れよりも日本のソルダが全員同い年ってのは何か訳があるのですか?」
二人のやり取りを無視してルーファインは興味津々に聞いた。
「詳しくは、私達は科学者ではないので知りませんがある一定の年齢になるとコアが完全に融合して発動できるようになるそうです」
「一体、何人の赤ちゃんにそんなことをしてんのよ」
「コアの移植は日本で生まれる全ての赤ん坊によ」
「嘘!?じゃあ日本は全員ソルダなの?」
「いいえ。コアを移植された胎児が誕生できる確率は1/2。其処からコアを発動できる個体となる確率は1/2。残りはコアを移植されただけの普通の人間と変わらない。発動もできないそうよ。定期的に健康診断とかで判別しているみたいだけど、どう判別しているのかは私達には分からない」
「つまり、ソルダになれる確率は1/4か」
「はい」
バクは残してきた息子のことを思い出し、そいつが自分の知らないところで変なものを移植されていることを想像した。
「・・・・最低だな」
「・・・・そうですね」
其れを実行しているのが自分の両親であることを藍華は明かさなかった。藍華が何も言わないので葉も黙っていることにした。
サウロンと数度に渡る戦闘で今日中に目的地に辿り着くことはできなかった。一応想定内なので野宿する為の道具は車に積んでいた。しかも幸運なことに洞窟を見つけたので、其処で寝ることにした。車で寝てもいいのだが、狭くて足を伸ばせないので疲れが取れない。其れでは明日の戦闘に影響するかもしれないので洞窟で寝ることにした。誰からも異論は上がらなかった。
食事は封を切れば簡単に食べられてしまう携帯食なので味気なかったが仕方がない。日本に帰ったら美味しいものを食べようと思いながら藍華は携帯食を腹に入れた。
簡単な食事をして、少しだけ会話を楽しんだ後は明日に備えて全員眠りについた。初めて会った時よりかは和やかな雰囲気になっていた。
藍華は洞窟の入り口で腰かけ昨日よりかは少し欠けている月を見上げた。
「アンタ、昨日も遅くまで起きてただろ」
そう話しかけてきたのはバクだった。いつの間にか起きていた彼は藍華の目の前に腰かける。
「休息は大事だぞ」
「もう少ししたら寝ます」と、言いながらも藍華に眠る様子はない。
「日本ってのは酷な国だな」
藍華が寝るまでバクが相手をしてくれるようだ。
「アンタらみたいな子供を戦わせるなんて。アンタらの親はどう思ってるんだ?」
「聞いた話だと、かなり怒って、国が受け取ってくれと出したお金も殆どの人が受け取らなかったようです」
「アンタの親もか?」
其れはさっき藍華が敢えて言わなかった事実に直結して来る内容だ。別に隠すことではない。事実を言って、周りに気を遣われる雰囲気が嫌なので敢えて言わなかっただけだ。でも、此のバクという男はそういうことをする人物には見えなかったので藍華は話すことにした。
「私の親はクリミネルの関係者。父は総司令官で母は胎児にコアを移植することを発案し、現在責任者として率先してソルダ開発をしているわ」
「お前の親は自分の子供をソルダにしたってのか」
家に最愛の息子が居るバクには理解できないことだった。子供をソルダに変えるなんて、子供への愛を疑ってしまう。
「私からも質問いいかしら」
「おう」
「あなたはどうしてソルダになったのですか?」
「俺は元々軍人なんだよ。けど、三〇年前のあの日、サウロンが突如国を襲った。俺達は勿論対抗した。今持てる全ての武器を使って。でも、勝てなかった。
いろんな戦場を駆け抜けた。戦術も、武器の使い方も、人の殺し方も、人の守り方も知っている。でも、何もできなかった。何もできずに人が目の前で死んでいく」
三〇年前の光景を思い出しながらバクは「ああいうのはもう御免だ」と言って笑った。
しみったれた空気が苦手な彼は笑うことで少しでも空気を和らげようとしたのだ。
「俺には息子と妻が居る。だからせめて、あいつ等が安心して、笑って暮らせる世界を作りたいんだ」
藍華には無い戦う理由。
語り合ったことはない。直接聞いたこともない。けれど、蒼空も鷹人も、いずなや舞子、葉も何かしらの理由で戦っていることは分かる。
運命に流され、親の言いなりで此処まで来てしまった自分とは違って。だから彼らが、バクが羨ましくて、そしてとても眩しかった。
「さぁ、明日に備えて寝ようぜ」とバクは照れ隠ししながら自分の布団があるところに戻った。藍華も布団に包まり、横になる。
寝たふりをしていた他のメンバーも藍華が寝たことを確認し、目を閉じる。
翌日、藍華達一行は目的地に辿り着くことができた。
日本でラ・モール二体が合体した時にはビル五階建ての大きさになった。けれど、シン国に出現したとされる巨大なサウロンは其の一〇倍はあった。
巨大なサウロンは触手が二つある黒い影、というよりスライムのような形をしていた。
藍華はあまりにもの大きさに驚きで言葉を失い、葉は怯えた様に茫然とサウロンを見つめていた。
巨大化したサウロンの下腹は妊婦のように膨れ上がり、不気味に光っている。だがサウロンに繁殖機能はない。
更に厄介なのは巨大化したサウロンの周りにサウロンを守る様にディアーブルとラ・モールの軍団が居た。
「あの巨大化したサウロン、本当に倒せるの?」
震えた様に葉が藍華を見つめる。藍華も「ある」とは断言できずに黙る。其れが余計に葉を不安にさせた。
そんな葉を安心させるように「ある!」と断言したのはルーフェインだった。彼の手には手榴弾があった。
「此れはあなた方日本の真似をして作られたものです」
「私達が武蔵野で使ったコアのミサイル」
「そうです。あなた達は二体の合体したラ・モールを倒すのにコアを大量に積んだミサイルを使用しました」
「けれど、其れでは威力が足りなくないですか?」
ルーフェインが持っている手榴弾は掌に乗る大きさだ。武蔵野の一〇倍も大きいサウロン相手に傷は負わせられても致命傷になるとは考えられなかった。
「此れは日本の科学班と協力して作ったものです。見た目は小さいですが威力はミサイルと同じぐらいだそうです。其れぐらいのエネルギーが凝縮されています。此れをあの巨大なサウロンに届けれれば」
「なら私と葉で露払い、リーファンとバクがルーフェインの護衛。ルーフェインが手榴弾が届く範囲まで来て、サウロンに投げつける。と、いうことでいいかしら」
シン国のソルダは戦闘回数に制限がある為、藍華としては極力此方で捌きたいと思っている。シン国の皇帝も其のつもりで日本に要請したのだろう。
葉は「えぇ」と情けない声を上げていたが取り合えず無視をする。シン国のメンバーは自分達の役割を理解しているので異論はなかった。
「藍華、葉頼む」
「私達が最初に出るわ。五分後ぐらいに出てくれる」
「了解した」
シン国ソルダの代表としてルーフェインが答え、藍華は怯えた顔をする葉に「行くわよ」と声をかけ先行する。
葉は遅れながらも藍華の後に続く。
「ラポール」
ディアーブル、ラ・モールは藍華と葉に気づき自分達から近づいてくる。
「セ、セルパン。絞めつけろ」
怯えながらも葉はエヴァンジルを発動させる。
「葉、動きを止めるだけでいいわ。後は私がやるから」
「分かった」
長距離系の葉を守りながらセルパンで動きを止められたサウロンを藍華は次々にラポールで石化していく。もう一人、中距離でも近距離でもいいから戦力が欲しいところだが日本を無防備にするわけにはいかないのでギリギリの人員だ。恐らくシンも此れが精一杯の人員なんだろう。
「うわっ」
藍華が少し離れたサウロンを攻撃している間にラ・モールが様に鎌で斬りかかって来た。葉のセルパンは別のサウロンに向けて発動している為、攻撃も防御もできずにラ・モールの鎌を受ける。心臓のギリギリ横を鎌がスライドした。
肉は裂け、血が吹き上がった。心臓は無事だが、感じたこともない激痛に声を上げることも動くこともできずに葉は蹲ってしまった。複数のラ・モールが葉に攻撃を仕掛けてくる。だが、葉は動かない。
藍華は後退し、三体の鎌を同時にラポールで受けた。防御一線になってしまった藍華をラ・モールの鎌が斬りつける。痛みと衝撃で膝をつきそうになるのを堪えながら藍華は三体の鎌を全て同時に弾いた。だが、弾かれ鎌は間髪入れずに再び藍華に向けて放たれる。
「藍華!?」
「来るな!」
時間になるまで岩陰に隠れていたリーファンが救助に向かおとしたのを藍華は厳しい声で制した。
「此の程度の傷なら直ぐに治る。気にせず任務を果たしなさい」
藍華の言う通り、背中につけられた傷を治す為に皮膚、体の細胞が動き出す。治っていく藍華の背につけられた傷を見てリーファンは口を紡ぐ。
自分達と日本のソルダは違う。人間を捨てられなかったシン国は何処の国よりもソルダの研究が遅れている。
そして生き残る為に人間性を捨てた日本はソルダの研究がシン国とは比べ物にならないぐらい進んでいる。
「ねぇ、ルーフェイン。其処までしないといけないの?」
傷を負う。負った傷を手当なしで完治させてしまう日本のソルダの戦い方を見て、彼らが人間であることを許されなかった運命を思い、リーファンは涙を溢した。
「其処までしないと人間(私達)は生き残れないの?」
「日本が彼らにしたことが正しいのか私には分かりません。シンが正しいと言えるだけの根拠はありません。きっと誰にも分からないでしょう。
其れでも私は生きたいし、此の国を守りたいと思います。其れは何処の国も同じだと思います。ただ必死なだけですよ」
ルーフェインの言っていることは分かる。けれど、口減らしの為にソルダとされたリーファンには国の勝手な都合だという怒りの方が強かった。
「そろそろ五分経つぜ。しかし、藍華は凄いな。一人でディアーブルを全滅させるなんてよ」
「残りはラ・モールですね。私達もそろそろ準備を。行きますよ」
「おう」
「ええ」
二人は大きく頷いた。もしかしたら死ぬかもしれない。けれど、覚悟はできている。そんな二人を頼もしく思いながらルーフェインは出るタイミングを計る為に前を見据える。
藍華はまだラ・モール三体と戦っていた。葉は傷が塞がらず蹲っている。
「高岡君、此のままでは死ぬわよ。戦いなさい」
「戦わなくても死ぬよ。血が沢山出て、痛みだってこんなに」
「傷は直ぐに塞がるわ。そうすれば痛みだって」
「でも、無理なんだよ。怖い。もう、帰りたい」
葉は元々補欠だった。実戦も此れが初めてだ。葉にとっては酷な話だ。普通なら数人の仲間でフォローして戦うべきだろう。実戦を重ねれば何れは少数で戦えるようになるかもしれないが、今はまだ其の段階ではない。
けれど勝成は敢えて葉に行かせた。最初、藍華には其の意味が分からなかった。




