表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/69

第六章 共闘Ⅲ

「此れを機に我が国と貴国の友好が深まることを願います」

 藍華の言葉にスーシェは深く頷いた。

 「今日はそなたらの歓迎会を催す。其れまで部屋で旅の疲れを癒すがよい」

 「ご気遣い痛み入ります」

 スーシェは隅に立つ臣下に目配せする。すると臣下は何も言わなくても皇帝の意を汲み二人を部屋に案内した。

 部屋は真ん中が共同の寛ぎとなり両端に其々の寝室に繋がるドアがある。

 部屋まで案内してくれた臣下は「何かありましたら遠慮なくお呼びください」と言って下がっていった。其処で初めて藍華と葉ははぁとお互いに息を吐いた。

 緊張のせいで呼吸をすることも忘れていたようだ。息を吐くとだいぶ楽になり、お互いに思っていた以上に緊張していたことを知り、笑った。

 「結構すらすらと難しい感じに皇帝と話しているから緊張していないのかと思ってた」

 「そんなわけないじゃん。もう、頭が真っ白で自分が何を言っているのかすら分からなかったよ」

 どんなにしっかりしていても藍華は中学生で一般市民だ。王宮に入ることもなければ国主と会話することすら本来なら有り得ない。

 「此の後は歓迎会か」

 「そんなのわざわざしてくれなくてもいいのに」

 「緊張で食事が喉を通らなさそう」

 歓迎をしてくれるのは藍華と葉にとっては有難いことだが、マナーなんてよく知らないし、お偉いさんとの食事何てしたことがない。だから歓迎会などに出席せず部屋に籠っていたいというのが本音だ。

 王宮と言う全てが高価な物で飾られた部屋ではどうにも落ち着かなく、ソファーに腰かけながら二人で話をしているとドアがノックされた。藍華が「どうぞ」と言うと数人の男女が入って来た。

 全員、黒髪と目だ。日本では珍しい。日本でも大人は黒髪黒目は多いが。其れでも大衆で見たら少ない。迎えに来てくれた人間も、部屋に案内してくれた人間も黒髪黒目だった。シン国は其れが当たり前なのかもしれない。

 「あなた達が日本のソルダですか?」

 腰まである長い黒髪を垂らした男が爽やかな笑顔を向けて来た。藍華と葉はお互いに顔を見合わせ、黒髪の男に向き直った。

 「ええ、そうよ」

 「初めまして、私はシン国のソルダ。ルーフェインです。此方は私の仲間のリーファン」

 きつい目をした女性はふんと効果音が聞こえそうな感じに顔を反らした。失礼な態度にルーフェインは咎めるがリーファンは聞こえないふりをする。

 「お気になさらず」という藍華の気遣いにルーフェインは困ったように「申し訳ありません」と言って、紹介を続ける。

 「私の隣に居る此の厳つい男がバクです」

 確かに厳つい。両腕には硬そうな筋肉ががっつりとついており、オールバックにされた髪を見るにも二人とは毛色が違うようだ。

 「日本のソルダ、黒崎藍華です。此方は高岡葉です」

 「どうも」

 「お二人とも我が国の言葉が堪能なんですね」

 「いいえ、此れはクリミネルが開発した翻訳機を使っているんです」

 「クリミネル?」

 「私達の国は、民はサウロンのことを知りません。其の為、其れを隠したりサウロンと対峙する為に動く組織が必要があるんです」

 「成程。クリミネルとはどういう意味なんですか?」

 「・・・・罪人」

 クリミネルの人間がどういうつもりで其の名前を付けたのかは知らない。けれど想像は難しくはない。くだらない良心の呵責でつけられた偽善めいた名前だ。

 言葉が少しきつすぎるかもしれない。けれど、彼らはくだらない良心の呵責でソルダを造ることは止めなかった。ならば、此の言葉は適切だろう。

 「ねぇ」

 藍華とルーフェインの会話に不機嫌な顔をしてリーファインが割って入った。言葉だけではなく、実際に藍華とルーフェインの間に入って来た。二人が会話をしているのが気に入らないのだろう。

 「私知ってるよ。日本の子供はサウロンのコアを体に組み込んでるって。だからそんな変な髪の色をしてるんでしょ」

 「リーファン!」

 ルーフェインの厳しい叱責が飛んだが、リーファンは構わず、寧ろ勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 「其れってあいつらと同じ化け物ってことじゃない」

 「リーファン!」

 もう一度、ルーフェインの叱責が飛んだ。

 葉はリーファンに侮蔑と怒りを込めた目で睨みつけた。でも、此処が他国で此れから一緒に任務にあたっていく相手なので揉め事はできるだけ避けようとして、黙って彼女の言葉を聞いていた。

 此れが蒼空やいずなだったらこうはいかない。喧嘩っ早い彼らは其の挑発に直ぐに乗って事が大きくなっていただろう。

 少々ムカつくが勝成の人選は正解だと藍華は嫌な気分で勝成を認めた。

 「リーファンでしたね、あなた」

 藍華は「何よ、文句があるなら言ってみなさいよ」と言いたげな目で睨んでくるリーファンにニッコリと微笑みかけた。

 藍華の左斜め後ろに立っていた葉には藍華がどんな表情をしているか分からなかったが、何故か背筋が凍りつくようなものを感じた。もしかしたら此れが悪寒というやつなのかもしれない。

 「あなたの言う通り、シン国の者からしたら私達は化け物ね。けれど、其れがどうしたっていうの?」

 藍華は笑っている。余裕の笑みで。舐めやがってと思って言い返してやりたい気持ちはある。けれど、リーファンは何も言えなかった。藍華の迫力に押されて、黙らされてしまったのだ。其れは己の力量不足のせいなのだが、リーファンは何て高慢な女だと勝手な感想を抱き、余計に己をイラつかせていた。

 其の全てを承知の上で藍華は笑って言った。

 「サウロンと戦えて、勝てるなら何も問題はないはずよ」

 「じょ、冗談でしょう。あんたらみたいな化け物と戦って後ろから撃たれるなんて私はごめんよ」

 リーファンにとっては漸く言えた一言だった。けれど、藍華は気にしない。

 「リーファン、いい加減にしろ!」

 ルーフェインは怒っているが、バクは藍華とリーファンのやり取りを面白そうに眺めていた。彼は此の喧嘩を止める気はないようだ。どうも癖のある連中だというのが藍華の抱いた彼らの印象だ。

 「後ろから撃つ必要はないわ。もし私があなたを殺すと決めたのなら正々堂々と前から攻撃させてもらうわ。何故って?其れでも余裕で勝てると判断できるからよ。

其れにあなたは何か勘違いをしているようだけれど、私達はあくまであなた方の要請に応じただけ。必要ないと言うのなら帰るだけよ」

 「リーファン、その通りだ。藍華、葉、すまない。ほら、もういいだろ、帰るぞ」

 ルーファインはリーファンを引きずって行った。

 「あんたいいね。俺はあんたみたいな女好きだぜ」

 片目を瞑って、ウィンクをしてバクは二人の後を追った。

 「僕達、あいつらと仲良く任務なんかできるのかな」

 「仲良くやる必要はないわ。私達は与えられた任務をこなすだけよ」

 と、言ったものの葉が抱いている不安は当然藍華の中にもあった。





 藍華と葉が憂鬱な気分で出席した歓迎会は無事に終了した。最初に話していた通り、二人とも緊張のあまり殆ど食事が喉を通らなかった。

 歓迎会が終了し、誰もが寝静まった深夜、藍華は部屋を抜け出し、中庭に居た。

 中庭の中央にある噴水に腰かけ、月を見上げた。ちょうど真上にある月は今日は綺麗な丸で何処も欠けていない。

 「Amazing grace how sweet the sound」

 いつの記憶は分からない。だが、藍華の脳裏に焼き付いている歌の歌詞の一文だった。こんな日はこんな歌を歌いたくなる。

 「That saved a wretch like me.

I once was lost now am found,

Was blind but now I see.」

 此の歌を思い出すといつも何処かで波の音が聞こえてくる。

 白い服を着た女の人が椅子に腰かけながら大きくなった腹部を撫で、此の歌を口ずさむ。其の女の顔は覚えていない。いつの記憶かも分からない。

 けれど、彼女が幸福に満ちていることだけは分かった。どうして分かるのか其れすらも分からないのに。

 「素晴らしい歌ですね」

 拍手と一緒に王宮の中から中庭に出てくる影があった。月明りに照らされた場所まで出てくるまで顔は見えなかったが藍華は警戒をしなかった。何故なら、声の質で誰かは直ぐに分かったからだ。

 「すみません、盗み聞きするつもりはなかったんですけど、たまたま聞こえてしまって」

 「構いませんよ。其れより眠れないのですか、ルーファイン」

 「ええ。あなたもですか?」

 「恥ずかしながら」

 「ご一緒しても?」

 藍華が頷くと、ルーファインは藍華の隣に腰を下ろした。

 「昼間は大変失礼しました」

 リーファンのことを言っているのだと藍華は直ぐに分かった。

 「いいえ、此方も言い返したのですからお互い様ですよ」

 「しかし、化け物とは」

 「強ち間違ってはいませんよ」

 藍華はルーファインに頼み、彼が腰に下げている刀を借りた。ルーファインが其れで何をするのかと見ていると、彼女は躊躇いもなく刀で自分の腕を斬った。

 「何を!」と言おうとしたルーファインだが、傷は直ぐに塞がった。まるで初めから傷などなかったかのように。

 「コアを移植している影響です」

 「でも、あなた方は国の為に戦っている。ならば私達と同じです」

 「私は国の為に戦っているわけではありません」

 「では、何の為に戦っているのですか?」

 「似たようなことを聞かれました」

 人ではなく、コアだけど。と、心の中で藍華は呟いた。

 「ただ、流されているだけです。他に道がなかったから、其れだけです」

 「あなただけではありませんよ。ご存知かも知りませんがシンは今食料困難に陥っています。口減らしの為我が子をソルダに志願させる親は少なくありません。リーファンも其の一人です。其のせいでしょう。彼女は全てに対してああいう態度をとってしまうんです」

 「あなたは違うように思います」

 物腰が上品で、貧民街の子のようには見えない。

 「私は右大臣の息子です。国を守りたくて自ら志願しました。私は次男で上に兄が一人居るので家は安泰です」

 「そうですか、其れは素晴らしいですね」

 藍華には分からない感覚だった。生まれた環境も生きる環境も違うのだ。当然価値観も変わるし、ものの考え方が違うのも当然だ。だから藍華は無理に分かろうとはしなかった。

 「其の、聞いてもいいですか?」

 少し言いにくそうにしながらルーファインは質問した。

 「コアを移植して、何か代償はないんですか?」

 「ありますよ、当然。何かを得る為に何かを支払うのは理です。何処の国でもただで物資は得られないでしょう。食事を摂る為に店で食材を買うのと同じです」

 「其の代償は?」

 「私達の命です」

 「・・・・・命」

 「二〇歳までは生きられませんね」

 「だから、罪人(クリミネル)

 「ええ」

 何でもないことのように藍華は笑う。でも、本当はもっと生きたいはずだ。其れを漏らさず任務遂行する藍華達、日本のソルダをルーファインは尊敬した。

 「あなた方は見た所、年齢層がバラバラですけど」

 「ええ。私は二六歳、バクは三六歳。リーファンは一六歳になります。私達はコアを体ではなく武器に移植しています」

 「日本では其の方法は成功しませんでした」

 「そうですね、シンでも失敗の分類になるでしょう。武器を使った戦闘は最低でも一回、最高でも一〇回以上いったことはなく、限界が来てサウロンに侵食されて私達の敵になります」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ