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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第四章 仲間Ⅲ





「どうするって、なっちゃん、駆除するしかないだろ。何とか俺らで。じゃないと武蔵野に人が住めなくなっちまう。

 ラ・モールはディアーブルのように憑依はしない。奴らは殺しを楽しむ」

 「感情があるんですか?」

 いずなは目を丸くし、驚いた。ディアーブルは本能のまま動く化け物だ。人間と呼べる存在ではなかった。同じサウロンでもこうも違うのはおかしい。

 「まるでディアーブルが進化したみたい」

 「鷹人の考えは強ち間違いではないかもしれんが今はまだ解明されてはいない。

 奴らの主な攻撃は手に持っている鎌だ。けど、そっちばっかに気を取られるんじゃないぞ。時々だが奴らは人の生き血を啜ることがある」

 「吸血鬼かよ」

 「戦闘力もディアーブルの比じゃない。心してかからないと死ぬぞ」

 「「「「はい」」」」

 「接近戦はできるだけ避けたい。可能な限りいずなのセマンスで仕留める。残りはいずなのフォローだ」

 全員が頷くのを確認してから戦闘開始だ。いずなはセマンスを発動させ、狙いを定める。

 自分の攻撃で全てを仕留める。其れはとんでもないプレッシャーだ。外せない。大丈夫、できると何度もいずなは心の中で唱えた。其れでも手の震えは止まらない。

 「いずなちゃん、大丈夫だ。外しても俺らがフォローする。其の為に俺らが居る」

 「桜井さん、サウロンと戦えるソルダはあなただけではないわ」

 「そうだよ。絶対、何処かで戦わないといけない相手だから外したら俺らの経験値が増えるだけ。其れってプラスじゃん」

 伯明と藍華が励まし、鷹人はおどけた様に言う。そして最後に「別に誰もお前なんかに期待してねぇよ」と蒼空の一言。口は悪いが彼なりの励ましだ。だからいずなも「うるさい」と笑って答える。

 そしてもう一度深呼吸をし、逸る気持ちを落ち着かせる。大丈夫、みんながついてる。と、心の中で唱える。やっていることはさっきと同じなのに不思議と手の震えは止まっていた。

 「芽吹け」

 いずなは三発の種を放った。すると一番近くに居たラ・モールは「待っていました」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、鎌で種を弾いた。

 「なっ」

 直ぐに残りの二体を確認する。二体とも無傷だ。いずなが放った種は全て鎌で弾かれていた。

 「そんな」

 「戦闘態勢に入れ」

 伯明の号令と同時に藍華、蒼空、鷹人はエヴァンジルを発動させ、伯明と夏帆は銃で応戦した。

 ラ・モールはセマンスの時とは違い、弾丸を避けることも鎌で弾くこともしなかった。ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。

 自分よりも弱い生き物が生きる為に牙を剥く様がおかしくて仕方がないのだ。

 「馬鹿にして」

 「よせ、なっちゃん前に出るな。俺達はあくまで後方支援だ」

 「あんな子供よりも私の方が戦えます!」

 「戻れ!」

 夏帆は伯明の命令を無視してラ・モールに近づく。

 「死ね、化け物」

 ラ・モールが振り回す鎌を軽々と避け、夏帆は引き金を引きまくる。何発撃ったかなんて考えない。全て頭に命中させればどんな生き物だって死ぬ。こんな子供よりも自分の方ができると夏帆は思っていた。だが、其れが間違いであったと彼女は直ぐに気づくことになる。

 「どう、して」

 「なっちゃん!」

 「十鳥さん!」

 頭に全ての銃弾をくらったラ・モール。だが、ラ・モールは笑っていた。笑いながら次の攻撃を待っているのだ。所詮は化け物。攻撃を避ける脳みそなどないと夏帆は思い込んでいたが実際は楽しんでいたのだ。力のない人間が意味のない攻撃をしてくることを。

 「モウ、終ワリカ?」

 頭に直接声が響くディアーブルとは違い、彼らは普通の人間と同じように言葉を使う。

 「ナラ、次ハ我ノ番ダ」

 殺される。そう思った。

 夏帆の前に鮮血が舞った。体が後ろに傾き、尻餅をつく。痛みはない。体を触っても怪我はない。

 「伯明さん」

 夏帆を庇って前に出た伯明の右肩から横腹にかけて赤い線ができていた。夏帆を庇ってラ・モールの鎌を受けたのだ。

 「伯明さん、夏帆さん」

 イロンデルの力を使ってワープして来た鷹人は夏帆と伯明の腕に触れ、もう一度ワープした。先程まで彼らが居た所に再び振り下ろされたラ・モールの鎌が突き刺さる。

 「あなたの相手は私達よ」

 三人に気を取られていたラ・モールは背後に回った藍華と蒼空の存在に気づくのに一歩遅れた。戦場では其の一歩が命取りになることを藍華と蒼空は戦場から教わった。

 「死になさい、化け物」

 藍華はラ・モールの体にラポールを突き刺す。「化け物」と言われてラ・モールは口元に笑みを浮かべた。其れは自嘲ともとれる不快な笑みだった。

 「我ト何ガ違ウ?」

 「マレディクシオン」

 藍華は石化していくラ・モールを見つめた。彼(と呼んでいいのかは不明だが)は最期まで笑っていた。

 己の運命か、人の弱さか、もしくはコアを移植され人間からソルダに変えられた藍華達かあるいは其の全てを、か。

 考える時間はない。後ろでは蒼空がラ・モールと戦っている。いずなは種をわざと鎌に当てラ・モールの攻撃の邪魔をしている。いずなの後ろには鷹人が助けた伯明と夏帆が居た。伯明は怪我をしたが、傷は思ったよりも深くはなく、夏帆の手当てを受けている。そして直ぐに鷹人も戦闘に加わった。

 「人間、オ前達ハ何モ守レナイ」

 「非力デ脆弱ナ生キ物」

 「うるせーよ」

 蒼空が鎌を弾いた。別のラ・モールが蒼空に向かって鎌を振り下ろす。其の鎌をいずなの種が弾く。次に鷹人のイロンデルがラ・モールを斬りつける。だが、傷は浅く、ラ・モールを仕留めるまでにはいかなかった。

 「どうだよ、非力な人間に傷を負わせられる気分は」

 嫌味のごとく蒼空は言った。だが、ラ・モールは怒ることもなくまじまじと蒼空を見つめた。

 「人間?」

 「否。オ前達ハ人間デハナイ」

 「何だと」

 「蒼空、聞いちゃだめよ。私達を惑わせようとしているだけだから」

 「あ、嗚呼」

 一瞬惑わされそうになった蒼空はいずなの言葉を素直に信じた。だが、鷹人だけはいずなの言葉を素直に捉えることができなかった。そんな鷹人の様子を藍華は見ていた。

 「ダガ此ノママジャ勝テナイノモ事実」

 「ナラ、勝テル様ニスルダケダ」

 急に何をと思ったら、ラ・モールがラ・モールを食い始めた。

 「共食いかよ」

 「気持ち悪い」

 「違う」

 「ただの共食いじゃない」

 「みんな離れて」

 鷹人の指示でラ・モールの共食いを茫然と見ていたソルダは全員直ぐにラ・モールと距離を取った。

 傷の手当てを終えた伯明と夏帆もソルダ達よりも少し離れた場所から二体だったラ・モールが一体になっていくのを見ていた。勿論、カメラから状況確認しているコントロールも。

 「状況はどうなっている」

 「二体のラ・モールのコアが合体して中で肥大しているようです。」

 「凄い。こんな質量見たことがない」

 モニターでラ・モールを分析していた職員は思わず手を止めてしまった。モニターで表している数値もカメラで映し出しているラ・モールの姿は五階建てのビルと同じ大きさになっていた。

 「コアの位置を把握しろ」

 「は、はい」

 勝成はカメラに映るラ・モールを見つめる。

 「・・・・最悪だ」





 肥大が止まったラ・モールをいずなが真っ先に種を撃ち込んだ。体が巨大になった分動きは鈍くなり、攻撃は当たりやすかった。ラ・モールの体から植物が生え、攻撃は成功したが、ラ・モールの動きを止めるには至らなかった。

 ラ・モールは鎌で体から生えた植物を切り落とした。

 「・・・・嘘」

 「此れならどうだ!」

 蒼空は牙を振り上げ、突き刺した。ラ・モールは蠅でも叩く様に蒼空を叩いた。動作からしてそんなに力は込められていなかったはずだ。けれど、蒼空の体は横に一〇メートル飛ばされ、公園に備え付けられた花壇に突っ込んだ。

 「うわ!」

 「「「蒼空」」」

 攻撃は当たっても効かない。当然だ。ビル五階建てとなったラ・モールを攻撃するのにソルダ達が持っている武器は大きすぎる。

 こんな化け物に敵うはずがない。全員の心に恐怖よりも勝る落胆が現れた。

 「うらぁぁぁ」


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