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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第四章 仲間Ⅱ

「惜しかったね」

 「次は勝つわよ」

 いずなは乱暴に藍華からペットボトルを取った。

 「だいたいアンタ何しに来たのよ、私達の訓練なんか見て笑いに来たわけ」

 「いずなちゃん」

 喧嘩腰のいずなを舞子が諫めようとする。だが、いずなは藍華を睨んだまま舞子の制止を聞くつもりはないようだ。

 「此れから一緒に戦う仲間の力を事前に知っておこうと思っただけよ。じゃないと、どう戦えばいいか分からない。本場で仲間の力を知って、どう戦おうって悩んでいる暇なんてないから」

 「は、さすが経験者様」

 「いずなちゃん、そんな言い方よくないよ」

 「舞子は黙っていて、向こうが先に喧嘩を売って来たんだから」

 「私は喧嘩を売ったつもりはないよ。至極当たり前のことを言っただけ」

 「何ですて」

 「舞子ちゃん、落ち着きなよ。藍華ちゃんも其処まで」

 伯明が間に割って入るといずなの反論は其処で終わり、藍華は肩を竦めただけだった。

 「今からもう一回模擬戦をするぞ。今度は舞子ちゃん、いずなちゃん、蒼空、タカ、葉の五人と藍華ちゃんが戦う」

 「ちょっ、蓮城さん幾ら何でも五対一なんて」

 「そうだぜ、おっさん。フェアじゃない」

 「私も反対よ。そんなんで黒崎に勝っても嬉しくもなんともないわ」

 真っ先に反対したのは鷹人、蒼空、いずなの三人だ。葉と舞子はオロオロしながら成り行きを見ていた。

 「だとさ。どうする、藍華ちゃん」

 伯明が聞くと藍華は「構わない」と即答した。

 「舐めやがって」

 藍華の態度がいずなは兎に角気に入らなかった。

 「いいわ、そんなに言うのならやってやろうじゃない」

 いずなは首に巻いていたタオルを投げ捨てるように置き、訓練室の真ん中に行く。藍華もいずなの後に続いた為、気が引けながらも蒼空と鷹人も続くことにした。

 葉と舞子は顔を見合わせた後、伯明に促され仕方がなくいずな達の所に行った。

 「セマンス」

 いずなのエヴァンジルは銃の形状を取った。

 「ラポール」

 藍華の発動を確認して直ぐにいずなは引き金を引いた。打ち込んだ種は五発

 「芽吹け」

種は確かに着弾したはずだ。だが、其処に藍華の姿はなかった。

 「な、何処に行った!?」

 否。藍華は何処にも行ってはいなかった。藍華がラポールを発動すると同時にいずなが発砲することを呼んでいた藍華は予測した着弾点よりも前に出ていずなの攻撃を避けたのだ。

 「くそ」

 いずなは慌てて引き金を引く。何度も何度も引き金を引くが、藍華に種は当たらない。其れどころか藍華はどんどんいずなとの距離を縮めてくる。

 「フォイユ」

 舞子のエヴァンジルが葉の形状に姿を変え、其れは分身でもしたかのように無数になって切り裂く風のごとく藍華に襲い掛かる。

 藍華は可能な限りラポールでフォイユを叩き落とす。叩き落とせなかったものは其のまま藍華の体に刺さった。藍華の体から血が流れるが藍華は構わずことなく進む。どんな攻撃を受けても藍華の足は止まらなかった。むしろ流れ出る血を見たいずなと舞子の方が攻撃を止めてしまったぐらいだ。

 「葉、セルパンで藍華ちゃんの動きを止めて」

 「でも」

 「いいから」

 鷹人の指示で戸惑いながらも葉はセルパンを発動した。藍華の体に黒大蛇が巻き付く。藍華の動きが初めて止まったのだ。今が攻撃する絶好の機会だと思った蒼空は迷わず藍華に突っ込んでいく。

 藍華は一度ラポールの発動を止めた。すると腕一本は抜けられる隙間ができた。其処で藍華は再びラポールを発動した。

 「なっ」

 自由になった腕をスライドさせると大蛇は簡単に壊れてしまった。

 蒼空の武器は獣の牙だ。藍華はラポールで蒼空の牙を受け止めた。

 「やるじゃねぇか。でも」

殺気を感じ背後を横目で見るとさっきまで前に居たはずの鷹人が藍華の後ろに居た。彼は燕の柄が彫られたサバイバルナイフを持っている。

 「此れで終わりだ」

 其のナイフが振り下ろされる瞬間、藍華は一歩下がった。すると前に体重を傾けていた蒼空は簡単に体勢を崩した。

 蒼空の体重が前に傾いたので藍華は彼の手を前に引っ張った。そして藍華は自分の体を横にずらす。すると、前から攻撃していた蒼空と背後に周り攻撃をしかけた鷹人はぶつかって倒れた。

 決着は誰の目から見ても明らかだ。藍華の完全勝利。此れには伯明も驚いた。

 藍華は戦闘センスが良い。ソルダとして既に活躍もし、実戦経験があるので五人相手に良いところまで行くとは思っていたが完全勝利をされるとは思わなかったのだ。

 藍華の実戦経験はまだ片手でおさまる程度だ。其れで此処まで化けた。もしかしたら藍華には戦闘の才能があるのかもしれない。普通に暮らしていたら決して発揮されることがない才能。

 藍華の体には幾つものフォイユが刺さっていた。藍華は無造作に其れを抜き取る。すると血が噴水のように飛び出た。だが、傷口は直ぐに塞がった。

 そう、直ぐに治ったのだ。発動時は治癒能力が上がる。だから骨折しても数時間で治癒が可能だ。今のはどう見ても刺し傷。果たして、此処まで彼女は治癒力に優れていたか。伯明の中で疑問が浮かんだ。

 「藍華ちゃん、ごめん。大丈夫だった?」

 藍華を傷つけてしまったことを舞子は泣きながら謝った。友達の血を見て、動揺しているのか、彼女の目から大量の涙が止まらない。

 「平気。直ぐに治る」

 「でも、痛かったでしょ」

 「・・・・・」

 「藍華ちゃん?」

 「何でもない。平気だから気にしないで」

 「・・・・うん」

 藍華は自分でも驚いた表情をしていた。けれど、何に驚いたのかを聞かれる前に直ぐに笑顔で取り繕った。

 「くそ」といずなは悔しがっていた。元々気が強くて、負けるのが大嫌いなのだ。

 「あなたはさっき言った。『次は勝つ』と。でも此れが実戦なら次はないわ。敗けの先にあるのは死よ」

 そう、此れが彼らの一番の問題点。戦うことを決意してくれたのは良いが、彼らはまだ戦うことがどういうことなのかを分かっていない。頭では理解していても戦場で踏み出した一歩が死に繋がると理性的に判断はできないのだ。平和な生活の中で暮らしていたのだから其れは仕方がないことなのかもしれないが、早急に改善が必要だと伯明も思っていた。

 其れを藍華はずばり的中させた。蒼空、鷹人、葉、いずな、舞子は藍華に指摘されて自分達の認識の甘さを痛感した。

 「まぁ、実際に戦ってみないとそういう認識は難しいからな」

 重くなった空気を払拭する為に伯明はわざと明るく言った。彼の気遣いを理解し、いずな、鷹人、舞子、葉は苦笑をした。蒼空だけは表情に変化はなかったが、彼の気遣いには有難く思っていると、蒼空は不愛想な弟を見て思った。

 「其れより藍華ちゃんは大丈夫?」

 「問題ありません。」

 「傷の治りが思ったよりも早い気がするけど」

 「え、そうなの?」

 伯明の指摘にいずなを筆頭に全員が藍華を見つめた。藍華はよく見ているなと伯明に関心した。

 「遅いよりは良いかと思いますが」

 「其の分、体に負荷が行くってことを念頭に置いてほしいものだな」

 「そうですね。けれど、今のところ異変はないので様子見でいいと思いますよ」

 「そうだな。何かあったら直ぐに報告しろよ」

 「はい」

 藍華は笑顔で返事をしたが、伯明は信用できなかった。

 藍華は自分の体に執着があまり見られない。何かあっても仕方がないで片付けてしまいそうなのが怖いと伯明は密かに思っていた。

 「私の時みたいに一週間は訓練するんですか?」

 「嗚呼。実験の結果、体がエヴァンジルの発動に馴染むのに其れぐらいかかるからな」

 「一週間乗り切れば発動後の筋肉痛はなくなるんですか?」

 体に無理な負荷をかける為に発動を解くと激しい筋肉に襲われ、まともに動ける人はいなくなる。

 「マシはなるんじゃねぇか」

 経験者でも科学者でもない伯明は其の答えを持っていないので藍華に確認の意味を込めて視線を向けた。

 「そうですね、発動回数が増える程筋肉痛は軽減している気がします」

 「やった」

 「いつも此れじゃあ身が持たないよね」

 と、葉と舞子は純粋に喜んでいたが藍華はその分自分が化け物に近づいている気がしている。藍華は模擬戦で怪我をした腕を見た。其処に傷はやはりなかった。

 『痛かったでしょ』と、舞子は言った。痛みは確かにあった。けれど、鋭い葉が皮膚を突き破ったにしては感じた痛みが少ない気がした。

 此のまま戦い続けたら自分は一体何になるのだろうという不安を打ち消す様に藍華は伯明達に断りを入れて訓練室を出た。

 考え事をしていたせいで藍華は蒼空が心配そうに自分を見つめていることに気がつかなかった。

 「蒼空、どうかした?」

 「何でもない」と、鷹人に答えながらも蒼空の目は藍華が去った方向にずっと向いていた。


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