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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第四章 仲間

「彰君、久し振りね」

 学校の帰りにスーパーに寄った藍華は日名子の弟の彰にあった。彼は今年で一二歳になるが家の一切の家事を担当しており、とてもしっかりした男の子だ。

 「あ、藍華さん」

 彰は藍華に声をかけられ思わず上ずった声を出してしまった。

 「晩御飯の買い出し?」

 「はい」

 「偉いわね、いつも家のことをして」

 藍華に褒められ、赤くなっていた彰の頬が更に赤くなる。

 「愛睦にも見習わせたいわ」

 「其れを言うならうちの姉にもですよ」

 彰はわざとらしく肩をすくませた。頑張って背伸びしている様子が可愛くて藍華の口元に自然と笑みが刻まれる。

 「お互い、手のかかるきょうだいを持つと大変ね」

 「全くです」

 「ところで、彰君は今日の晩御飯何にするつもり?私、ちょっと迷っていて」

 「僕はピーマンの肉詰めにするつもりです。後はコンソメスープとか」

 「其れいいわね。私もそうしようかしら」

 「じゃあ、おそろいですね」

 「そうね」

 スーパーで藍華とのひと時を過ごせた彰はスキップをしながら家に帰った。姉の日名子はまだ帰ってはいない。

 「藍華さん、いつ見ても綺麗だな」

 勝ってきた材料を冷蔵庫に仕舞い、リビングに掃除機をかける。浴室を掃除してお湯を入れる時間を設定する。そうするとボタンを押さなくても時間になれば勝手にお風呂が湯を沸かしてくれるのだ。

 「さて、さくさくっと夕飯を作ってしまうか」

 日名子が大食管なので三人分の食事でも量は大家族並みになる。だから一人で作るのは正直大変だ。

 日名子が帰って来たのは一九時を回ってからだ。今日は珍しく早い。

 「ああ、お腹すいた」と帰るなり行ってくる。どうせ途中でハンバーガーショップに寄って買い食いしたくせに。うちの家計は此の大食い姉のせいで火の車だ。

 「彰、今日は何?」

 「ピーマンの肉詰めとコンソメスープ」

 「じゃあ、早く食べちゃおうよ。私、お腹がすいた」

 「はいはい」

 彰はぼよんと揺れる日名子の腹部を見つめた。制服は先月新調したばかりだ。其れでももうきつい感じがする。主にお腹周りが。

 ブラウスのボタンは一応留まってはいるが無理に留めているせいでボタンの穴が伸びてしまっている。此れ以上無理に留めたらボタンが何処かに飛んで行ってしまいそうだ。

 「姉ちゃん、制服また新調しないと着られなくなるよ」

 「成長期だからね」と日名子は彰がテーブルに並べてくれた肉詰めピーマンの肉だけを取って食べる。

 「ピーマンも食べなよ」

 「アンタにあげる」

 「要らないよ。人が残したものなんて」

 「姉弟なんだから気にすることじゃないでしょ。まったく潔癖症なんだから」

 「そういう問題じゃない。其れに姉ちゃんの成長期は自分でコントロールできると思うよ」

 暗に此れ以上は太るなと彰は言うが日名子は何処吹く風で肉を頬張る。お皿には肉が剥ぎ取られた半切れのピーマンのみが残っていく。

 明日の夕飯は肉なし。野菜オンリーにしようと彰は思った。勿論、口にはしない。そんなことを言ってしまったら明日、日名子は外で食事をすませてしまうからだ。家計的に外食できる余裕はない。少しは控えてもらわないと。





 「藍華ちゃんの検査結果が出たわ」

 「科学班の君が報告に?」

 「仁美は病院の方が忙しいから私が代わりを引き継いだの。検査については私も少し立ち会ったから」

 「そうか。なら、報告を」

 藍華からコアには自我があるという情報をもたらされてから三日後、ようやく藍華の検査結果が出た。

 「結果から言うと内臓に多少の負担はかかったみたいだけど特に変化はないわ」

 「そうか」

 今日子の説明を片手間で聞きながら勝成は返事をした。

 「相変わらず殺風景な部屋ね」

 コントロールルームとは別に勝成専用の書斎がある。其処には来客用のソファーがある。其れ以外には何も存在しない。机の上にも写真一つない。

 「家族の写真ぐらい飾ったら?」

 「・・・・家族写真、か」

 写真を置くぐらいのスペースは机にはある。勝成は自分が机に写真を飾る様子を想像して苦笑した。

 「何よ、私何か変なこと言った?」

 「いや、すまない。そうじゃないんだ」

 「じゃあ、何?」

 「家族写真は家にはある。でも、藍華が映った写真は一枚も無いんだ」

 「どうして?」

 「愛睦は時子(ときこ)さんに似ていると思わないか」

 「そうね、確かにしていると思うわ」

 「対して藍華は仁美に似ている。とてもね」

 「仁美が藍華ちゃんを嫌う理由は其処にあるのかしら」

 「あれは未だに許せないのだろう」

 「でも、其れは」

 「勿論、藍華に罪はない。私はあの子に其の罪を背負わせるべきではないと思っている」

 「・・・・・写真、今からでも撮ったら?」

 「今更家族ごっこに興じろと?偽物臭くて虚しくなるだけだ」

 「其れでもよ!藍華ちゃんはソルダなのよ、いつ死んでもおかしくはないわ。だったら今のうちに」

 「あの子は私達を恨んでいる。当然だ。『愛している』など言ったことがない。いつも愛睦を優遇する仁美を私は咎めたことがない。知らないふりをずっと続けてきたのだ。今更真っ当な父親を演じても其れはただの自己満足で、藍華を混乱させるだけだ。其れにそんなのは虫が良すぎるというものだ」

 勝成の言うことも一理ある。けれど、此のまま中途半端な家族のまま進んでも先に何が待っているというのだろう。もし、此の状況で藍華の身に何かあった場合、後悔するのは其れをしなかった勝成達なのだ。

 「後悔は先に立ってはくれないのよ」

 「分かっている。だが、私達は自分の娘をソルダにした。その時点で親である資格はないのだ」

 何処までも厳格で、何処までも不器用な勝成。

 「人の心がもっと単純にできていたらいいのにね」

 「そうだな」

「仕事に戻るわ。今日は藍華ちゃんも本部に来るそうだから顔を見せるぐらいはすれば」

 「・・・・嗚呼」

 勝成の机の上には大量の書類が積み上がっていた。此の仕事が片付かないと勝成は書斎からは出てこないだろう。そしてどう見ても此の量は今日中に片付くものではない。だから勝成は今日、藍華に顔を見せには来ない。けれど、此処から先は他人の自分が踏み込むべき場所ではない。だから今日子は何も言わずに書斎を出た。

 長く続く廊下を歩き、仕事場に戻る。其処には幾つもの水槽があり、中にはサウロンが入っている。

 三〇年前突如として出現した此の化け物に対抗する術はなく、政府高官はヘリや独自のルートを使って国と国民を捨てて逃げた。

 残された民はどうすることもできず、繰り広げられる現実に戸惑い、受け入れる暇もなく殺されていった。今にしてみれば其れはある意味幸せなことなのかもしれない。余計な咎を負わずに済む。

 自分達の行いが正しいなんて言わない。

 「津久茂先生、新しく取り出されたコアです。確認をお願いします。」

 「今行く」

 水槽に浸かるサウロンから目を逸らし、今日子は血のように真っ赤なコアを見つめた。

 赤は今日子の最も嫌いな色だ。自分の手が赤く染まっていることを思い知らされるみたいで嫌になる。

 「相変わらず綺麗な色ね」

 「・・・・藍華ちゃん」

 「検査結果が出たと聞いたのですが、黒崎博士は忙しいみたいで、津久茂先生に聞くように言われたので」

 「検査結果に問題はなかったわ」

 「そうですか、其れは良かった」

 「此の後は何か用事でも?」

 「ソルダ候補が訓練しているみたいなので見学に」

 「そう」

 「赤は」

 「え?」

 「赤は私の好きな色でもあります。赤には人を魅了する、そんな感じがします。」

 「そう」

 藍華が何を言いたいのか今日子は測りかねている。

 「当然ですね。人の体内に流れているものと同じ色なのですから」

 「!?」

 口元には笑みが刻まれているが、彼女の眼は一切の感情が切り捨てられていた。まるで冷酷な殺人鬼のように冷たい。

 「人の体内にも血は流れている。だから人は何処までも血生臭いのかもしれませんね」

 そう言って藍華は出て行った。

 「彼女、何が言いたかったのでしょう?」

 近くで話を聞いていた研究員は藍華の言ったことが分からず、不気味なものでも見るような目を藍華に向けていた。

 「曲がりなりにも黒崎指令の娘、ということでしょ」

 「其れはどういう意味ですか?」

 「さぁね」

 あれは藍華なりの慰めだ。

 「子供に心を見透かされるなんて、情けがないわね」

 「先生?」

 「何でもないわ。仕事に戻って」

 「はい」





 「蓮城さん」

 「よう、藍華ちゃん。今日はどうした?」

 「検査結果を聞きに来たついでに寄ってみただけです。」

 「そうか、其れで結果は?」

 「問題はないそうです。」

 「其れは良かった」

 訓練室はソルダ候補の五人が二グループに分かれて戦っていた。

 元々運動の得意いずなは動きに切れがあり即戦力として使える。舞子の能力も後方支援になるが、なかなかいい。だが、体の弱い彼女は体力が無く長時間エヴァンジルを発動させるのは無理だ。

 葉は争い事が苦手で臆病なタイプだ。其れが戦闘にも出ている。読みはいいが、動きは遅い。恐怖で足がから回っている感じだ。

 蒼空と鷹人は双子なだけあって連携がとても上手い。ただ、蒼空は独走する癖があるようで、其れが戦いで吉と出るか凶と出るか其の時によって大きく出るだろう。

 「高岡君だけエヴァンジルの形態が少し違うんですね」

 武器化している他のメンバーと違って葉の武器は腕輪だ。まるで蛇が腕に巻き付き、今にも絞め殺しそうな感じだ。

 「嗚呼、発動前と形態は同じだ。背質の違いだな」

 「そうですか。」

 「其れよりクラスメイトの訓練風景を見たご感想は?」

 「桜井さん、タカは問題はないですね」

 「他には問題あり、か?」

 自分でも気づいているが敢えて藍華に言わそうとする伯明は思ったより性格が悪いと藍華は思った。

 「蒼空は独走しがちです。此れで戦っている最中に孤立し、返って仲間を危険にさらす可能性があります。一宮さんは体力が無いので長期戦には不向き、高岡君は怖がっているのが戦闘中でも伝わってきます。あれでは動きが遅くなり敵の攻撃を受けやすくなってしまいます」

 藍華の感想は伯明の感想と完全に一致した。伯明からしたら藍華は戦闘においてはまだ素人だ。にも関わらず瞬時に分析し問題点を上げられるとはさすがの伯明も思わなかった。

 「ちょっと黒崎、アンタ高みの見物して人を分析して、先にソルダに選ばれて戦闘経験があるからっていい気になってじゃないわよ」

 訓練とはいえ戦闘中であるにも関わらずいずなは藍華と伯明の会話を聞いていた。

 嚙みつくような目で藍華を睨んできた。藍華は笑顔を見せ、けれど自分は全然悪くないと思いながら「ごめんなさい、桜井さん」と素直に謝った。

 「そんなこと思っちゃいないくせに」

 「そんなことないよ、私の本心。でも、集中しないと負けちゃうよ」

 いずな、舞子、葉のグループは鷹人、蒼空のグループに押され気味だ。

 体力のない舞子を庇いながら攻撃しているせいでいずなは蒼空、鷹人のグループになかなか攻め込めず、防戦一方だ。

 葉が攻めるという手もあるが彼の武器の背質からして後方支援が相応しい。しかも、臆病が先に走り、弱腰だ。仮に前衛タイプの武器を持っていたとしても攻められるにはいけなかっただろう。

 攻撃が来るたびに「ひぃ」と情けない声を上げ、其れがいずなの神経を逆撫でする。

 「藍華ちゃんって性格悪いよね。いずなちゃんが苛立ってんの知っててそういう火に油みたいなことを平気で言うんだから」

 「苛立っているせいで動きが単調になってきましたね」

 「そうなるって分かってて言ったんだろう」

 「ええ。訓練だからいいじゃないですか。」

 「・・・・藍華ちゃんだけは敵に回したくないかも」

 模擬戦は思ったよりも早く決着がついた。結果は藍華と伯明が予想した通り蒼空、鷹人の勝ちだ。

 「お疲れ」

 藍華は訓練室に置いてあったクーラーボックスからペットボトルを取り出し、五人に配った。


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