第三章 覚悟Ⅳ
勝成に促され、藍華は自分が意識を失っていた時のことを説明した。
「コアは言っていました。発動前自分は檻に閉じ込められた状態で、力を完全に発揮もできなければ、私との同化も難しい。けれど、エヴァンジルを発動している時だけは自分は檻から出され完全に私と同化できると。其の為死に等しい怪我でも完治は可能だと」
「じゃあ、今のあなたはまだ戦えと言われたら戦えるの?」
今日子の質問に藍華は頷いた。
「限界はあると思います。其の限界が何処なのか私には分かりませんが、可能です。」
「今、発動を解いてしまったらあなたはどうなるの?」
「コアが言うには人間の体は怪我を一瞬で治せるようにはできてはおらず、其れをするにはかなりの負荷がかかるそうです。一晩休息すれば問題はないと」
「そう。でも一回、ソルダの限界が何処までなのか知りたいわね」
「津久茂、藍華ちゃん達は道具じゃない。そうでもエヴァンジルの発動は体に負荷を与えるんだ。本来なら藍華ちゃんにも早々に発動を解いて休んでもらうべきなんだぞ」
不用意な発言に目くじらを立てる伯明に「冗談よ」と今日子は肩をすくめた。
実際は冗談ではない。科学者として何処まで彼らが戦えるのか探求してみたい。けれど、此れは彼らの命にも関わることなので其処まで無茶ができないのも事実なので思うだけにしておく。
「コアと意思疎通をして、骨折を早急に完治させた。其れで藍華の体に変化がないのか調べてみたいわ」
そう発言したのは仁美だった。発言内容だけでは、彼女が娘の体を心配して検査をしたいと捉えることができる。けれど、彼女は自分の娘を平気で被験体にしたような女だ。彼女の表情からも娘を心配している母の色は一つもない。彼女は純粋に科学者としての結果を求めているのだ。
「そうだな。藍華、今日は取り合えず仁美の検査を受けなさい」
「はい」
「ちょっと待てよ、エヴァンジルの発動はどうするんだ?もう五時間以上も発動しっぱなしだ。さすがに発動は解いた方がいいだろう。此のままじゃあ藍華ちゃんの体に負担がかかりすぎる」
「診察室で発動は解き、念の為、伯明お前も同行しろ」
「俺?」
「藍華が倒れた場合、男手がいるだろ」
「そうだな」
「今日の所は此れで解散だ。君達も帰ったいいよ」
「あ、はい」
声をかけられ、代表という形で鷹人が返事をした。彼らは藍華と会議室の前で別れた。
「何よ、あれ」
勝成と仁美は藍華に一度も「お帰り」とも「よく頑張ったね」とも言っていない。無事に帰って来たのに其れを喜ぶ節さえ見せない。藍華も其のことを気にしている様子はない。
其のことがいずなの神経を逆撫でさせた。
「いずなちゃん」
藍華のことを思って、怒り、目に涙を溜めるいずなに舞子は寄り添った。
「私達がその分、たくさん言ってあげよう。『無事でよかった』って」
「そうね」
「俺達、あっちだから」
「うん。またね」
「僕はこっちだから」
「じゃあね、高岡君」
「じゃあね」
十字路で其々は違う道を歩き始めた。
「・・・・・こんな風にさ」
みんなと別れた後、鷹人は口を開いた。
「さっきの十字路みたいに、みんなが其々違う道を行く。そんな未来があるんだと思ってた。其れは別れを意味していてちょっぴり寂しいなと思いながらも待ち受けている未来にわくわくしている自分も居た。でも、其の隣には必ず不安もあった」
「中学卒業してからの話か?」
唐突で意味不明の言葉でも長年、双子の弟をしていれば片割れが何を言いたいのか直ぐに分かった。
「そうそう」
自分で始めた話なのに「よく分かったね」と鷹人は言った。彼のこういう天然なところを見ると脱力してしまう。
すると、さっきまで自分が思っていた以上に力んでいたことに気がついた。緊張の連続だったけど、さっきまでは其のことにすら気づかなかった。だから、本部を出た後でもまだ自分が緊張していたことに気がつかなかったのだ。
さっきの鷹人の天然はもしかしてわざとなのかと思ったが、自分の兄にそんな腹黒さがあったら嫌なので聞かないことにした。
「どんな高校に行くのか、高校によってはさ未来が決まってしまったりするじゃん」
「まぁな」
「だからみんな凄い慎重になる」
「中には適当に決める奴も居るけどな」
「まぁね。でも、そんな未来があるって当たり前に信じられたけど今は明日さえ見えないね」
「そうだな」
「今日、藍華ちゃんは戦っているのを見て正直、怖かった。藍華ちゃんが死んじゃうんじゃないかって思うとたまらなく怖かった」
「お前は自分が死ぬかもしれないってよりも他人の死に恐怖を感じて、そうならないように必死になってそうだな」
「其れは蒼空も同じだと思うよ」
「俺はどうだろうな」
「ソルダとしてやっていけそう?」
「分からない。今はただやらなきゃなって感じ」
「同じだ」
「キモイ」
「ええ、酷い」
顔を見合わせながら二人は笑った。笑って不安や恐怖を打ち消そうとしている。其れをお互いに知っているから冗談を言い続ける。
夜の闇を押しのけるように男二人の笑い声が木霊する。




