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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
偽りの平和

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第三章 覚悟Ⅲ

「くっ」

 「藍華さん」

 折れた左腕は上手く動かない。

左腕が足手まといだと考えた藍華は意識を失っていた時、コアに自我があることを思い出した。そして、自分が戦えるのはコアの力でもあることを。ならば、一か八か。

「コア、左腕の怪我を早急に治してくれ」

すると<ええ、無茶を言うなよ>と頭に響く声があった。ディアーブルの声とはまた違う音域を持った声だった。

 「無茶でもできないわけではないのでしょう、ならばしなさい」

 「藍華さん?」

 「黒崎?」

 藤島と池田屋は不思議そうに藍華を見つめた。状況的に説明している暇もないので、二人の問いは無視をすることにした。

 <意外とコア使いが荒いよね>と、コアが苦笑した様に思えた。

 コア使いってなんだよ、と藍華は心の中で突っ込んだ。

 <人間の体は本来、傷を一瞬で治すようにはできていない。だから負担がかなりかかるから覚悟しておいてね>

 折れた左腕は一瞬で治った。動ける左腕を確認した藍華は左腕に巻き付いた触手を掴み、引き千切った。

 そして左腕で思いっきり殴ってやった。すると、態勢を崩したディアーブルから池田屋が解放された。

 伯明が言った通り皮手袋をした手で殴るとディアーブルにも多少のダメージは与えられたようだ。其れに先程、簡単にディアーブルを引き千切れたが、素手では不可能だろう。

 藍華は此の勢いに乗り二体のディアーブルを倒すことに成功した。藤島、池田屋は無事だ。問題は素子。助け出した時には意識がないようだった。

 「素子さんは?」

 素子に先に駆け寄っていた二人に問うと二人は静かに首を横に振った。

 直ぐに素子に駆け寄り、触れてみると温かった。心臓の音もする。胸が上下に動いているので呼吸もしている。ただ意識がないだけだ。

 「生きている。でも、心を持っていかれた」

 藍華の疑問を察したかのように藤島は言った。其れでもまだ藍華には状況が理解できなかった。

 「藍華さん、脳死と同じ状態なんだ」

 「脳死?」

 藤島の説明不足は池田屋が補った。

 「ディアーブルは人に取り付く。此のことを憑依と言うんだけど、彼女は其の一歩手前の状態だね。彼らは巧妙に人の心に入り込んできて、心を壊してしまうんだ。心を壊してから彼らは人に憑依する」

 「あと一歩私が助けるのが早ければ彼女は」

 「お前のせいじゃない」

 慰めにもならないと分かってはいたが何もしないよりはましだと思い、藤島は藍華の頭を撫でた。

 「お前がもう少し遅ければ彼女は憑依されていた。もう二度と素子が目を覚ますことはないが死んだわけじゃない」

 「だから、脳死と言うのね」

 「嗚呼」

 「其れって死と等価じゃない」

 「かもな」

 「行こう、藍華さん。まだ任務は続いている」

 「はい」

 池田屋に支えられながら藍華は車に乗った。藤島が運転席に座り、車を走り出した。

 <藍華、ラポールの発動は解くな>

 コアの声が頭に響く。

 <ラポールを発動している時、我とお前は完全に同化した状態だ。だから、死に等しい傷でも治してやれる。だが発動を解けば我の力は閉じ込められてしまう。

 お前は無理をしすぎた。発動を解けば今のお前に我を発動する体力は残っていない>

 「・・・・分かった」

 藤島が後部座席に居る藍華を見た。コアにした返事が彼にも聞こえたのだろう。だが、戦いで疲れてしまった藍華は説明することも億劫なので気づかないふりをした。

 今は英気を養っているのだと理解した藤島と池田屋は疑問があるし、直ぐにでも聞きたいが何も聞かないことを選んだ。

 一時間して結界を張っている場所に辿り着いた。結界を張っている場所には壊れた黄金のクロワがあった。フィデールが使う物よりも大きい。

 黄金のクロワの前にはフィデールの死体があった。

 「死体があるということは此処を襲ったのはラ・モールだな」

 「ラ・モールは確か、人に憑依はしないと聞きました」

 「嗚呼。死神の鎌のようなもので人を切り裂くだけだ。理由は分からんが」

 まだ藍華はラ・モールと戦ったことがない。自然とラポールを握る手に力が入る。

 「何故、フィデールの死体が此処にあるの?」

 「クロワは誰でも使えるわけではない。俺達の霊力を糧とする」

 「霊力って、霊能力者が使う」

 「そうだ。そして常にフィデールがついて霊力を供給している。市街を守る結界は司祭クラスが担当する。国に申請して派遣してもらいますが今回のように間に合わなければ司祭が来るまで俺達神父が担当する」

 「・・・・そう」

 クロワは修復不可能な程粉々になっている為、修復は諦め新たなクロワを藤島と池田屋は設置し始めた。

 其の間、藍華はラポールを握りしめ、サウロンに注意する。ふと、足元に転がる死体に目が行く。

 自身のクロワを握りしめ、目を開いたまま死んだ高齢なフィデール。藍華は其の目を閉じてやった。其の光景を藤島と池田屋は見ていたが、藍華は気づかなかった。

 藍華の目は死んでしまったフィデールに向いている。彼らはサウロンと戦う術を持たない。其れでも国を守る為に戦ったのだ。

 どうして其処まで戦えるのだろう。藍華は自分の役目だからという理由で戦っている。其れしか戦う理由は無い。守りたいと願う者は居ない。守りたいという場所はない。

 何故、そんな自分にサウロンと戦う力が宿り、彼らには宿らなかったのか。此の世は何故こうも上手くいかないのだろうと藍華は自嘲した。





 任務は無事に終了した。クロワは全て問題なく機能し、市街地に入り込んだサウロンも倒した。ただ問題は発生した。

 クリミネルはいつも人材不足だ。だから今回もギリギリの人員だった。藤島と池田屋は残ってクロワに霊力を供給しなければならない。そうなると藍華が車を運転して帰ることになる。

 「黒崎、お前未成年だよな。車の運転は?」

 「一応、訓練でしたから大丈夫」

 「そうか」

 「ごめんね、藍華さん。本部まで送ってあげられなくて」

 「大丈夫です。其れよりも気を付けてくださいね」

 「ええ。此処までありがとう」

 「お前も頑張れよ」

 「はい」

 二人に見送られながら藍華は車で本部に戻った。ラポールは発動したままだ。車には素子も乗っている。

 本部に着くと素子は世都子が担架で病室に運んで行った。

 本部では伯明とソルダ候補の五人が居た。五人五様に藍華を呼び、彼女の帰還を喜んだ。

 「藍華ちゃん、よくやったな」

 伯明は心底安心した様に笑った。其の笑顔を見て、藍華は自分が本当に生きて帰ったのだと実感した。

 「ただいま、蓮城さん」

 褒められることに慣れていないのか、少し気恥ずかし気に笑う藍華を伯明は思わず抱きしめた。

 藍華はとても驚いた。だが、包んでくれた腕がとても温かく何故か泣きたくなった。僅かだが、伯明の体は震えていた。

 本当に藍華の身を心配していたのだ。そう思うと、自然と藍華の手も伯明の背中に回った。

 しばらくすると伯明は藍華を放し、恥ずかしさを誤魔化す様に笑った。藍華は離れていく寂しさを感じた。どうしてそう思ったのか藍華には分からなかった。

 「其れより、どうしてラポールを発動したままなんだ?あまり長時間の発動は体に負荷がかかるから避けるべきだと最初に説明を受けただろう」

 伯明は気恥ずかしさを誤魔化す為に聞いた。

 「今回は無理をしすぎたから発動を解いてしまうと体力的に発動は難しくなってしまうので」

 「そうなのか。そういえば左腕、骨折してたように俺には見えたが」

 「ええ、骨折していました。なのでコアに頼み、早急に治してもらいました。其のせいで体にかなりの負荷がかかり、発動を解くことができなくなってしまったんです。」

 「コアが教えてくれた?」

 「はい。どうやらコアには自我があるようです。」

 「何だと!?」

 「其の話は会議室で詳しく聞こう」

 伯明の背後から勝成の声がした。彼は相変わらず難しい顔をしている。

 「勝成、藍華ちゃんは疲れている。其の話はまた次回にした方が」

 「いいえ、私なら大丈夫です。其れに発動を解くと一晩は意識を戻せませんから、話をするとなると明日になってしまいます。いつ任務が入るか分からないのなら今、できるうちにした方がいいでしょう」

 「しかし」

 渋る伯明に勝成は仁美を会議室に呼ぶように言った。伯明は盛大な溜息をつきながらも指示に従った。

 藍華、勝成、仁美、伯明、科学班一班の津久茂今日子(つくもきょうこ)、ソルダ候補のいずな、鷹人、蒼空、舞子、葉が会議室に集結した。

 「では、藍華説明を」


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