誰?
25.
「ふわああああ」
大あくびをしながら、俺は朝の日の光を迎える。昨日のことが嘘のように、頭の中はスッキリとしている。カラッポに近い状態だ。
早々に身支度を済ませ、心なしか爽やかな気持ちで、俺は、通学路を目指す。
それにしても、こんなに、気分がいい朝は初めてかもしれんな。なんかこう、小学校の時に、遠足が待ち遠しくて、ワクワクする感じかな。うーん、なんかそれとは違う気がするのだが。いかんせん俺の不器用な言葉じゃ表現できそうにもない。
ちかげは、今どうしてるのだろうか。
もちろん、一般的な全学園生徒と同じく、朝起きて、顔洗って、朝食食べて、着替えて・・・着替えて。(大事なので)
って、別に、ちかげの着替え姿とかを想像したわけじゃないからな。
ただ、少しスタイルが良くて、見惚れてしまうだけだ。やましい気持ちなど、絶対にない。絶対にだ。(大事なので以下ry)
とはいえ、あいつ、ウエスト細かったな・・・。ハッ!?
どうやら、さっきからちかげのことばかり考えてるみたいだ。まぁしょうがないよな。
昨日、ちかげから、あんな告白されたんだから。
『どういう顔であいつに会えばいいのだろう』ということは、不思議と考えなかった。
やっぱりそこは幼馴染だからか。
気兼ねなく話せるし、持ち前の明るさもあってか、ちかげと話していて、いやな気分一つしたことがない。
うむ、あまり気にしなくてもよさそうだ。
という感じで、今日の日程を計画するかのように、頭の中で、ちかげとの接し方を考えていた。
しばらく、そういったことを繰り返して、通学路を歩いていると、肩をポンポンと叩かれた。
何かデジャヴのようなものを感じるのだが、もしかして、俺が今タイムリーで考えている人とは、違う人なのだろうと予想した。
そう、ちかげではなく、ちとせなのだろうと俺は思ったのである。
すかさず視線を傾けて、肩を叩いたやつを、確認する。
フワッと、風になびく茶色のロングストレートの毛先が俺の視界に入った。
ははーん、やっぱりちとせか、その茶色の綺麗なロングストレートは、ヒントが在りすぎるぐらいだぜ。
俺は難問クイズでも解いたかのような顔で、ちとせの方にゆっくりと振り向いた。
すると、俺の予想とは違う映像が、目に映った。
目の前にいるのは、茶色髪までは合ってるのだが、髪型が違う。
腰まで毛先が届きそうな、綺麗なポニーテールの美少女がそこに立っていた。
「おはよう、たける!」
え? 俺のこと知ってる?
よく見ると、どこかで見たことあるような、ないような・・・。
こんなスポーティーな美少女(予想)は、俺の知り合いにはいないぞ。
ひとまず俺は、誰だかわからないというのを、相手に悟らせないため、その場を合わせることにした。
「お、おう。おはよう」
するとその美少女は、あまりのキレイさに卒倒しそうなくらいの笑顔で、
「今日はいい天気だね~」
と返してきた。うっ、可愛い。ちくしょう、一体誰なんだ?
あぁ、さっきから、しどろもどろしてるな、俺。
どうにかして、この場を切り抜けないと。
よし、思いつきだが、このセリフしかない!
「そうですね~。い、いい天気ですね~」
ダメだこりゃ。
美少女は、そんな俺の様子を感じたようだ。
「さっきからたける、妙に他人行儀な気がするんだけど。気のせい?」
美少女はジト目で、俺のほうをジーッと見てくる。
まずい、これはバレる。
彼女を悲しませたくない。何か、何か策を考えないと!
そうしてる間に、彼女のほうから、突然質問が飛んできた。
「たけるに、簡単な問題を出しまーす」
問題? クイズ?
なんだろう? 向こうもなんとなく、この微妙な空気を察してくれたのだろうか。
とりあえず和めそうだし、ひとまず安心できるな。
簡単な問題だって言ってるし、少し捻った回答をして、時間稼ぎだ。そして、話も逸らそう。
「も、問題ならまかしとけ!」
ガッツポーズを決めながら、俺はクイズの出題を待つ。
「じゃあ、問題―」
彼女はまだジト目だ。さらに、背景に疑いのオーラを醸し出している。そんなの気にしない、気にしない。
「おうドンと来いや!」
自身に満ち溢れる(フリの)俺。
「私の名前はなーんだ?」
「・・・」
都合よく、風がピタリと止んだ。
終わったよ・・・母さん。(白目)
しばらく硬直状態の雰囲気だったが、ポニーテールの美少女から、口を開いた。
「もう! やっぱり誰だか分からずに、話してたでしょ!」
もう、激おこ状態である。(通り越して、プンプン丸かもしれない)
「すまん! 本当に誰だかわからないんだ。こんなポニーテールが似合う女の子は、俺の知り合いには、いないんだよ」
俺は、もう太刀打ちできないので、本音を吐露することにした。ホントにごめんな、ポニーテールの美少女よ。
「え? 今なんて言ったの?」
彼女は驚いた表情で、こちらを見ている。
なんてって、たいしたことは言ってないと思うが。
「だから、こんなにポニーテールの似合う、可愛い女の子は、俺の知り合いにはいない、って言ったんだよ」
一人知り合いがいるが、その娘はロングストレートが印象的な、また違ったタイプの女の子だからな。
ん? なんかポニテ美少女が、下を向いたまま、ずっとモジモジしてるんだが、なんだろう。ちょっと可愛い。
「も、もう。なんでそういうことを、軽々しく言えちゃうかな。嬉しいけど・・・(小声)」
え、何が嬉しいって?
「そこまで聞きとるなー!」
何かまずいことでも、言ったのだろうか。さっきとは違う怒り方で、ぽこぽこと、乙女パンチをしてくる。
なんか段々、本題から外れてきてる気がする。そろそろ、問題の答えを教えてもらわないとな。俺もスッキリしないし。
思い切って単刀直入に聞くことにした。
「それで、結局、問題の答えはなんだったの?」
はぁ~、と彼女はため息をつく。
「もう、たけるのいじわる」
と唇を尖らせながら、上目使いでこちらを見てくる。うっ、可愛い。
って見とれてる場合じゃない。問題の回答を聞かねば。
すると美少女は、ゆっくりと口を開く。
「はぁ~、もう。ちとせよ、ち と せ。なんでこんなに、気づかないのかしら」
ほう、そうかそうか。ちとせかぁ~。
・・・ちとせ?
「ちとせ~!?」
俺はあまりの驚きに、動揺を隠せなかったようで。大声で、ポニテ美少女改め、ポニテ美少女ちとせの名前を叫んでしまった。
「お、驚きすぎよ。びっくりするじゃない」
あ、大声出しすぎたか。すまん。
でも、驚くのも無理はないのだ。
いつものちとせは、キレイな茶色髪の、ロングストレートで、お嬢様の雰囲気を醸し出すような、実に見目麗しい美少女なのだ。
それに性格も、礼儀正しく、おしとやかなので、見た目と中身が、ハーモニーを奏でるくらいだ。(表向きは)
朝っぱらの眠たい脳でポニテの娘が来たら、普通は、スポーティーな娘だと、思うじゃないか(当たける比)ギャップが有りすぎるぜ。
しかし似合うなポニーテール。
「ち、ちょ、たける。思ったこと、口に出てるわよ」
頬に手を当てながら、モジモジした様子で、再び、ちとせは下を向く。
あ、あれ今声に出てたのか。ちょっと恥ずかしいな。
でも本当のことだしな。
ちとせのもう一つの性格の方は、お嬢様と正反対の、『快活美少女!』って感じだしな。
もしかしたら、今のちとせは、元気印の女の子の方が、マッチしてるかもしれない。
そういう意味も込めて、ポニーテールはとても似合うと、判断しているのだ。
あまりに、マッチングしすぎたせいで、本当に別人かと思ったけどな。
「と、とりあえず、褒めてくれてありがと。嬉しい」
ちとせは、手をクルクルしながら、目線を俺から逸らしている。ちょっと可愛い。
なにはともあれ、目の前の人物が、誰だか判明してよかった。
このままずっと、気まずい雰囲気が続くかと思って、ビクビクしていたよ。
でも、どうして急に髪型を変えたのだろうか。
一般的に女の子は、失恋したときに髪を切ると言うが、当の本人は切ってない。
ただ、髪を結んだだけである。(破壊力はばつぐんだが)
聞くべきではないかな、とも思ったが、俺は理由を知りたくて、ちとせに質問することにした。
「ちとせは、どうして髪型変えたんだ? イメチェンか?」
と無難な質問をする。
するとちとせは、自信なさげな顔で、
「う、うん。そんな感じかな。」
発せられた言葉のトーンから見ても、暗めな顔から見ても、ちとせの顔はどこか切ない表情に見えた。
彼女に何があったのだろう?
彼女は何を思っているのだろう?
これ以上質問をしては、いけない気がする。
察しの悪い俺でも、それくらいの気遣いは、できるつもりだ。
ちとせがこんな顔するなんて、思ってもみなかった。思うはずもなかった。
しかし、そんな心配をよそに、ちとせの口から、その理由が告げられる。
「たける、私ね・・・」




