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魔法大会と科学的?な主人公

とある作品では主人公が魔法大会というトーナメント式の試合に参加するエピソードがある。

ここでの主人公はほぼ魔法の才能がないので科学的手段で勝とうとする。

その手段の一つが近距離でスタンガンの原理を再現することだ。


しかしまず気になったのは、魔法大会でありながら対戦相手が近接戦への警戒をほとんどしていない点である。

一回戦では、主人公の相手は中級魔法を完全詠唱している。しかし、試合開始直後から主人公が一直線に走ってきているにもかかわらず、相手は詠唱を中断して驚くだけで、そのまま殴られて敗北する。


これは明らかに不自然である。


たとえ魔法主体の大会であっても、相手が接近してくるなら距離を取る、杖で牽制する、回避するなどの対応は考えるはずだ。魔法学園の生徒である以上、近接戦への最低限の備えがないというのは説得力に欠ける。


二回戦ではさらに違和感が強くなる。

相手は一回戦を見ており、主人公が走って殴る戦法を使うことを知っている。それにもかかわらず、やはり近付かれて殴られて終わる。

違うのは中級魔法ではなく初級魔法を使った程度であり、本質的な対策は何一つ講じていない。


しかも相手は土属性魔法の使い手である。

土魔法なら壁を作る、足場を崩す、地面を隆起させる、足止めをするといった接近阻止の手段はいくらでも考えられる。しかし、そのような応用は一切行われない。

結局、主人公に殴られるためだけに存在する相手になっている。


三回戦も同様である。

火属性の使い手は無詠唱で火炎弾を放つが、主人公に防がれる。防ぎ方は非科学的であるがここでは置いておく。その時点で火魔法が通用しないことを理解できるはずなのに、その直後にさらに威力の高い火炎槍を撃つだけである。発想があまりにも単純すぎる。

火力を上げるだけではなく、距離を維持する、接近を妨害する、別の戦術を試すなど、魔法使いなら当然考えるべき対応が全く見られない。

結局ここでも驚き、隙を見せ、殴られて敗北する。


三試合とも展開は同じである。


相手が魔法を撃つ。主人公が接近する。相手が驚く。殴って終わる。

対戦相手が全く学習していないため、試合展開に変化がなく単調である。


次に疑問なのは、雷を込めたメリケンサックの性能である。

触れただけで相手は全身が痙攣し、大柄な男子ですら二発で戦闘不能になる。

軽く触れるだけで勝負が決まるほど強力なら、もはや拳で殴る必要すらない。


後に描写されるが主人公は雨を電気分解した酸素と水素で水素爆発を起こす。

つまり電気を遠隔で生み出せる。ならば遠隔操作で相手に直接電撃を当てることも可能なはずだ。


さらに観客や審判の反応もおかしい。毎回「バチッ」という放電音が鳴り、青白い火花まで散っているにもかかわらず、誰も雷魔法を使っているとは考えず、「殴るだけ」と認識している。

どう見ても格闘と雷魔法を組み合わせた戦法である。それを誰一人理解できないのは不自然でしかない。


そして最も疑問なのは、師匠の発言である。師匠は大会を見て「殴った方が早い」と考えたと言う。

しかし、それが本当に有効なら、この世界の魔法使いは昔からそうしているはずである。


何千年と魔法文化が存在する世界で、誰一人として「近付いて殴る」という発想を持たなかったとは考えにくい。そのような戦法は過去にも存在し、それを防ぐ戦術も発展しているはずである。


にもかかわらず、大会出場者全員が初見で驚き、観客まで驚愕している。

世界全体が主人公を活躍させるためだけに知能を下げられているように見えてしまう。


そして最大の問題は、主人公が強いのではなく、相手が弱すぎることである。

魔法学園の大会を勝ち上がる実力者であるはずの生徒たちが、近接戦への対応を何一つできず、驚いて立ち尽くし、殴られて終わる。

これでは主人公が勝ったというより、周囲が主人公を勝たせるために動いているようにしか見えない。


本当に主人公を強く描きたいのであれば、相手も十分に強く描き、その上で主人公が工夫や発想によって勝利する展開にすべきである。

しかし本作では、相手は毎回同じように驚き、同じように殴られて敗北するだけである。

その結果、主人公の独創性や努力よりも、対戦相手の未熟さや世界全体の不自然さばかりが印象に残る。


そして決勝戦だ。

ここで最も気になったのは、「科学を持ち込んでいるように見えて、実際には都合のいい部分だけ科学を利用している」点である。世界観が魔法で成り立っている作品である以上、現実と違う法則が存在すること自体は問題ではない。


しかし、本作は真空、水素、酸素、電気分解といった現実の科学用語を積極的に持ち込み、それを戦術の根拠として説明している。その瞬間から読者は、その理屈が最低限現実の物理法則と整合していることを期待する。ところが、その期待が何度も裏切られている。


まず最大の問題は、真空の壁で炎の魔法を消せるという設定である。


作中では主人公は真空の壁を展開し、飛来した火炎弾や火焔槍を次々に消滅させている。そして師匠も超級魔法だけは「真空の壁程度では消せない」と発言しているため、通常の火魔法は真空で消えるという理屈が作品内の共通認識になっている。


しかし、この理屈は非常に曖昧である。

もし火魔法が本当に酸素を燃焼させる現象ならば、飛翔している火球そのものが燃焼反応を維持できる理由を説明しなければならない。燃焼には酸素だけではなく可燃物も必要になる。空気中の酸素だけで巨大な火球が維持されるわけではない。

逆に火魔法が魔力によって維持される炎なら、真空にした程度で消える理由はない。


つまりどちらの理屈でも説明できないのである。


さらに問題なのは熱である。

真空には空気が存在しないため対流による熱移動は止められる。しかし熱は放射によっても伝わる。

つまり巨大な炎が目の前まで飛んできているなら、真空の壁で燃焼だけ止めたとしても放射熱は残るはずである。


ところが主人公は平然と火球のすぐ近くを走り回っている。

熱傷も起きず、視界も歪まず、周囲の温度上昇もほとんど描かれない。


真空だけが都合よく働き、熱だけは都合よく消えている。

科学を利用するなら、この矛盾は避けて通れない。


次に気になったのは炎の数である。

この相手は開始から終了まで一度も攻撃の手を止めていない。


五十発前後の火球維持、火球の個別誘導、炎の槍を複数追加、長い超級詠唱、超級魔法の構築

これらを全て同時並行で行っている。もはや魔力量ではなく演算能力の問題である。


これだけ複数の魔法を同時制御できるなら、最初から主人公を囲むように全方位同時爆撃すれば終わっている。

実際には主人公はかなり長時間逃げ続け、左手で別作業まで行えている。

攻撃密度と結果が一致していない。


作者が「強敵」を演出したいことは伝わるが、実際の攻撃は主人公を倒せない程度に加減され続けている。

これでは強敵ではなく、主人公が逆転するための舞台装置でしかない。


そして最大の問題が水素爆発である。主人公は試合中ずっと「左手で別作業」を続けていた。

その正体は雨を電気分解して水素と酸素を集めることであった。

ここで疑問が一気に噴き出す。まず電気分解には大量のエネルギーが必要である。


水は非常に安定した物質であり、水素と酸素へ分離するには相当な電力を投入しなければならない。

しかも試合時間はせいぜい数分程度である。

その短時間に爆発で闘技場全体を揺るがすほどの水素を生成するには、とてつもないエネルギーが必要になる。


それだけのエネルギーを魔法で自由に扱えるなら、水を分解する必要など全くない。

直接そのエネルギーを敵へ叩き込めば終わる話である。

効率を求めているように見えて、最も非効率な方法を選んでいる。


しかも雨を電気分解すると書かれている。

雨粒は降り続けているため、空中で電気分解した水素と酸素は周囲の空気へ拡散してしまう。

特に水素は極めて軽い。発生した瞬間から猛烈な速度で上昇し始める。

大量に一点へ集め続けるには、水素分子そのものを閉じ込める別の魔法が必要になる。

しかしその説明は一切存在しない。


さらに酸素も同様である。発生させるだけでは空気中へ混ざって終わりである。

都合よく頭上へ巨大な爆発雲だけ形成される理由が説明されていない。


さらに引火にも問題がある。


小さな炎を打ち上げた瞬間、水素爆発が発生している。しかし巨大な混合気体へ均一に着火するだけでも難しい。

まして雨が降っている環境である。


作中では「どんな雨の日でも消えない小さな炎」と説明されるが、雨で消えない炎なら最初から火魔法として成立してしまう。

ファイアボールも作れないほど弱い炎なのに、巨大な水素爆発だけは完璧に着火できる。

能力の都合が良すぎる。


さらに爆発規模もおかしい。

超級魔法を押し潰し、二人を水平に吹き飛ばし、観客全員が衝撃を受けるほどの爆風が発生している。

これほどの爆発なら衝撃波だけで闘技場全体が壊滅する。砂へ変えた壁程度では済まない。

耳は破れ、肺は損傷し、観客席にも甚大な被害が及ぶ。

しかし実際には二人だけが吹き飛び、観客は歓声を上げている。爆発だけ現実級で、被害だけファンタジー級なのである。


師匠の介入も違和感が大きい。吹き飛ぶ速度だけ半分にする。壁を砂へ変える。

ここまで観客席から介入できるなら、試合そのものの公平性はどこへ行ったのか。

決勝戦で師匠が弟子だけを助けても失格にならない。別の人物も即座に壁を変形させる。

つまり審判も大会運営も止めていない。


そして最後に最も残念なのが主人公の勝利条件である。主人公は最後まで相手を上回ったわけではない。

近接戦は封じられ、防御も押され続け、超級魔法も完成された。そこで相打ちになるほどの大爆発を起こしただけである。


つまり勝ったのではなく、自爆して引き分けへ持ち込んだだけである。

しかもその爆発も、科学的には成立が極めて難しい。

読者が納得できる逆転劇ではなく、「作者が逆転させたいから成立した奇跡」に見えてしまう。


「型破りな戦法で魔法大会を勝ち上がる」という着想自体は面白い。しかし、それを成立させるために周囲の知能や判断力が不自然なほど低く描かれているため、主人公の勝利に十分な説得力を感じることができない。


全体として、戦闘の盛り上げ方や演出には勢いがあり、映像として想像しやすい場面も多い。しかし、その一方で科学用語を使う以上は避けられない整合性の問題が積み重なっている。


真空、炎、放射熱、電気分解、水素、酸素、爆発エネルギー、気体の拡散、衝撃波など、どれも現実の科学を前提として説明されているにもかかわらず、必要な場面では現実の法則に従い、不都合な場面では魔法だからで済ませている。この都合の良い使い分けが積み重なった結果、戦闘そのものよりも設定の穴ばかりが目についてしまう。


魔法だけで完結する世界なら多少のご都合主義は受け入れられる。しかし科学を根拠として説得力を与えようとするなら、その科学は最後まで一貫して扱うべきである。本作の決勝戦は派手な演出こそ魅力的であるものの、その演出を支える理屈が場面ごとに変化してしまうため、読み終えた後に残るのは熱い勝負ではなく、「本当にそんなことが可能なのか」という疑問ばかりであった。

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