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なろう系作品における魔法道具の存在意義について

ファンタジー作品では、魔法道具という存在は決して珍しいものではない。魔法の剣や杖、指輪、護符、魔法陣を刻んだ装置など、古くから多くの作品で登場してきた。読者も「魔法道具」という言葉を聞けば、ごく自然に受け入れるだろう。

しかし、本当に魅力的な魔法道具とは何だろうか。それは単に「魔法を使う道具」ではない。

道具である以上、「魔法をそのまま再現しただけ」では存在意義は生まれない。魔法では実現できないことを可能にする、あるいは魔法そのものの欠点を補うからこそ、道具として価値が生まれるのである。

ところが、とある作品で登場した数々の魔法道具を見ていると、その最も重要な「なぜ道具にするのか」という理由が最後まで見えてこなかった。


現実世界の技術は、必ず何らかの問題を解決するために生まれている。

洗濯機は重労働だった洗濯を自動化した掃除機は箒より効率よく掃除できるようになった。

電子レンジは火を使わず短時間で食品を温められる。電気ケトルはガスコンロや薪を使わず、安全かつ短時間で湯を沸かせる。

つまり、新しい道具は「従来より便利だから」普及したのである。同じことはファンタジー世界にも当てはまる。


魔法道具が存在するなら、

* 魔法が使えない人でも利用できる

* 熟練魔法使いしか使えない魔法を再現できる

* 魔力消費を大幅に削減できる

* 長時間自動で動き続ける

* 人間では不可能な精度を実現する

など、何らかの付加価値が必要になる。


ところが、ある作品ではそれがほとんど説明されない。

その代表例が魔導ケトルである。

主人公は魔導ケトルを人前で実演し、多くの人々が驚く。

スイッチを入れるだけで水がお湯になる。

「薪も火も使わない!」

「こんな便利な道具が!」

周囲は大騒ぎである。

しかし、この場面を読んで真っ先に疑問に思うことがある。

この世界では、そもそも魔法で水を沸騰させられるのである。

しかも瞬時に。

つまり、魔法使い、火魔法だけで済む話なのだ。

一方、魔導ケトルは

魔力を流すケトルが加熱する数秒待つ湯が沸く、という工程になる。

便利になっているどころか、工程が増えている。

現代の電気ケトルが便利なのは、火を使えない人でも簡単に湯を沸かせるからである。

しかし魔法世界では事情が違う。本人自身が魔法を自由自在に使えるなら、わざわざ道具を経由する理由が見当たらない。

むしろ直接魔法を使った方が速い。


もちろん、魔導ケトルが魔法を使えない一般人向けの商品なら話は全く違う。

農民でも子供でも老人でもボタン一つで湯を沸かせる。

これは文明を変える発明になる。現代において電気が家庭へ普及したような革命である。

しかし作品では違う。使用するには魔力が必要なのである。

つまり魔法が使えない人は利用できない。

では誰が使うのか。魔法使いである。

しかし魔法使いなら最初からお湯を作れる。

結局、魔法が使える人だけが、魔力を消費して、魔法と同じことをする。

という無意味な道具になってしまっている。


さらに違和感を覚えるのは、周囲の反応である。

「薪も火も使っていない!」という驚き方をしているが、実際には魔力というエネルギーを消費している。

つまり燃料が薪から魔力へ変わっただけである。エネルギー保存則を考えれば、水を加熱するには必ず何らかのエネルギーが必要になる。

現代でも電子レンジは火を使わない。

しかし誰も「エネルギーなしで温められる!」とは言わない。

電気を使っているからである。同じように、魔導ケトルも魔力を使っている以上、「薪を使わない」ことと「エネルギーを使わない」ことは全く別問題なのである。

魔法文明なら、多くの人は「魔力で加熱しているのだろう」くらいには考えるはずである。

誰一人としてそれを指摘しないため、主人公を持ち上げるためだけに世界が動いているような印象を受けてしまう。


同じことは魔法のドライヤーにも当てはまる。

作中では、風魔法と火魔法を組み合わせた魔法道具として紹介されている。

しかし考えてみれば、風魔法火魔法この二つが使えるなら、直接髪へ風を送り温風を当てれば終わる話である。

わざわざ魔力を流すドライヤーが風を出す温風になる、という遠回りをしているだけなのである。

現代でドライヤーが必要なのは、人間は自分で温風を発生させられないからだ。

だから電気というエネルギーを利用して機械が代わりに仕事をする。

しかし魔法世界では、人間自身がその能力を持っている。そこへ魔法を使うためだけの道具を追加しても、本質的には何も変わっていない。むしろ工程が増えているだけである。

さらに決定的なのは、作中で師匠自身がこの魔法道具について「魔法でできることだから意味がない」と判断していたことである。

つまり発明者本人が、「これは価値が低い」と結論付けていたのである。

ところが主人公は、その放置されていた魔法道具を商品化し、大ヒットさせてしまう。

しかし、その理由について十分な説明はない。

もし、魔力消費が十分の一になる、誰でも使える、温度を自動制御できるといった明確な利点が描かれていれば納得できる。

だが、そのような説明は存在しない。

結果として、「師匠が不要と判断した道具が、主人公の手に渡った途端に爆発的に売れる」という、ご都合主義の展開に見えてしまうのである。


作品には魔力で暖かくなる毛布も登場する。一見すると便利そうである。

しかし、この道具も冷静に考えると疑問が残る。

本来、毛布とは人体から逃げる熱を閉じ込めるための道具である。毛布自体が熱を生み出しているわけではない。

つまり高性能な素材さえあれば十分暖かい。ところが、この毛布は魔力を消費して暖かくなる。

それならば、どれくらい暖かいのか。魔力消費はどの程度なのか。燃えたり過熱しないのか。そうした説明が必要になる。

もし、極寒地でも凍死しない。雪山で野営できる。濡れても暖かい。自動で温度調整する。こうした通常の毛布では実現できない性能があるなら商品価値は高い。

しかし作品では、「暖かい毛布です。」程度しか説明されない。そのため、魔法道具ならではの魅力が伝わってこないのである。


最も大きな問題は市場である。現代の家電は誰でも使える。洗濯機も冷蔵庫も電子レンジも、特別な能力は必要ない。だから大量に売れる。

しかし、この作品の魔法道具は違う。使用には魔力が必要。つまり魔法使いしか使えない。

ところが魔法使いなら、元から同じことができる。ここに需要が存在しない。

現代で例えるなら、九九を暗算できる人だけを対象に、「九九計算機」を販売しているようなものである。

あるいは、泳げる人だけに「泳ぎ方を教える機械」を売るようなものだ。

できる人にしか売れない。しかもその人は最初からできる。これでは市場は極めて小さい。

それでも作品では爆発的なヒット商品になっている。

読者としては、「なぜ売れるのか」という説明が欲しくなる。


では、魔法世界で本当に価値を持つ魔法道具とは何だろうか。

答えは単純である。魔法そのものでは解決できない問題を解決する道具である。

例えば、魔法が使えない人でも利用できるなら価値が高い。

農民でも照明を点けられ、子供でも火を起こせるなら、それは社会全体を変える発明になる。

もしくは熟練魔法使いの技術を再現するのも価値が高い。

一流の治癒魔法を誰でも安全に使えるなら、医療革命と言ってよい。

また長時間自動で動作するのも価値が高い。

夜通し結界を維持したり、数日間暖房を続けたりできるなら、人間が常に魔法を使う必要がなくなる。

そして魔力消費を大幅に削減するのも価値が高い。

同じ効果を十分の一の魔力で発動できるなら、魔法使いにとっても大きな価値がある。

こうした「道具だからこそ可能になること」があって初めて、魔法道具は文明を変える技術として説得力を持つ。


この作品で繰り返し感じたのは、現代の便利家電をそのまま魔法世界へ移植している印象である。

ドライヤー。電気ケトル。電気毛布。真空断熱コップ。

どれも現代では非常に便利な製品だ。しかし、それは「人間自身が温風を出せない」「瞬時に湯を沸かせない」「熱を自在に操れない」という世界だからこそ価値がある。

一方、この作品の世界では、人間自身が魔法という万能のエネルギーを扱える。その前提がある以上、「現代家電を魔法化しただけ」では、なぜ必要なのかという根本的な問いに答えられない。


結局のところ、この作品の魔法道具に対して違和感を覚える最大の理由は、「世界の問題を解決しているように見えない」ことである。魔法使いしか使えない。魔法使いなら元から同じことができる。性能差も十分に説明されない。それでも大ヒット商品になる。

さらに、その成功の土台となっている技術の大半は師匠の発明であり、主人公自身の独創性や改良点が見えにくい。


発明とは、単に物を作ることではない。その世界に新しい価値を生み出し、誰かの抱えていた問題を解決することである。

もし魔法世界ならではの課題を見据え、その課題を解決する道具として描かれていたなら、これらの魔法道具はもっと強い説得力を持っただろう。

しかし現状では、「現代の便利家電を異世界風に置き換えたもの」という印象が最後まで拭えず、それが作品全体への違和感へとつながってしまっているのである。

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