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応用より直接のほうが効率的

ある作品では、術者が自身から離れた空間で電気分解を行い、水素や酸素を生成して攻撃に利用する描写が存在する。また、空気を動かして真空を作り出したり、発生した気体を空中に留めておいたりするような描写も見られる。しかし、このような能力を科学的あるいは論理的に考察すると、作品内で使われている応用方法よりも、さらに直接的かつ強力な使い方が数多く存在することになる。


まず考えたいのは、「離れた場所で電気分解を行える」という能力である。


電気分解とは、水に対して十分な電気エネルギーを与え、化学結合を切断して水素と酸素へ分離する反応である。これは決して小さなエネルギーではなく、相応の電力を対象へ届ける必要がある。


つまり、この能力の本質は「水を分解すること」ではなく、「離れた場所へ自在に電気エネルギーを送り込めること」にある。


もし術者が数メートル、あるいは数十メートル離れた場所へ自由に電流を流せるのであれば、その対象が水である必要はない。


人体にも電流を流せるはずである。


人間の神経や筋肉は微弱な電気信号によって動いている。そのため外部から強い電流を受ければ、筋肉は意図しない収縮を起こし、激しい痙攣や麻痺が発生する。さらに電流量が増えれば心臓の拍動にも影響し、生命に関わる危険な状態になることもある。


つまり、水を電気分解して爆発を起こすよりも、対象そのものへ直接電流を流した方が攻撃としては遥かに効率が高い。


しかも、水素爆発には「水を分解する」「ガスを集める」「適切な割合で混合する」「着火する」という複数の工程が必要になる。


一方、電撃であれば能力を発動した瞬間に攻撃が成立する。


もし能力者が遠距離へ自由に電流を送れるなら、爆発を起こす必要すらなくなるのである。


次に、「離れた空間に真空を作る」という能力について考える。


真空とは空気が存在しない状態である。


作品中では風を起こしたり、水素や酸素を動かすために局所的な真空を作っているように描かれている。


しかし、この能力が成立するのであれば、その応用範囲は極めて広い。


例えば、敵の周囲だけではなく、敵の顔の周囲だけを真空にすればどうなるだろうか。


人間は呼吸によって酸素を取り込み、二酸化炭素を排出している。


しかし口や鼻の周囲から空気そのものが消えてしまえば呼吸は成立しない。


つまり敵は窒息状態となる。


さらに肺は空気を取り込めなくなり、数十秒で激しい呼吸困難に陥る。


数分間その状態が続けば意識を失い、さらに長時間続けば生命の危険すら生じる。


戦闘においてこれほど強力な能力はない。


相手がどれほど強靭な肉体を持っていても、呼吸という生理現象から逃れることは困難だからである。


また、真空を瞬間的に作れるのであれば、空気の急激な流入によって衝撃波を発生させることも可能になる。


これは爆発と同様の効果を持ち得る。


つまり真空を作れる能力は、それ自体が十分に攻撃能力となるのであり、水素爆発の補助に使うだけでは能力を十分活用しているとは言えない。


さらに興味深いのは、「離れた空間に気体を固定できる」という能力である。


通常、気体は容器がなければ四方へ拡散する。


これは気体分子が常にランダムな方向へ運動しているためである。


ところが作品では、水素や酸素がその場に留まり、花火のような演出を可能としている。


これは言い換えれば、「見えない容器」を作っていることと同じである。


もし空間そのものへ気体を閉じ込められるのであれば、その能力は爆発演出だけに使うにはあまりにも惜しい。


例えば敵の手足の周囲だけ空気を固定し、空気の壁を形成すればどうなるだろうか。


目には見えなくても、相手は腕を動かそうとしても動かせなくなる。


足も固定されれば歩行できない。


首の周囲を固定すれば振り向くことも困難となる。


つまり実質的な拘束技として利用できる。


さらに全身を空気で包み込むように固定すれば、透明な牢獄を作ることさえ可能となる。


剣も鎖も必要ない。


空間そのものが拘束具になるのである。


もし固定できる対象が気体だけではなく空間全体に及ぶのであれば、その応用範囲はさらに広がる。


敵の武器だけを動かなくする。


飛来する矢を途中で停止させる。


落下物を空中で静止させる。


味方を空中へ保持する。


これらも同じ原理で実現できる可能性がある。


このように考えていくと、作品中で描かれている能力は、一つひとつが独立した能力ではない。


「遠隔でエネルギーや物質を自在に操作する能力」という、より上位の能力から派生した現象として理解できる。


だからこそ、その応用範囲は作者が描いた以上に広くなってしまう。


これは創作においてしばしば問題となる「能力の応用問題」である。


一度ある現象を可能と設定すると、その現象から自然に導かれる別の使い方も可能になってしまう。


例えば遠距離で電流を流せるなら人体にも流せる。


真空を作れるなら呼吸を奪える。


気体を固定できるなら人間も拘束できる。


これらはすべて、能力の設定から論理的に導き出される帰結である。


もちろん、「術者はそこまで細かな制御ができない」「人体には能力が効きにくい」「生物には直接作用できない」といった制約を設ければ話は変わる。しかし、そのような制約が作中で明示されていない限り、読者は能力の応用可能性を考え始める。


そして、一度その可能性に気付いてしまうと、「なぜわざわざ遠回りな方法を使うのだろう」という疑問が生まれる。


水を分解して爆発を起こすより、直接電撃を浴びせた方が速い。


真空を爆発の補助に使うより、相手の呼吸を止めた方が確実である。


気体を固定して花火を作るより、敵自身を拘束した方が戦術的価値は高い。


能力そのものは非常に魅力的である。しかし、その能力が持つ本来の可能性まで考えると、作中で描かれた用途はほんの一部にすぎない。能力の本質を突き詰めれば、電撃、窒息、拘束といった、より直接的で効率的な使い方が導き出されるのである。


このような考察は作品を否定するものではなく、能力設定がどれほど強力であるかを逆説的に示しているとも言える。優れた能力設定ほど応用範囲は広くなり、その分だけ設定の制約や限界を丁寧に描かなければ、読者は「もっと簡単な使い方があるのではないか」と考えるようになる。能力の説得力とは、強さそのものではなく、その強さをどこまで論理的に制御できているかによって決まるのである。

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