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科学による魔法の効率的な運用

とある作品において、空気中の水分から酸素と水素を作り出し、それらを利用して爆発や花火のような演出を行う場面が描かれている。発想としては非常に派手で視覚的な効果も高く、フィクションとしては魅力的な表現である。しかし、現実の科学の観点から考えると、この描写にはいくつかの大きな問題が存在する。


まず最初の問題は、水を酸素と水素に分離するための「電気分解」である。


電気分解とは、水分子に電気エネルギーを与え、水素と酸素に分解する化学反応である。学校の理科実験でも行われるが、その際には電極を水に浸し、そこへ電流を流す必要がある。つまり電気分解は、単に電気を発生させればよいわけではなく、電流を流すための経路や反応を起こすための環境が必要となる。


ところが作品中では、術者から離れた空間や上空に存在する水分に対して直接電気分解を行っているように描写されている。もし本当にそのようなことが可能であるならば、術者は遠距離に対して莫大な電気エネルギーを送り込めることになる。


ここで疑問が生じる。


水を電気分解するにはエネルギーが必要である。しかも、そのエネルギー量は決して小さくない。大量の酸素や水素を作り出すのであれば、それだけ大きな電力を供給しなければならない。


仮に術者が離れた場所へそのエネルギーを送れるのであれば、わざわざ水を分解して酸素と水素を作る必要はない。直接そのエネルギーを相手へ叩き込んだ方がはるかに効率的だからである。


例えば、敵を攻撃したいのであれば電撃として放出すればよい。高電圧の放電はそれだけで強力な攻撃手段となる。電気分解を行い、さらに生成したガスを燃焼させるという工程を挟むことは、エネルギー利用の観点から見れば大きな回り道となる。


現実の工業分野でも、水素は電気分解によって製造される。しかし、その水素を燃焼させて得られるエネルギーは、電気分解に投入したエネルギーを超えることはない。エネルギー保存則によって当然である。むしろ変換過程で損失が発生するため、取り出せるエネルギーは少なくなる。


つまり、


電気エネルギー

水の電気分解

水素と酸素の生成

燃焼

熱や衝撃


という流れを取るより、


電気エネルギー

直接放電


の方が効率が良い。


したがって、作品中の能力者が本当に自由自在に遠隔電気分解を行えるほどの電力を扱えるのであれば、その能力は水素爆発よりも電撃攻撃として利用した方が合理的である。


次に問題となるのは、水分の存在量である。


作品では空気中の水分を利用しているが、大気中に含まれる水蒸気の量は決して無限ではない。湿度が高い環境であっても、その大半は気体として薄く拡散している。


例えば、霧や雲であれば比較的多くの水分が集まっているが、普通の晴天時の空気から大量の水素を取り出そうとすると、かなり広い範囲の空気を処理しなければならない。


さらに、水蒸気は気体であるため、そのままでは電気分解しにくい。一般的な電気分解は液体の水を対象としている。空気中の水蒸気を直接分解する場合には、別の技術的問題が発生する。


つまり、


空気中から水分を集める

反応可能な状態にする

電気分解する


という工程が必要になる。


これらの工程を一瞬で実行しているのであれば、実際には電気分解よりも、水分を収集・制御する能力の方が驚異的であると言える。


さらに、水素と酸素を作り出した後の描写にも問題がある。


作中では生成した酸素と水素に火種を打ち込み、花火のような爆発を起こしている。しかし実際には、水素と酸素を作っただけでは都合よく爆発してくれない。


まず、水素と酸素は適切な割合で混合される必要がある。


反応式は


2H₂+O₂→2H₂O


である。


このため体積比でおおよそ二対一の割合が理想となる。


どちらかが過剰であれば燃焼効率は低下する。また、生成した瞬間から周囲の空気と混ざり始めるため、混合比を維持することは容易ではない。


さらに問題なのは拡散である。


水素は非常に軽い気体であり、大気中では猛烈な速度で上昇・拡散する。酸素も周囲の空気と混ざっていく。したがって、空中で発生させたガスは短時間で広がってしまう。


花火のような一点集中の爆発を起こすためには、ガスを一定範囲に閉じ込める必要がある。しかし作品中ではそのような容器や結界の存在は描かれていない。


現実の水素爆発事故でも、爆発が起きるためには可燃性濃度の範囲にガスが蓄積する必要がある。単に水素が存在するだけでは爆発しない。


また、火種を与えれば必ず派手な爆発になるわけでもない。


混合状態によっては単なる燃焼で終わる場合もあるし、ガスが薄すぎれば着火すらしない。


仮に理想的な割合で水素と酸素を混合できたとしても、次はガスの量が問題となる。


小さな火花程度の演出ならともかく、大規模な爆発や花火のような閃光を起こすには大量のガスが必要である。そのガスを作り出すためには、さらに大量の水を分解しなければならない。


結局のところ、


大量の水分を集める

莫大な電力を供給する

水素と酸素を生成する

適切な比率で混合する

拡散を防ぐ

着火する


という多くの工程が必要になる。


科学的に考えれば、この一連の作業を行う能力を持つ人物は、もはや電気分解などに頼る必要がない。空気そのものを操る、あるいはエネルギーを直接制御する方が遥かに簡単で強力だからである。


もちろん、これはフィクション作品に対する科学的な考察であり、作品世界に独自の法則や魔法が存在するのであれば話は別である。しかし、現実の物理法則や化学法則を前提とするならば、「離れた空間で空気中の水分を電気分解し、発生した酸素と水素をその場で爆発させる」という描写には多くの技術的困難が存在する。


特に最大の問題は、電気分解に必要なエネルギーを遠隔地へ供給できるのであれば、そのエネルギーを直接攻撃へ利用した方が合理的であるという点である。水を分解し、ガスを生成し、再び燃焼させるという手順はエネルギー効率の面で不利であり、現実科学に照らし合わせれば極めて回りくどい方法と言えるだろう。

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