パートナー
「…………うわぁ」
それから、数分経て。
優しいクラシック音楽が響く広い空間にて、それぞれ男女一組でダンスを始める皆さん。すっかり慣れているご様子の生徒もいれば、まだ慣れていないご様子の生徒もいて。それでは、僕はというと……うん、もちろん慣れていない側の生徒で。そもそも、こういうのは全く以て初めてで……うん、ますますドキドキしてきた。それでも、せめて彼女の足を引っ張らないよう懸命に――
「――それでは、ハンス。ひとまず、手当たり次第に声をかけてきてください」
「…………はい?」
瞬間、ドキドキがピタリと止まる。……えっと、どゆこと? ……いや、聞き間違いだよね? きっと、緊張のしすぎで耳が麻痺しちゃってんだよね? なので、
「……あの、ユリアさん。申し訳ないのですが、どうやら聞き間違えてしまったようなので、もう一度だけ仰っていただいても……」
「おや、この距離で聞き間違いとは。ですが、まあいいでしょう。ひとまず、手当たり次第に声をかけてきてください、と申し上げたのです」
「……………………」
躊躇いつつ尋ねてみるも、先ほどと同じく事も無げに同じ言葉を仰るユリアさん。どうやら、聞き間違いじゃなかったみたいで……うん、どゆこと?
……だけど、疑問はひとまず措くとしまして――
「……あの、ユリアさん。もちろん、ユリアさんにはなにか深遠なお考えがあるのだと分かっています。……ですが、僕がどなたかにお声をかけられるとはとても思えず……」
「……ふむ、確かにそれもそうですね。なにせ、ハンスですし。それでは、仕方がないので私が手を貸して差し上げましょう」
「……あれ、今しれっと馬鹿にされました?」
おずおずと、何とも情けないことを口にする僕。すると、お言葉の通り納得のご様子でお答えになるユリアさん。……あれ、今しれっと馬鹿にされました? ……まあ、もちろん反論もないけども。なにせ、僕だしね。
ともあれ、毅然と歩いていくユリアさんの後におずおずと付いていく僕。そして――
「――少しいいですか? アイラさん」
「……へっ? あっ、ユリアさんと…………へっ? ハンス?」
ふと、一人の少女へと話しかけるユリアさん。二年F組の――そして、僕にとっては去年からのクラスメイトで、鮮やかな山吹色の髪を纏う可愛らしい女の子、アイラさんへと。すると、僕を目にするなりポカンとしたお表情を……まあ、そうだよね。僕なんかがあのユリアさんと一緒に……いや、そもそもここにいること自体びっくりだろうし。
「……えっと、なんで、二人で一緒に……」
「まあ、そんなことはお気になさらず。それよりも、よろしければハンスと踊ってもらえませんか?」
「…………へっ!? えっ、あの、その……」
そして、アイラさんの疑問をサラリと流しお願いをするユリアさん。一方、ユリアさんのお言葉にたいそう慌てたご様子のアイラさん。……うん、そうなるよね。まだ疑問も解消されていない中、彼女にとっては全く以て理解不能なお願いをされているのだから。……まあ、僕も全く以て理解できていないけども。
「……うん、分かった。それじゃあ……その、よろしくね? ハンス」
「……へっ? あっ、はい! その、こちらこそよろしくお願いします、アイラさん」
それでも、戸惑いつつもじっと僕を見てそう口にするアイラさん。本当は嫌なはずなのに、きっとユリアさんのお願いだから……うん、ありがとう、アイラさん。




