お誘い?
「…………あの、ユリアさん? どうして、僕はここにいるのでしょう?」
「……いや、そんな記憶喪失みたいなことを言われましても。昨夜に説明したはずなのに、よもやもうお忘れなのですか?」
「……いえ、ちゃんと覚えてはいますけども……」
それから、一週間ほど経た休日のこと。
そう、躊躇いつつ尋ねてみる。すると、呆れたようにお答えになる銀髪の美少女。ちなみに、彼女――ユリアさんは、あの日からもずっとレッスンを施してくださっていて……うん、ほんとありがたい。だけど、にも関わらず僕は一向に成長の兆しもなく……うん、ほんと申し訳ない。
だけど、ひとまず話を戻すと――今、僕らがいるのは学院構内に在する薄桃色を基調とした広いホール。見渡すと、見るからに上質な衣装に身を包んだ数多の生徒達が。さながら、貴族の社交場……と言ったら流石に大袈裟かもしれないけど、それでも僕のような人間が明らかに場違いな空間であることは間違いなく……いや、それを言ったら僕がこの学院にいること自体、既に相当に場違いなんだけども。ともあれ、そのような優雅な場所にどうしてか僕が……それも、あのユリアさんと二人で来ているわけで……うん、どして?
【――突然ですが、明日は空いていますか? ハンス】
『…………へっ?』
昨日の夜のこと。
自室にて魔法の練習をしていると、ふと小さく窓を叩く音が。何事かとおそるおそる窓を開くと、さっと僕の部屋へと入って来たのは何とも鮮やかな銀色の毛を纏う優美な鳩。そして、その小さなお口には一通の手紙。どうやら、僕宛てのお手紙のようで。
そういうわけで、一礼と共にお手紙を手に。そして緊張しつつ開いたところ、上記の一文が目に飛び込んできたわけで。そして、その筆跡は僕のよく知るあの美少女のもので……うん、初めて見るはずのこの鳩さんに、どうしてか親近感のようなものが湧いていたのだけど……うん、きっとこの鳩さんの毛が、彼女の髪と全く同じ銀色だったからで。
ともあれ、続けてお手紙を読んでいく。そして、どうしてか読むにつれ思考が鈍っていく。というのも、手紙に書いていたことが理解できるけど全く理解できなかったからで……うん、もはや自分で言っていることが理解できないんだけども。
さて、本題へ戻ると……なんと、マギア魔法学院にて年に一度開催される舞踏会へのお誘いで。そして、返事はこのお手紙に直接記せばいいとのこと。尤も、舞踏会といってもそれほど仰々しいものではなく、生徒達の交流を促す学校行事の一環のようなもので、参加するかどうかは生徒達の意思に委ねられている。
だけど、参加意思の有無以前に、そもそもこのような場に相応しい衣装を用意できるような、経済的に恵まれているご家庭の生徒しか参加できないのではないか、という懸念があるかもしれないけれど、実はその点に関しては杞憂で。というのも、衣装についてはもちろん参加者自身で用意してもいいけれど、経済的な事情などで自身での用意が叶わなくても、学院で用意されている数多の衣装から一着を無償で借りることもできるからで。そのような素敵なご配慮もあるため、毎年たくさんの生徒がこの素敵な会に参加しているみたいで。
ちなみに、僕はというと――入学初年の去年も参加していないし、今年もその意思はなかった。なので、ユリアさんからのお誘いは本当にありがたいのだけども……うん、本当に申し訳ないけどやっぱり――
――キイイイイイイイイ。
『うわっ!!』
卒然、耳をつんざく音が。それも、こう、ものすごく不快なタイプの音で。えっ、なに!? どこから!? ……いや、どこからかは流石に分かる。おずおずと、再びお手紙へ視線を落とすと――
【あっ、ちなみにですが――貴方が良きお返事を書かないようであれば、その手紙から五分おきに黒板を引っ掻いたような音が発せられるよう仕込んでいますので】
『なんの嫌がらせ!?』




