僕のすべきこと
「…………その、本当に申し訳ありません」
それから、およそ一時間ほど経過して。
ポツリと、謝罪の言葉を口にする。何に対してかというと……うん、言わずもがなかもしれないけれど、ユリアさんからレッスンをしていただいてなお、最も初歩の魔法の一つも発動できないことに関してで……その、本当に申し訳ありません。
「……なぜ、でしょうね。呪文もフォームも間違っていないし、他の要素もどこも問題なくできているのに、なぜ……」
すると、神妙なご表情でそう口にするユリアさん。だけど、ここまでレッスンをしてもらっておいて非常に申し訳ないのだけども、僕としては驚きはなく、むしろ妥当な結果も言えるんだけど……でも、ユリアさんにとってはそうではないようで。……でも、なんで? いったい、ユリアさんはどうして無能な僕にそれほど――
「……まあ、いいでしょう。急ぐ必要はないですし、今日のところはこれで終わりにしましょう」
「…………へっ?」
そう締め括るユリアさんに、思わずポカンと声がこぼれる。……いや、だって――
「……あの、ユリアさん。今日のところは、と仰いましたけど……ひょっとして、次もあるのですか?」
「ええ、もちろん。ご不満ですか?」
「あっ、いえ決して不満ではなく!」
僕を見つめ不満そうに問うユリアさんに、ブンブンと両手を横に振りつつ謝罪する僕。いや、決して不満なんかじゃない。ただ、どうして……いや、そんなことはいい。そんなことより――
「……その、本当にありがとうございます。ユリアさんのご厚意にお応えできるよう、未熟ながら精一杯頑張りますので、今後ともどうかよろしくお願いします」
「……まあ、厚意というわけでもないのですが……ですが、こちらとしてもその真摯なお心意気には同じく真摯にお応えしたいと思っています。なので、今後ともよろしくお願いしますね? ハンス」
深く頭を下げ告げた僕に、柔らかな声音で答えてくださるユリアさん。どうして、僕にそこまで――理由なんてまるで分からないけれど……それでも、理由なんて何だっていい。僕がすべきは、ユリアさんのご厚意にお応えすべく精進することだけなのだから。
「……ねえ、ハンス。なにかあったのかい?」
「……へっ?」
その日の夜のこと。
柔らかなオレンジ色に灯るダイニングにて、シェパーズパイを食べていたフォークを止めそう問いかけるグランダッド。でも、今日はこれと言って落ち込むようなことも……あっ、でも今日はとうとうミシェル先生からもご苦言を受けてしまって……いや、でもそれは関係ないかな。いや、ミシェル先生に申し訳ないとは思うし、その時はちょっと落ち込んだけども……でも、これまた申し訳ないけれど、今の今まで忘れていたくらいで――
「……今日は、嬉しそうだからねえ。それも、ここ最近では見られなかったくらいに。だから、なにかいいことがあったのかな、と思ってね」
「…………あ」
すると、優しく微笑みそう口にするグランダッド。隣では、彼と同じく優しく微笑むグラニーの姿が。……うん、やっぱり分かっちゃうんだね、二人には。
……うん、分かってる。こんなの、思い上がりですらない。ただ、僕がそう思いたいだけの嘘でしかなく、知られたら怒られ……いや、どころか名誉毀損で訴えられちゃうかもしれない。それでも……恩人である銀髪の可憐な少女へ心の中で謝罪を述べ、躊躇いつつ言葉を口にする。
「……その、実は……今日、友達ができたんだ」




