特別レッスン?
「……ねえ、ハンス。こんなことは、あんまり言いたくないけれど……流石に、もう少し何とかならないかな? もちろん、頑張っているのは分かっているけれど」
「……申し訳ありません、ミシェル先生」
翌日、三時間目の授業にて。
お言葉の通り、困ったご様子でお話しになる見目麗しき黒髪の男性。水魔法の授業を担当、そして僕ら二年F組の担任でもあるミシェル先生で。
さて、何に対し仰っているのかというと……まあ、言うまでもないかな。最も初歩の魔法すらも一向にできる気配すらない僕に、決してマイナスなことを言わないあのミシェル先生でさえもとうとうご苦言を……うん、本当に申し訳ないです。
「――やあ、ハンス。いやあ、本当にうらやましくて仕方がないな〜。まさか、あのミシェル先生からあんな特別なお言葉をいただけるなんてね〜」
「ほんとよね〜、アルベルト。ミシェル先生のあんなお言葉、他の誰に対しても聞いたことがないのにね〜」
その日の放課後のこと。
一人廊下を歩いていると、今日も今日とてお褒めの言葉が背中に届く。振り返ると、そこには愉しそうな笑顔を見せる一組の男女生徒、アルベルトくんとティナさんのお姿が。そんな二人に力ない笑顔で感謝を告げ、引き続き歩みを進めていく。
……やっぱり、無理なのかな。慰め励ましてくれたグランダッドとグラニーには申し訳ないけど、やっぱり僕はこの場所には――
「――少し、お時間いいですか? ハンス」
鬱々とした思考の最中、ふと後方から届いた凜とした声。誰の声か、なんて確認するまでもない。きっと、昨日と同じご用件だろう――そう思いつつ返事と共に振り返ると、果たしてそこには鮮やかな銀髪を纏う可憐な少女、ユリアさんのお姿が。そして――
「……今から、一緒に来ていただきたいところがありまして」
「…………へっ?」
「……さて、この辺りでいいでしょうか。幸い、今は誰もいないようですし」
「……あの、ユリアさん?」
それから、10分ほど経過して。
種々の草花が彩る中庭で、僕と向かい合いそう口にするユリアさん。さて、どうしてこのような状況にあるのかというと……いや、説明するまでもないか。ユリアさんご自身が言ってたわけだし。
「……それで、ユリアさん。どうして、こちらに?」
ともあれ、そう尋ねてみる。いったい、どうして僕をこちらに――
「――貴方に、特別レッスンを施します」
「…………へっ?」
思いも寄らないユリアさんの返答に、ポカンと声をもらす僕。……えっと、どゆこと? なんで、ユリアさんが僕に……あっ、もしかして――
「……あの、ユリアさん。僕を気遣ってくださっているのなら、それは本当にありがたいことです。ですが、ユリアさんの貴重なお時間を、僕なんかのために費やしていただくわけにはいきません」
そう、躊躇いつつ口にする。僕を気遣ってくださっているのなら、それはもちろん本当にありがたいことだけれど……でも、僕なんかのために彼女の貴重な時間を費やしていただくわけには――
「――こちらこそ、お気遣いありがとうございます、ハンス。ですが、ご心配なく。もとより、私は自分が無駄だと思う時間の使い方は決してしません。なので、これは私にとっても意味のあることだと理解していただけたらと」
「……そう、ですか……」
すると、僕の懸念を払拭するように僕を見つめ答えてくださるユリアさん。僕にレッスンを施すことに意味があるなんて、僕自身はとても思えないけれど……それでも、彼女自身がそう言うのなら僕が否定するのもおかしな話で。なので――
「……ありがとうございます、ユリアさん。不束者ですが、どうかよろしくお願い致します」




