アルベルトくん
「――いつものことだけれど、本当に素晴らしいわ、ユリアさん! もはや、神々しささえ感じるほどの素晴らしい光魔法です!」
「ありがとうございます、フライア先生。今後も精進を続けてまいります」
それから、一ヶ月ほど経て。
二限目の授業にて、うっとりとしたお表情で称賛をなさる鮮やかな金色の髪の女性。光魔法を担当なさっている端麗な女性、フライア先生で。……ほんと、いつもすごいなあユリアさん。光魔法だけに、眩しすぎて直視できないくらいで……うん、何を言ってるんだろうね、僕は。ともあれ、10分ほど経過して――
「……ねえ、アルベルトくん。最近、ずっとこのような調子だけれど、もしかして体調が優れないの? もしくは、なにかお悩みが――」
「あっ、いえ! その、心配ありません」
「……そう、それならいいのだけれど」
そう、心配そうに尋ねるフライア先生。艶やかな黒髪の端整な男子生徒、アルベルトくんへと。彼はどの魔法も上手で、とりわけ光魔法はとても素晴らしいのだけれど、ここ最近はあまり上手くいっていないようで。……本当にどうしたんだろう、アルベルトくん。
「……あの、アルベルトくん」
「……ああ、ハンスか。どうかしたのかい?」
二限目の終了後、一人で廊下を歩く男子生徒を呼び止める。すると、その生徒――アルベルトくんが、少し驚いたお表情でこちらへと振り返る。
さて、呼び止めたはしたものの……うん、なんと申せばいいものか。最近、なにかあった? とか? ……いや、僕が訊いても余計なお世辞……というか、不快に思われちゃうよね。それなら、他には……えっと、どうしよ?
「……なにもないなら、もういいかな?」
「……あっ、その……はい」
ややあって、呆れたように尋ね去っていくアルベルトくん。……うん、そうなるよね。自分で呼び止めておいて、なにも答えずにいたんだから。……うん、申し訳ないです。
「……どうかしましたか? ハンス」
「……へっ?」
「……心做しか、浮かない表情をなさっているので、なにかあったのかなと」
それから、数時間後。
いつものように、自然豊かな中庭にて昼食を共にする僕ら。そしてその最中、心配そうに尋ねてくださるユリアさん。……そんなに、表面に出てたかな? これでも隠していたつもりではあったんだけど、ともあれ……うん、ほんと優しいなあ、ユリアさん。
「……最近、アルベルトくんの様子が違っている気がしまして。こう、元気がないといいますか……最近は僕を嘲笑ったり、嫌味を言ってきたりということもまるでないですし……」
「……いや、後半のは良い変化かと思うのですが」
感謝を抱きつつ理由を話すと、少し呆れたようにお答えになるユリアさん。……うん、確かにそうだよね。もちろん、僕も嘲笑われたり嫌味を言われたりしたいわけじゃないんだけど……ただ、そういうのがなくなった理由が気になって――
「……ですが、私の目からも確かに元気がないように見受けますし、そこは気ががりですね。ティナさんであれば、何かしらご存じかもしれませんが」
「……確かに」
ややあって、思案のお表情でそう口になさるユリアさん。……確かに、ティナさんからご存じかも。尤も、ご存じでも僕に教えてくださるとは思えないけども。
「……それにしても、相変わらずのお人好しですね」
「……へっ?」
「私とて、あまり他人さまを悪く言いたくはないのですが……それでも、ハンスに対するアルベルトくんの接し方は、お世辞にも見ていて心地の好いものとは言えません。それでも、ハンスはこれほどに彼のことを気にかけているのですから」
「……あっ、その……変、でしょうか?」
「……変かどうかは分かりませんが、例え変でもいいと思いますよ。それに、私は好きですよ、ハンスのそういうところ」
「……へっ?」
刹那、胸がドクンと跳ねる。……いや、うん、落ち着こう。好きと言っても、いわゆる《《そういう意味》》では全くなくて……そう、きっと人として好きという意味で。もちろん、それでもすごく嬉しいけれど。……ただ、それはそれとして……うん、これはまたとない機会かも。なので――
「……その、ユリアさん。僕は…………」
「…………僕は?」
「…………その、何でもありません」
思い切って口を開くも、自身で留めてしまう情けない僕。そんな僕を、どこか不服そうな目で見つめるユリアさん。……その、ごめんなさい。だけど……うん、やっぱり言えないよね。




