仄かな微笑で
「それで、アイラさんとはどのようなお話をしていたのですか?」
「……そう、ですね。昨日のことで、改めて感謝を伝えてくださいました。ですが、アイラさんのお陰なのですけどね」
「……そうですか。まあ、大方そんなところだとは思っていましたが」
廊下にて、中庭へ向かいつつ会話を交わす。尤も、感謝の他にも色々とお話ししてはいたけれど……アイラさんの過去だったり抱えていた思いについては、きっと僕の口から話していいことじゃないと思うし。
ところで、そもそもどうしてアイラさんが僕に感謝を――本来なら、きっとそうなると思う。僕が手を繋いでいただけで何もしていなかったのを、ユリアさんもその目で見たはずだから。それでも、ユリアさんに怪訝な様子はなく、どころか分かっていたようで。そして、その理由は――
「……私だけでは、なかったのですね。ハンスが、魔力を与えられる相手は」
そう、ポツリと呟くユリアさん。その声音、表情はどこか悔しそうで……どこか、悲しそうで。
「……私は、全てを見たわけではありません。いえ、全てどころかほとんど見ていません。……それでも、遠くからでも明らかでした。アイラさんの魔法の威力が、平時よりも格段に上がっていたことは。尤も、ご家族の危機のため平時以上の力を発揮できた、という可能性も否定はできませんし、実際にそういう部分もあったものと思います。
……ですが、あの威力の上がり幅はそれだけでは説明し得ないとも思えますし、何より……果たして、平時以上の魔法を放つアイラさんと手を繋いでいる貴方の姿がありました。だとすれば、もはや他の理由を当てはめるなどほぼ不可能でしょう」
「……ユリアさん」
「……いえ、決して責めているわけではないんです。そもそも、称賛こそすれ責める理由など何一つとしてありません。なにせ、お二人は何人もの尊い生命を救ったのですから」
そして、仄かな微笑でお話しになるユリアさん。きっと、そのお言葉に嘘はない。嘘はない、けれども……それでも、どこか――
「……あの、ユリアさん?」
ふと、思考が止まる。と、いうのも――
「……いけませんか? それとも、校内で手を繋いではいけない、などという規則でもあるのでしょうか? 少なくとも、生徒手帳には記載されていなかったように記憶しているのですが」
「……いや、それはそうなのですけども」
戸惑う僕に、たいそう不服そうにお尋ねになるユリアさん。……いや、書いてないけども。というか、書いてあったらびっくりだけども。……いや、もちろん嫌なわけじゃない。ただ、ちょっと……いや、かなりびっくりしただけでして。
その後も、手を繋いだまま歩いていく。もちろん、感じる視線はいつも以上で……うん、恥ずかしいね。それと……手が、ちょっと痛い。




