未来
「それでは、占って進ぜよう。二人とも、心の準備はできておるか?」
「「……はい、お願いします」」
それから、少し経過して。
そう、厳かな口調でお告げになる占い師さん。だけども、再びフードを被っているもののもう見てしまっているので、そんな厳かなご口調も可愛く思えてしまうわけで……まあ、怒られちゃいそうだし言わないけども。
ともあれ、ホロスコープをじっと見つめる可愛い占い師さん。ちなみに、視ていただくのは、ある一時点における僕らの未来の状態についてで。……うん、知りないような、知りたくないような。
「……こ、これは!?」
「……こ、これは?」
「なーんて、まだなんにも見えてないよ。てへっ♪」
「真面目にやってください」
「……ごめんなさい」
先ほどの厳かな口調とは一転、何ともお茶目なことを仰る占い師さん。だけど、ユリアさんの鋭い一言にしょぼんと……あれ、ひょっとしてちょっとピリピリしてます? ……まあ、自分の未来のことだし気になるよね。
ともあれ、再びホロスコープをじっと見つめる占い師さん。そして――
「……っ!!」
刹那、雰囲気が一変する。それからややあって、おもむろにお顔を上げる占い師さん。そして――
「……すまぬ、二人とも。わらわとて、こんなことは言いたくないんじゃが……お主らは、別れた方が良いかもしれぬ」
「「…………へっ?」」
躊躇いがちに告げられた占い師さんのお言葉に、再び声が重なる僕ら。……別れた、方がいい? えっと、それはいったい――
「……どういう、意味でしょうか?」
「……いや、悪意があるわけではない。そして、恐らく誰が悪いわけでもないのじゃろう。じゃが……お主らが今後も一緒にいては、その坊やが気の毒に思えてなあ」
「……僕が、気の毒……?」
心做しか、鋭く冷えたご口調でお尋ねになるユリアさん。そして、躊躇いがちにお答えになる占い師さんのお言葉に唖然とする僕。……いったい、何を仰っているのだろう。例えどんな未来が視えていたとしても、ユリアさんと一緒にいて僕が不幸になんてなるはずないのに。
「……行きますよ、ハンス。お釣りは結構です」
「……へっ? あの、ユリアさん……」
そう言って、少し荒々しく数枚の紙幣を置いていくユリアさん。いつも上品で、誰に対しても礼節を重んじる彼女からは想像し難い光景で、どれほどご気分を害しているかが僕にもひしひしと伝わって。一方、僕は大いに戸惑いつつ、同じく大いに戸惑った様子の占い師さんに頭を下げユリアさんの後を付いていった。
「全く、ロクな占い師じゃなかったですね。いえ、何の根拠もない噂を信じてしまった私が愚かだったのでしょう。申し訳ありません、ハンス。不愉快なことに付き合わせてしまって」
「あっ、いえ謝らないでください!」
その後、再び賑わう商店街を歩いていく。だけど、賑わいとは対照的に僕らの雰囲気は少し……いや、だいぶ重くて。……まあ、そうなっちゃうよね。
ある一時点においての、僕ら二人の未来の状態――それが、占い師さんが視ていたもの。だとすれば、あのようなお言葉を言わざるを得ないなにかが彼女の目に映ったということ。尤も、それがなにかまでは教えてもらえなかったし、次にお会いできたとしてもきっと教えてもらえない。……それに、正直のところ聞くのも怖い。なので、知らなくてもいい。いいのだけども――
「……あの、ユリアさん。僕は、これからもずっと貴女のそばにいたいと思っています」
そう、立ち止まり口にする。……あれ、これってプロポーズみたいになってない? 僕なんかが? お付き合いしてもいないのに? しまった、これじゃ気持ち悪いと思われても当ぜ……いや、気持ち悪いで済めばまだマシで、軽蔑のあまり縁を切られてしまう可能性も――
「……あの、ユリアさん。今のは、決してそういう意味では――へっ」
ふと、弁解の言葉が止まる。というのも、ユリアさんが不意に僕の手を取り握ったからで。そして――
「……ありがとうございます、ハンス。私も、同じ気持ちです。だから……どうか、これからもずっと……」
「……ユリアさん」
そう、絞り出すように告げるユリアさん。そんな彼女の華奢な手を、戸惑いつつもそっと握り返す僕。ユリアさんのそばにいる資格が、こんな僕にあるのかなんて分からない。それでも……どうしても、この手を離しくないと強く思った。




