ユリアさん
「――ねえ、ハンス。少し、お時間いいですか?」
「…………へっ?」
その日の放課後のこと。
ふと、後方から届く凜とした声。誰の声かは確認するまでもないけれど、ともあれ驚きつつ振り返ると――そこには、鮮やかな銀髪を纏う可憐な少女。クラスメイトで、校内でもトップの能力を備える少女生徒、ユリアさんで。……なの、だけども――
「……あの、ユリアさん。実は僕、ハンスなんです」
「……いや、存じていますけど。確か、ちゃんと名前をお呼びしたと記憶しているのですが」
「……あ、はい」
僕の言葉に、何とも言えないご表情をなさるユリアさん。……まあ、そうなるよね。僕自身、何を言ってるのか分からないし。……でも、ほら、あのユリアさんが僕に話しかけてくださるなんてあり得ないから、きっとどなたかとお間違えになっているものかと。そして、お間違えでないのだとしたら、いったい何のご用で――
「――貴方、本当に精進する気はあるのですか?」
「……へっ?」
「これまで、クラスメイトとして貴方を見てきましたけど、ここまで一向に成長の形跡が見られない人は他にいません。もちろん、人には得手不得手があり、成長の速度もさまざまですが……それでも、貴方はあまりにも成長がなさ過ぎます。だとすれば、考えられる可能性は一つかと」
「……そもそも、僕にその気がないと、そのように仰りたいのですね」
「……まあ、そういうことです。なので、忠告がましいことは言いたくないのですが――もし今後も精進のつもりがないのであれば、なるべく早く当校を去るように勧めます。それが、貴方のためだとも思いますので」
そう、真っ直ぐに僕を見つめ告げるユリアさん。……うん、ご尤も。僕としては、決して精進する気がないわけじゃない。だけど、その気がないと思われしまっても当然の僕の現状で。なので、何も言えずに口を結んでいると、
「……それでは、失礼します」
返事が来ないと判断したのだろう、そう口にし世を向け去っていくユリアさん。そんな彼女の背を、やはり何も言えず見送る僕。……うん、そうだよね。やっぱり僕じゃ――
「――っ!! ユリアさん!」
気がつくと、身体が動いていた。卒然、ユリアさんが体勢を崩したからで。そして、前方へと倒れる前にどうにか彼女の手を取って……ふぅ、よかった。何とか間に合って。……ところで、それはそれとして――
「……あの、ユリアさん?」
「……へっ? あっ、いえ……」
そう、控え目に尋ねてみる。というのも……どうしてか、ユリアさんが目を見開きじっと僕を見つめていたからで。……えっと、いったいどうし――
「……ありがとう、ございます。ですが、その……離して、ください」
「……あっ、すみません!」
ややあって、目を逸らしつつ呟くようにそう口にするユリアさん。そんな彼女の華奢な手を、慌ててパッと離す僕。……しまった、そりゃ嫌だよね、僕なんかに触られたら。




