図書館?
そういうわけで、共に情緒豊かで賑やかな商店街を歩いていく僕ら。そして――
「ところで、ユリアさん。どこか、行きたいところはありますか?」
「……そう、ですね。いくつかありますが、書店は見ておきたいなと」
「いいですね、書店。僕も行きたいと思っていました」
「ふふっ、そうですか。でしたら決定ですね」
そんなやり取りの後、歩くこと10分ほど――入ったのは、300年以上もの歴史を持つというレンガ造りの図書館のような書店で。……いや、もはや図書館かな? 本を読むスペースも設けられているみたいだし。
そういうわけで、受け付けにてご確認を。すると、ここにある本は全て館内(もしくは店内?)で読んでいいとのこと。そして購入したいと思ったら、その本を受け付けに持っていけばその新品を購入できるとのこと。つまりは、図書館と書店、両方の機能を兼ね備えている魅惑の空間ということで……うん、めっちゃありがたい。
「それでは、ユリアさん。まずは、どのコーナーに向かいましょうか」
「……そう、ですね。やはり、まずは魔力の高め方に関するコーナーでしょうか。やはり、風魔法の他にも全てを高いレベルで扱えるようになりたいですし、そのためにはそもそもの源となる魔力の増強は必須ですから」
「……ユリアさんは、既にどの魔法も頗る高いレベルにあると思いますが……それでも、そのように謙虚に邁進なさるご姿勢、改めて素敵だと思います」
「……あ、ありがとうございます、ハンス」
その後、ほのぼのと館内を歩いていく僕ら。ふと顔を上げると、天井や四方の壁に壮大な神話や聖書の世界が色彩豊かに描かれていて、一人で来ていたらすっかり別世界に没入していたことと思う。もちろん、それはそれで素敵な体験だと思うけれど……それでも、別の世界よりもユリアさんのいるこの世界に浸っていたいわけでして。
ともあれ、目的のコーナーへと到着。そして、本棚をざっと眺めた後、徐に一冊の分厚い本を引き出すユリアさん。どうやら、水魔法に関する書籍のようで……うん、すっごく難しそう。こういうところ一つ取っても、ユリアさんはすごいと改めて思う。……ところで、水魔法と言えば、
「水魔法と言えば、この前の授業もとても素敵でしたよね、アイラさんの魔法」
そう、授業の光景を思い浮かべつつ口にする。水魔法と言えば、やっぱりアイラさんのイメージで。直近の授業で彼女が披露していた魔法も本当に素敵で、僕も魔法が使えたら是非ともお手本に――
「……おや、どうしてそこで真っ先にアイラさんのお名前が出てくるのでしょう? 私の専門は風魔法ではありますが、それでも水魔法においても彼女以上の魔法を披露していたと記憶しているのですが」
「……へっ?」
すると、満面の笑顔でそう口にするユリアさん。だけど、どうしてか笑っている気がまるでしなくて。……いや、そうなんだけども。水魔法においても、ユリアさんはアイラさん以上の魔法を披露していたのだけども……でも、どうして今そのことを……あっ、ひょっとして根に持ってます? 少し前に、アイラさんから言われたこと。
その後、少々気まずい雰囲気にて空いているテーブルへと移動。そして、テーブルの隅の方へと並んで腰掛けたのだけども――
「おや、ハンスも水魔法の書籍を選んだのですね。アイラさんがお得意の」
隣から、何とも冷ややかな視線でそんなことを言うユリアさん。……うん、困ったね。でも、理由はそこではなく――
「……ユリアさんの、お役に立ちたいから」
「……へっ?」
「……僕自身、どれほど魔力があるのかは正直なところ分かっていません。自身の魔力なのに、何も感じない有りさまですから。……ですが、ユリアさんが更に成長すればするほど、僕も成長しなければユリアさんとの魔力の差は広がる一方であることは分かります。そして、そうなっては僕の些細な魔力など、ユリアさんにとってほとんど役に立たなくなるでしょうから。……まあ、こんなことを言いながら、今読んでいるこの本もほとんど理解できていない有りさまなのですけど」
そう、弱々しく微笑み告げる。そう、僕が与えられる魔力は、当然のこと僕自身の魔力の量に依存する。そして、繰り返しになるけどユリアさんはどの魔法も頗るレベルが高い。それこそ、水魔法においても水魔法のスペシャリストと言えようアイラさんをも凌ぐほどに。
そして、そんなユリアさんの助けになるためには、僕自身の魔力の増強も不可欠。なので、当然のこと日頃から練習は欠かさない。とりわけ、彼女の専門である風魔法は多くの時間をかけて練習をしていて。そして、ユリアさんが今は水魔法の勉強をなさっているので、僕も今は水魔法の勉強をしようと思った次第で。……とは言っても、ユリアさんが読んでるような難しい内容はまだ分からないし、そもそも僕が今読んでいる比較的簡単であろう内容もまだほとんど――
「……ふぇっ?」
卒然、素っ頓狂な声を上げる僕。というのも……椅子一つ分くらいあった距離を、ふとユリアさんがぐっと詰めてきたからで。そして、どうしてか彼女自身の本は閉じてしまいテーブルに……えっと、急にどうし――
「……全く、仕方がないですね、ハンスは。分からないところは私が懇切丁寧に教えてあげますから、しっかり頭に刻み込みましょうね」
「……ですが、それではユリアさん自身の勉強が……」
「構いませんよ。新たに学ぶことと同じくらい、もしくはそれ以上に復習も大切なことですし」
「……そう、ですか……ありがとうございます、ユリアさん」
柔らかな微笑でお話しなさるユリアさんに、感謝を伝えご厚意に甘えることに。ちなみに、先ほどまでの冷ややかな空気はもうすっかりなくなっていて……ふぅ、よかった。




