秘めたる能力
「――本当にありがとうございます、ユリアさま!」
「本当に助かりました!」
「いえ、お二人とも無事で何よりです。ですが、今後はあまり川に近づきすぎないよう、十分に気をつけてくださいね」
「「はい!」」
それから、少し経過して。
川から少し離れた辺りで、深々と頭を下げ感謝を告げる一組の男女生徒。二年F組のクラスメイト、アルベルトくんとティナさんで。……うん、ほんとによかった。
「……改めてですが、本当にすごかったです、ユリアさん。今もまだ、感動で心が震えています」
お二人と別れた後、森の中へと戻るべく歩いていく僕ら。ところで、ユリアさんと一緒にいた僕を二人とも怪訝そうに見ていたけれど、ついさっき助けてもらったことに恐縮していたためか、そこに関しては何も言わずにいてくれた。……まあ、僕が助けたわけじゃないんだけども。そして、きっと近い内――それこそ、明日にでも問い詰められることになるのだろう。……まあ、当然だよね。みんなからすれば、どうして最優秀の生徒たるユリアさんと、無能で落ちこぼれの僕が一緒にいるのかと怪訝に思うのは当然で――
「――申し訳ありません、ハンス」
「…………へっ?」
突然、謝罪を口にするユリアさん。……えっと、どして? ユリアさんが謝ることなんて何もな――
「……彼らを助けることができたのは、紛れもなく貴方のお陰です。なのに、全て私の手柄のようになってしまいました」
「……?」
ユリアさんの説明に、いっそうの困惑を覚える僕。いや、そもそも全て貴女のお手柄ですよね? まあ、彼女自身は手柄とかに興味もなさそうだけれど、ともあれ僕のお陰というのはいったい――
「――貴方は、能力がないわけではありません。……ですが、貴方の能力は私も含め他の人とは違う、極めて特殊な形で効果が現れるようなのです。自身で魔法を発動するのではなく、誰かの手を取ることで自身の魔力をその相手へと与える――恐らく、貴方の能力はそういうものです」
「……僕に、そのような能力が……?」
「ええ。少し前に、倒れそうになった私の手を掴み助けてくださったことがありましたよね? あの時、貴方から魔力を感じたのです。全く魔法が使えなかったはずの貴方から、決して少なくない量の魔力を」
「……………」
思いも寄らないユリアさんのお言葉に、ただただ呆気に取られる僕。……僕に、魔力が? いや、でも僕は昔から無能で……いや、でもユリアさんが嘘を吐くとも思えない。そして、あの時……倒れそうな彼女の手を取ったあの後、たいそう驚いたお表情で僕を見つめていたのは、そういう理由で……そして、だとしたら――
「……では、舞踏会の時に、僕に色んな生徒と踊るように仰っていたのは……」
「……ええ。私だけの判断では覚束ないので、他の生徒の意見も参考にしようと思っていたのです。ですが、どうやら皆さんは何も感じなかったご様子。そもそも、あの時の私の感覚が気のせいだったと結論づけることもできなくはないですが……ですが、あれほどの鮮明な感覚が気のせいとはとても思えない。ならば、誰もが貴方の魔力を感じられるわけではなく、極めて限られた人間のみが感じられるのだという結論の方が私の中ではしっくりきまして。ああ、ちなみに私が貴方の魔力を感じるのは、貴方が私の手を取っている時のみです。これまで真摯に積み上げてきた貴方の魔力が減っている、ということではないようなのでご心配は不要です」
「……そう、なのですね」
僕の言葉に、滔々とお答えになるユリアさん。つまりは、僕がユリアさんの手を取っている時のみ、僕の魔力がユリアさんに移っている、ということなのかな? そして、どうしてかそれはユリアさんに対してだけ生じるみたいで。
「……貴方のしてきたことは、決して無駄などではありません。実際、舞踏会で手を取り踊った時も、そして先ほども、貴方の魔力は以前よりも確実に強くなっていることを感じました。貴方の努力が、目に見える形でなくとも確実に実り続けていたのです。以前、精進のつもりがないなどと甚だ失礼な発言をしたこと、この場を借りてお詫びさせてください。本当に申し訳ありません、ハンス」
「あっ、いえそんな!」
深々と頭を下げるユリアさんに、慌てて両手を横に振る僕。言わずもがな、ユリアさんが謝る必要なんてどこにもない。僕のあのざまでは、他の人からすればやる気がないと思うのは当然だし、それにユリアさんがいなければ僕は今だって自分自身の能力さえ知ることもできなかった。……いや、正直のところ、僕自身の感覚としては未だ分かっていないんだけども……いつか、分かる日が来るのかな?
「――私は将来、人を助けられる人間になりたいと思っています。大好きな魔法で、一人でも多くの人を助けたいと思っています。……ですが、今回の件で改めて力不足を痛感しました。そして、これからも何度もそのように感じることでしょう」
「……ユリアさん」
「……それでも、貴方がいてくれたら、どんなことも乗り越えられると思うのです。これからも共に精進し、二人で力を合わせれば、どんなことでも乗り越えられると思うのです。今回、アルベルトくんとティナさんを私達二人で助けることができたように。だから――」
そこで、言葉を区切るユリアさん。そして、僕へと手を伸ばし――
「――これからも、力を貸してほしいのです」
――そう、花の咲くような笑顔で告げた。




