校外学習
「――いや〜、絶好のトレーニング日和だね」
「そうね、アルベルト。空気もいいし、トレーニングが捗りそうね」
それから、一週間ほど経て。
遥か上方に広がる青空のような、晴れやかな笑顔で大きな声を出すアルベルトくん。そして、そんな彼に明るい笑顔で答えるティナさん。……うん、今日も仲が良くて何よりです。
さて、今いるのはここブリトール王国を代表する国立公園。鮮やかな緑や花々、澄んだ川などが豊かに彩るこの風光明媚な公園に、校外学習の一環として二年生みんなで訪れているわけでして。
さて、本日は各々が自由に魔法の練習をしていいことになっている。なので、普段から仲の良い間柄でグループを形成している生徒もいれば、練習において相性の良さなどを優先してグループを形成している生徒もいて。
そして、僕はというと……そんな皆さんを微笑ましく見渡しつつ、一人で森の方へと歩いていく。そして、ある程度奥の方まで着いた辺りで――
「……すみません。お待たせしました、ユリアさん」
「いえ、お気になさらず。人目もあることですし、慎重になるのは仕方がありません」
開口一番、謝罪の言葉を口にする。すると、柔らかに微笑み答えてくださるユリアさん。この校外学習がもう少し――例えば、一ヶ月前くらい前だったら間違いなく僕一人だったと断言できる。だけど、今はなんとユリアさんと二人で……うん、絶対に信じないだろうな。一ヶ月前の僕に言っても。まあ、それはともあれ――
「……それでは、ユリアさん。不束者ですが、本日も宜しくお願いします」
「はい、もちろんです。今日も頑張りましょうね、ハンス」
いつものように、頭を下げそう伝える。ややあって顔を上げると、いつものように柔らかな微笑のユリアさんの姿があって。
「……その、申し訳ありません、ユリアさん」
「……うーん、どうしてでしょうね。まあ、いつものことではありますが」
それから、30分ほど経て。
いつものごとく謝意を口にする僕と、いつものごとく困ったご様子のユリアさん。彼女の言うように、いつものごとく全く魔法が使えない僕なわけで……うん、本当に申し訳ないです。
「……まあ、焦らず頑張りましょう。まだ時間はあることですし」
ややあって、微笑み告げるユリアさん。一方、僕はますます申し訳なさが募っていて。……このままで、いいのかな? ユリアさんが僕にレッスンを施してくれていることは、本当に嬉しいしありがたい。だけど……恩恵を受けている当の僕がこのざまでは、これからもユリアさんの貴重なお時間やご厚意が全く以て無駄になってしまうわけで。……うん、やっぱり――
「……あの、ユリアさん。もう、レッスンは――っ!!」
刹那、ハッと息を呑む。そして、それはユリアさんも同じようで。というのも……突如、遠くから叫び声が聞こえたからで。恐らくは、男女一組の――それも、どちらもとても覚えのある声で。
とにかく、声の方向へと急いで駆けつける僕ら。そして、崖へと着いた僕らの視界に映ったのは――崖の下に広がる川の急激な流れの中、大きな岩にしがみつきどうにか持ち堪えている一組の男女生徒、アルベルトくんとティナさんの姿で。
「……どう、しましょう。やはり、先生を――」
「……いえ、今から呼びにいっては間に合いません。どうにか、私達だけで彼らを助けなければ」
動転しつつ尋ねる僕に、冷静な様子でお答えになるユリアさん。……いや、少し違う。努めて冷静であろうとしている、と言った方が適切なのかも。彼女の口調や声音からも、緊張や焦りといった感情が確かに感じ取れるから。
どうにか、僕も思考を巡らせる。もちろん、助ける以外の選択肢なんてない。だけど、方法がまるで思いつかない。そして、思いついたところで僕にできるのかどうか――
「……貴方と私の力では、この激流の中から二人を引き上げるのは困難……いえ、無理でしょう。なので、私の風魔法で一時的にでも水を引き上げ、その間に川辺に上がっていただくしかないかと。……ですが、彼らの周辺のみに絞っても、これほどの圧の水を引き上げられるほどの能力は今の私には…………あっ」
「……ユリアさん?」
「……ひょっとして……いや、でもまさか……いや、でもその可能性も……それに、今は……」
ふと、ユリアさんの言葉が止まる。そして、つぶやきつつじっと考え込んでるご様子で……もしかして、なにか打開策が――
「…………へっ?」
ふと、僕の口から間抜けな声が。卒然、ユリアさんがさっと僕の手を取ったからで――
「……そのまま、繋いでいてください。そして、しっかりと掴まっていてください。振り落とされないよう、私の身体にしっかりと」
「…………へっ?」
「はやく! 時間がないんです!」
「あっ、はい!」
ただただ困惑する僕を、ぐっと引き寄せ言葉を放っユリアさん。一方、未だ困惑したままの僕だけど……それでも、彼女の言うように一刻を争う状況なのは流石に分かっている。なので、戸惑いつつも仰せの通り彼女の身体にしっかりと……うん、恥ずかしい。いや、恥ずかしがってる場合じゃないんだけども。
僕がしっかり掴まったのを確認した後、疾風のごとく猛スピードで舞い上がるユリアさん。そして、二人が真下に見える位置に来た辺りで――
「――ウェントゥス!」
呪文と共に、パッと川へと手を翳す。すると、急激に流れる川の水が彼女の放った猛風により渦を巻きながら舞い上がる。そして、その間にアルベルトくんとティナさんがどうにか川岸へと上がっていく。それを見届けたユリアさんがゆっくりと手を下ろすと、水は再び川へと戻り急激に流れていって……ふぅ、よかった。二人とも助かって、本当によかった。




