【17 おひる】
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・【17 おひる】
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ある日、コンビニのバイトが時間通りに終わり、店から出てくると、なんと河合愛が立っていて、こんな場所を誰かとの待ち合わせ場所にすんなよ、と思った。
ちょっと躊躇して、河合愛がどこか行かないか待ったけども、ずっといるので仕方なく、そのまま素通りしようとすると、
「おい、ダメチンコ、無視がすんなよ」
と言ってきて、なんと俺のことを待ち伏せしていたらしい。
俺は周囲を確認し、黒塗りのワゴンのようなモノが無いか見た。河合愛の仲間が中で待機してそうな怪しい自動車が無いかどうか。
でも無さそうで、一応まあ話し掛けられた手前、反応してあげると、河合愛が、
「こっち来いや、ダメチンコ」
と言ってきて、コイツ、外でダメチンコって言うの恥ずかしくないのか? と思いながら、
「何だよ」
と言うと、すぐさま河合愛が、
「タメ語使うな、お客様は神様だぞ」
「ここはコンビニ内じゃないからな」
「うるせぇ、黙れ」
黙ったついでにもう帰ろうとすると、
「待てや、ダメチンコ」
と、ちょっとだけ大きな声で言ってきて、あまりにも恥ずかしいので、俺はもう河合愛の言う通りにすることにした。
「何か用ですか」
と棒読みのような声でそう質問してみると、河合愛は少し満足げに、
「オマエ、コンビニでバイトって風間と別れたのか」
何でそんなこと気にしているのか分からないけども、
「別に。別れていないです。というか家知っているわけだから、また尾行すればいいじゃないですか」
「そんな暇なことしねぇわ」
たっぷりした上で暇過ぎて犯罪行為してきたくせに、よく言うよ。
というかコイツ、今からでも警察に突き出されるかもとか思わないのか? 来水は当時から監視カメラを玄関に付けていたし、さすがに無防備過ぎでは?
河合愛は続ける。
「別れてもないのに働いているってバカか?」
「俺が好きで働いているだけです」
「趣味で働くなんて特権階級みたいだな」
反論しようと思ったけども、確かに何かそんな感じもする。言われると確かにと思ってしまう部分もあって。
働かなくてもいいのに趣味で働いているって、逆にダサいかもしれない。
いやいやこんな獣の言葉を真に受ける必要は無い。
「俺は社会をちゃんと学ばないといけないんです」
「高校生の頃にやっとけや」
「オマエが俺の高校時代を壊したんでしょう。バイトする気力なんてあるはずないでしょうに」
「だから弱々しいダメチンコなんだよ」
何でこんなヤツに説教されないといけないんだ。
でも無視して帰ろうとすると、絶対めっちゃデカい声で『ダメチンコ!』と言ってくるだろうから、もうかまってあげるしかない。
河合愛は勝ち誇った顔で、
「やっぱり別れたんだろ? な、正直に言えよ、ダメチンコが風間のような巨乳と釣り合うはずがねぇもんな」
「来水の良いところ、巨乳じゃないですけどね。そんな解像度で来水のこと見ないでほしいです」
「別れたくせに女々しいなぁ、巨乳だから寄りを戻したいんだろ? じゃあ風俗嬢時代のことで強請ればいいじゃぁん」
ダメだ、コイツ。発想が終わっている。
自分が思ったレール通りにしか会話できないし、犯罪が選択肢に入り込み過ぎている。
そもそも強請ってどうにかなる相手じゃないって、あの時に理解できなかったか? 今の時代、作家は炎上上等って言ってたじゃん。
河合愛は腕を組みながら、何か勝手にうんうん頷いて、
「まあな、コンビニのバイトなんて底辺の仕事から始めるのはダメチンコらしくていいねぇ」
と言ったその時だった。
俺の後ろから女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「コンビニのバイトが底辺の仕事なはずねぇだろ! というか仕事に底辺も頂点もねぇよ!」
後ろを振り返ると、なんと店長がいたのだ。
店長はまくし立てる。
「何か溜口くんがまだ近くにいるなと思って窓から見てたら! 業務妨害じゃねぇか! あ! オマエのあだ名な! 業務妨害が溜口くんに絡んで何言ってんだよ! バァカ!」
河合愛は突然の店長に目を皿にして、呆然と立っている。
店長は女性にしては背が高いので、怒ると威圧感があるのだ。
俺は河合愛のことよりも店長の怒りを収めないと、と思って、店長のほうを向くと、また後方から女性の声がした。
「幸次! 帰ってくるの遅いから見に来たら、河合がいるじゃん!」
来水だった。
というか帰ってくるの遅いって、いつもより五分くらいしかまだ超過していないでしょ。
河合愛は先に来水のほうを見て、
「オマエら! 別れていないのか!」
来水が矢継ぎ早に、
「別れているはずないじゃん! でもどういうこと! 河合が何でいんのっ!」
河合愛はあわあわしながら、
「いやダメチンコがバイトしてるから、別れたと思って笑ってやろうと……」
間髪入れずに叫んだのは店長のほうだった。
「ダメチンコって溜口くんのことぉっ? 何言ってんのぉっ? キモぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ただ今日に限って言えば、店長が言った『ダメチンコ』が今日一の声のデカさだったけども。
河合愛は店長のパワーに押されたのか、逃げるように走ってどこかへ行った。
店長は深く深呼吸してから、
「業務妨害死ね」
としっかりアウトなことを言ってくれて、俺は笑ってしまった。
店長はやけに優しく微笑みだして、
「え、溜口くんの彼女? さすがにルッキズム、ゴメン。可愛過ぎ」
来水はペコペコと恥ずかしそうに頭を下げた。
俺はうんと頷いてから、
「そうです。彼女で俺ほとんどヒモなんです」
と何か聞かれてもないことをつい喋ってしまうと、店長が、
「めっちゃいいじゃん。もしかして業務妨害って溜口くんのこと好きだったんじゃね?」
確かにあそこまで執着されているということは好きなのかもしれない。
すると来水が、
「まあアタシのほうが好きですけども。幸次、早く帰ってアタシの仕事をアシスタントして! 幸次がまとめた資料で分からないところがあるから早く教えて!」
きっと来水は、意味無く余計なことを言った俺を立てるため、そんなことを言ってくれているんだと思う。
本当に来水は機転が利いて優しい人間だ。決して巨乳が一番のポイントではない。
「店長、有難うございました。では失礼します」
と一礼すると、店長は嬉しそうに、
「人生幸せにいこうぜ!」
とサムアップしてくれた。
二歳くらい年下だけども、俺より仕事歴が長いし、実際仕事もできるから、あんな感じでも全然普通に嬉しい。
俺は家に帰って来るなり、来水から、
「で、恋してないよね?」
と言われて、
「河合愛に恋するはずないじゃん」
と言うと、来水は語気を強めて、
「あの店長さんのことだよ!」
「それも大丈夫。恋もしていない。尊敬だけ」
「尊敬から始まる恋しない?」
「しないって。俺そこまで子供じゃないよ」
何だか嫉妬してくれていることが嬉しかった。
ただその後、河合愛のことを言わなかったことについて、みっちり叱られた。
正直三日くらい不機嫌だったけども、そこまで思ってくれていることに対してまた心が躍った。




