【14 重なる】
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・【14 重なる】
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ついに裸になってしまった来水、と、おまけの俺。
正直来水のほうは直視できない。しちゃいけないと言ったほうがいいだろう。
まだ結婚もしていない男女が一つの部屋で全裸になっていいはずがないわけだし。
河合愛はニヤニヤと電子タバコを吸いながら、
「この場でセックスしろ」
と言うと、電子タバコを一旦消してから、スマホをこちらに向けて構えた。
来水はもう諦めたような声で、
「アタシの人生こんなもんなんだよ」
と言ったんだけども、来水の人生がこんなもんのはずがないので、俺は激昂した。
「獣じゃないんだから、こんなセックスしねぇよ!」
いつの間にか声は出せていたが、自分の台詞の文字が鳴る度に肋骨が軋んで、激痛が走る。
河合愛は暇そうにあくびをした。
するとタトゥー男が俺の足を引きずるように引っ張り、来水のほうへカーリングのように滑り込ませた。
来水と目が合うと、来水は恥ずかしそうに顔を背ける。
その面持ちが、恥じらいが、いや、勃起を我慢する、俺は勃起を我慢するんだ。
こんな状況で勃起する人間は本物の獣だ。絶対に勃起はしない。
勃起しないようなことを考える。
俺は殺される、今日殺されるんだ、何か事実みたいな呪文になってしまい、なお萎えた気持ちになってきた。
いいぞ、俺は殺されるんだから勃起なんてしない、死ぬ時は自然体でいたい。
一ヵ所が充血した状態で死ぬなんてカッコ悪いじゃないか、そのまま死後硬直なんてしたら、警察官に笑われてしまう。
そんなことを考えていると、タトゥー男が口々に、
「もしかするとインポ?」
「こんな良いオンナで勃起しないなんてありえねぇだろ」
「だからインポなんじゃね?」
「いや若いんだからさすがにまだインポじゃないだろ」
「産まれた時から勃起しないみたいな」
「そんなん、まあ聞いたことはあるけどさ」
と会話し始めた。
すると河合愛が口を挟んできた。
「逆にコイツらセックスし慣れていて、見慣れてるんじゃね?」
河合愛は唸り声を上げてから、
「仕方ねぇなぁ」
と言うと、なんと脱ぎ始めたのだ。
河合愛は何だか自慢げに、
「見慣れてないあーしの体見たら、さすがに勃起するだろ。こんなキモい本いっぱい読んでるヤツが勃起しないってことないだろうしさぁ」
シャツやズボンを脱ぎ、下着姿になった時に知った。
河合愛はへそから膝にかけて、めっちゃ大きなバラのタトゥーがあるって。
俺はタトゥーが入っている女性が本当に苦手なので、さっき以上に萎えた。
なんというか、通常時よりもチンコが小さくなったような感覚。
チンコがまるで溜息をついたように、萎み切ってしまった。
ここまで小さくなるのは逆に恥ずかしい。死後の俺のチンコを見た警察官は爆笑するだろう。
皮も大きく被り、シワがすごい。大年寄り(おおとしより)チンコだ。世界最小チンコを記録した瞬間かもしれない。
まあそれは勿論、元々そこまで大きくないというところがポイントなわけだが、だからって、といった感じだ。
全世界の溜息が聞ける世界最小チンコ、溜息のASMRには是非俺のチンコの画像を見てほしいと思うほどに。
俺のチンコを改めて確認した河合愛はすぐに服を着直してから、何事も無かったように、電子タバコを一吸いしてから、
「いいや、ダメチンコのことボコボコにせろよ」
とタトゥー男二人に指示したところで来水が声を荒らげた。
「もうやめろよ! セックスぐらいしてやるからさ!」
そう言うと、ベタッと床に横たわっている俺に来水が覆い被さってきて、さすがにクラクラというか、脳が思考停止してしまい、勃起してきた。
タトゥー男二人は「勃起するじゃん」と、最悪のユニゾンをした。
来水の透き通った肌、ボディソープだけではない、地の甘い香り、薄紅色の唇には心が吸い寄せられてしまう。
まだ脚と脚しか触れていないのに、それだけで同じ人間とは思えない柔らかさを感じる。
徐々に俺の顔に向かって、恥じらいのある顔を近付けてくる来水の、胸が唇より先に俺の身体に触れ、人肌というものを産まれて始めた感じたかもしれない。身体と身体が密着していく。来水はまるで綿飴のように甘く、まとわりつくような、そしてそのまま溶けてしまいそうな。
俺は何もできず、否、何かしようとせず、床に倒れた状態で唇と唇を当てられて、その時に「違う!」と心の中から拒否が生まれて、なんとか上体を起こしつつ両手で来水の肩を押しながら、
「こんなん違うだろ! もっと自分を大切にしてくれよ! 俺なんて死んでいいんだよ! 来水はまともな人間にもうなったんだよ! だからこんな異常なことはしなくていいんだよ!」
と叫んだ。声のデカさでビビッて引いてくれるように、怒鳴り声を上げたのに、来水は全然俺から離れる様子も無く、
「バカ……」
と言いながら俺の上体を抱き締めた。
来水の胸に顔をうずめるように抱かれて、呼吸しづらい。胸ってこんなに形が変わるんだ。俺の顔の形にぴったりくっついている。肌が吸い付いてくるというか、水風船のようにやわやわしている。
破裂しそうだ。
水風船のほうじゃない、俺の股間のほうだ。
こんな時にこんな気持ちになってしまうなんて、結局俺はケダモノらしい。全然男に、人間の男になれていない。なんてダサいんだ。
来水は俺から一旦離れると、何故か瞳が潤んでいて、今にも泣き出しそうな顔だった。
すると河合愛が明らかにイライラした声で、
「バカはテメェらだよ、この状況分かってんのかよ、恋愛ごっこが見てぇわけねぇじゃん」
持っていた電子タバコを俺の顔に投げつけてから、
「勃起することも分かった! これだとまだセックスもしていねぇんだろ! でも愛し合っていることは十分に分かった! じゃあすることはこれしかねぇだろ! おい、オマエら! 風間のことを犯せ!」
そんなん許されないと思って、俺はなんとか立ち上がって、来水の前で手を広げて、通せんぼした。
なのに、すぐに来水が俺の前に出て、
「いいんだって、だからアタシは風俗嬢だったんだから慣れてるって」
と言うんだが、俺は即座に、
「それは仕事だろ! これは全然違うだろ!」
と怒鳴ったんだけども、来水も負けじと、というか矢継ぎ早に、
「一緒! 好きじゃないヤツとセックスするんだから一緒!」
「いやでも!」
「幸次は純粋過ぎ! これからアタシが3Pするところ見てシコるくらいの胆力見せろよ!」
「そんなんするわけねぇじゃん! 俺バカじゃないんだよ!」
「バカは幸次でしょ! 本当に殺されるよ! アタシは全然大丈夫だから! また性病検査してきてやるからさ!」
「そういうことじゃねぇって!」
その時だった。
タトゥー男の一人が、
「何か、勃たないかも」
と呟くと、もう片方も、
「おれも、さすがにこれは何か萎える……別におれら、反社じゃねぇし……」
「なぁ、こんなんできるほど、それこそケダモノじゃないし」
「というか、さすがに殺さないし」
「それな」
すると河合愛がリアルに地団駄を踏んでから、
「やれよ! 犯せよ! 男だろ! 風間の身体! エロいだろ!」
タトゥー男は嫌そうな顔で、
「さすがにチンコが勃起しないから」
もう片方もまた、
「こんな鬼気迫る表情のオンナなんて犯せねぇよ。AVってさ、演技だから抱けるんだよ。始まる前にきちんと挨拶しているから抱けるんだよ」
「女優とは顔見知りだしな」
河合愛に近いタトゥー男が、
「男性だって萎えたら勃起しないんだよ」
と言うと、河合愛が、
「アンタらAV男優もやってるんでしょ! 別に勃起するでしょ!」
窓側のタトゥー男が、
「いや、これで勃起するのホント、レジェンド・クラスでしょ。俺らのような一兵卒はちゃんと挨拶してからじゃないと勃起しねぇよ」
河合愛はやんややんやと続ける。
「何なのっ? そうやって逃げる気ぃっ? だからエリート商社マンの道を鬱病で退社することになるんだよ! で! AV男優始めて! やっと天職だと思ったんでしょ! やれよ! 勃起して犯せよ! エロい女の裸だぞ!」
近くにいたタトゥー男は、
「それは向こうだけだよ、おれは大卒からAV男優」
河合愛は間髪入れず、
「知らね! 早く犯せ!」
窓際のタトゥー男は不機嫌そうに歩き出して、
「もう帰ろうぜ、変なカムアウトされちゃったし」
と言って、俺と来水の横を普通に素通りしていった。
河合愛はそのタトゥー男を押し戻すように、肩を押したんだけども、そのタトゥー男が小声で「うざっ」と言った。河合愛がタトゥー男の腰を蹴ると、そのタトゥー男が怒号を上げた。
「もういいわ! セフレのやる範疇越えてるって!」
と言いながら、河合愛を本棚の無い、壁のほうへ払うように強く押すと、河合愛が壁まで吹き飛ばされた。
俺はもう何から何まで悲しくなってしまい、
「もう全部やめてくれよ! 暴力とか本当にやめてくれ! 怖いよ!」
と叫ぶと、どうやらその俺の”怖いよ”でウケが発生したみたいで、タトゥー男二人とも吹き出して笑い、
「こんな状況でもおもろっ」
と、どっちかが言うと、そのまま部屋から出て行ったのち、玄関の開け閉めする音が聞こえた。
この場には河合愛だけが残り、来水が下着は付けずに服だけ着始めて、着終えたらまず俺のパンツを持ってきて、介護のように穿かせてくれた。
しゃがんで穿かせてくれた来水は立ち上がり、河合愛へ向かって、
「もうそういうのやめなよ、高校生じゃないんだよ」
と言うと、河合愛はめっちゃデカい声で、
「他の生き方、分かんないよ!」
と半べそみたいな感じで言った。
何ちょっと被害者みたいな感じで。半べそになる資格は無いし、半べそになるタイミングでも無いだろ、多分。
来水は溜息をついてから、
「松岡みたいに結婚してもいいし」
と言うと、河合愛は舌打ちしてから、
「こんなタトゥーある女、あんまウケないわ!」
と言い、その感覚はあるんだ、と妙に冷静に思ってしまった。
来水は語気を強めて、
「アタシの人生は幸次の分しかないから、河合は自分で考えてよ」
と言うと、河合愛はゆっくり立ち上がり、
「二度と来ねぇわ! キモいカップルだな!」
と捨て台詞を吐いていなくなった。
その後、結局週刊誌やネットにも売られず、普通の生活に戻ったのであった。




