【10 行きつく先】
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・【10 行きつく先】
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シンプルに接骨院でした。
右手の拳の骨を見てもらうと、ただ痛くなっているだけで数日すれば治るし、別に右手を使ってもいいという話だった。
家に戻ると、来水の誘いで、一緒にライトノベル原作の人気アニメをDMM.TVで見ることになった。勿論来水のアカウントだ。
一気見して、二人で感想を言いながら来水は料理を作り、俺も居間に座って話をしている。
一緒に夕ご飯を食べている時に、来水が昔のライトノベル、というか多分俺が教室で読んでいたライトノベルの話をし始めて、めっちゃ盛り上がった。
先に来水がお風呂に入る流れになり、来水はお風呂へ、俺は自分の部屋に戻り、またライトノベルの続きを楽しんだ。
よくよく右手を動かすと、確かにもうあんまり痛みはなくて、本当に折れてはいなかったらしい。
めくる時は普通に使って、来水から「お風呂、いいよー」と言われたので、俺もそのまま入った。
来水が入ったあとのお風呂とか、ちょっと考えてしまったけども、それはちょっとキモいかもと自制して、余計なことはせず、ちゃんと身体を洗って湯船に浸かって、シコることはしなかった。
お風呂からあがると、来水が食器を拭いていて、そういうことって俺もやればいいのかなとちょっと思いつつも、ありがとうすら言えなかった。
何か、合ってるのかどうか、いちいち言うのってキモいんじゃないかとか思ってしまう。
急に”キモい”という発想が脳内に浮かび始めた。そんなこと考えたことなかったのに。
もしかしたら俺は嫌われたくないのかもしれない。ならば感謝は言うべきなのか。分からない。
俺は自分の部屋に戻り、スマホでAI検索し、感謝をいちいち言うべきかどうか聞いてみた。
すると言ったほうがいいらしい。俺には無理だと思った。
夜はまだ長いので、またライトノベルを読み始めた。
自分の中で言葉がぐんぐん整理されていく。
ちゃんとした言葉が使えていくような感覚がする。
やっぱり文字は良いって、文字だけに救われていた高校時代を思い出し、一瞬鬱になった。
でもやっぱり今は文字と生きていきたいと思って、自分のペースで読んでいく。
多分割と俺は文章を読む速度が早いほうだと思う。
何度も本棚の部屋と自分の部屋を行き来していると、来水がドア越しに話し掛けてきた。
「何か早いねっ、ちゃんと読んでる?」
「読んでるよ」
と答えた。合っているかどうかは分からない。
もっと何か言ったほうがいいのだろうか。でも来水は作業しているはずだから、あんま邪魔しちゃいけないし。
この日は結局、夜にシコる気は出てこなくて、そのまま寝ることにした。
日々。
来水は執筆し、俺は居間の掃除もさせてもらうことにした。
させてもらうことにした、という日本語が合っているかどうかは不明だ。
でもこのことは自ら申し出た。何もせずに住まわせてもらうことは良くないからだ。
来水もすぐに承諾してくれて、家全体の掃除は俺の仕事になった。このくらいは別に俺でもできる。
ある日、来水も喜ぶかもと思って、来水が来る前に味噌汁を作った。
昼ご飯を作りにやって来た来水へ、
「味噌汁を作ったから」
と俺が言うと、
「シコった手で直で?」
と言われて、
「そんなわけないでしょ、汚いなぁ」
と軽くツッコんでから、一緒に昼ご飯を食べた。
またすぐに来水は執筆に移るという話だ。
放課後逆転ストロボライトの続編は勿論、今、一般文芸の、エンターテイメント小説の依頼も来て、それも同時進行で書いているらしい。
なんて仕事熱心なんだ。俺も何かしたくて、
「今日から食器洗ったりするのも俺がするから」
と言うと、来水が甘ったるい声で、
「甘えちゃっていいかなぁ~?」
と言ってきて、可愛過ぎたので、
「べべべ別に、普通だしっ」
と、ついどもってしまうと来水が、
「慣れてよ」
と笑ったんだけども、こんな可愛い人間と普通に会話できたことがないので、慣れるはずがない。
また自分の部屋に戻って、ライトノベルを読んでいる。
きっと来水はあの本棚にある本を全部読んでいるんだと思う。
だから俺も読んでいたほうが絶対良い。感想とか言い合えるかもだし。
俺だってライトノベルの話ができる友達がほしかった。
だからこれはきっと別の世界線の高校時代なんだ。
いや来水は一生懸命仕事をして、俺は一切何もしていない、現実の二十六歳時代だけども。
俺、ライトノベル書けるかな、と、ふと思う。
一番荒れていた頃よりはちゃんと文章が浮かんでいるはずだとは思いたい。いや実際のことは分からない。あの頃もちゃんとしていたかもしれないし。
ベッドでずっと座ってライトノベルを読んでいる。あまり寝転んで読むことは無い。何かライトノベルに失礼だから。
本当はどんな格好でも読んでくれればそれでいいって作者は思うかもだけども、これは俺が買ったわけじゃない、つまり売り上げには貢献していないので、読む姿勢だけは真面目でいたい。
ベッドは俺がよく座るところにちょっとしたへこみ癖ができている。時計は勿論、カレンダーなんて全然見ない生活をしていた俺だが、来水の家に改めて来てからは一日一日を噛みしめている。
こんな日々は当たり前じゃない、天国過ぎると一日、いや一時間、いいや五分刻みには本当に感謝しているかもしれない、なんて、読むことに熱中していたらいつの間にか二時間くらい経っているんだけどもさ。
二重あるカーテンは厚いほうだけ開けておき、薄いカーテンからは日差しがこぼれている。日当たりの良い部屋で、日中は明るさがちょうどいい。
俺があの家に一人でいた頃は厚いカーテン一枚しかなくて、それを閉め切って、タブレットは常に充電状態で、明るさマックスでFANZA動画を見ていた。
今はどうだろうか、タブレットは三日に一回の充電でいいし、そもそもあんまバカみたいにシコっていない、と思った時に気付いた。
昨日からオナニーをしていないって。オナニーを覚えてから毎日欠かさずシコってきた俺だったけども、もしや昨日はあれから初めて一度もシコらず過ごしている……? そんなバカな。
きっと俺は毎日シコることにより、嫌な高校時代を精子で流していたんだと思う。
でもそんな、オナニー療法とも言える行為がついに必要無くなったのかもしれない。
来水が言っていたこと。
でも俺だって、やっと人間に戻れたような気がした。
理性のある、人といることが幸せと感じられるような、ちゃんとした人間に。
いやまだまだ。
俺は仕事をしていない。仕事をしないと真っ当な人間とは言えないと思う。そもそもまだ童貞だし。全然男になっていない。
俺はちゃんとした男にならないといけないと思う。バリバリ働いて、バリバリセックスするような、本当の男に。
だからそうだな、まずできることとして。
来水が執筆作業していることは分かっている。
でも俺は、と、止められず、来水の部屋をノックして訪れた。




