呼ばれていた⋯⋯
「おはよう〜」
お菊ちゃんの明るい声が聞こえる、いつもと変わらない教室。
私はなんだかぼーっとしながら
「おはよう!」
と返しつつ、自分の席についた。
制服のポケットの中には、しっかりとあの「金色の鍵」が入っている。指先で触れると、ひんやりと冷たい金属の感触が伝わってきた⋯⋯。
⋯⋯やっぱり、昨夜のあれはただの夢じゃない。
でも、誰にも話せない⋯⋯
まだ、話さない方がいい⋯⋯
黒板に向かう先生の声が、どこか遠くのBGMみたいに聞こえる。
ポケットの中の鍵を握りしめながら、机に肘をついて外を眺めていると、急に強い眠気が襲ってきた。
まぶたが、重い⋯⋯
⋯⋯誰かが⋯⋯呼ぶ声がする⋯⋯
目を開けるとそこは⋯⋯
「また!」
ここは⋯⋯
「また来てくれたの?」
目の前に堂本さん⋯⋯
ここは、昨日のあの書斎だ。
窓から差し込む太陽の光⋯⋯
彼は優しく微笑みながら私を見つめている。
「ここは⋯⋯夢なの? それとも⋯⋯」
私が恐る恐る尋ねると、彼はふっと切なげに目元を緩めた。
「どっちでもいいじゃないか。君とこうして話せるなら」
そう言って、彼はデスクのフチに少しだけ体重を預けた。
その立ち姿が、どこか小さく、今にも消えてしまいそうに儚く見えて⋯⋯私は思わず胸がキュッと締め付けられた。
「どうして⋯⋯私はここに?」
あたりを見回す。
堂本さん以外は誰もいない。
「誰もいないよ?いまは僕たち2人だけだ。よかったらこちらへどうぞ?」
ソファへ案内される。
私はそこに腰掛ける。
「んーミルクティーなんか好きそうだね?召し上がれ」
堂本さんがそう言ってティーセットから紅茶を入れる。
「あの!どうして⋯⋯私を呼ぶんですか?」
私は誰かに呼ばれた。
「⋯⋯ふふっ、勘がいいね」
堂本さんは紅茶のカップを置くと、楽しそうに目を細めた。
「呼んだというより、僕の想いが君を引き寄せてしまった⋯⋯と言ったほうが正しいかな」
「え?想い⋯⋯?」
「君のその力だよ。僕の夢にまで勝手に入り込んでくるなんて、なんていけない子なんだろうね?」
堂本さんはクスクスと笑いながら、少しだけ身を乗り出して私を覗き込んでくる。
その距離の近さに、私は思わずドキンと胸が高鳴ってしまった——。
「ずっと会いたかったよ?」
心に響く声⋯⋯
いけない!これは!彼の「カリスマ」の力?!
私は頭軽く振ると立ち上がる。
「やめてください!いったい何が目的ですか?!」
堂本さんは、私をみておかしそうに笑う。
「何度も言ってるでしょ?『君の力が欲しい』⋯⋯いや、君が欲しい。君を一目見て、君が欲しいと思った」
⋯⋯
目を開いて堂本さんを見る。
「そ、そんな言葉に惑わされません!私には、あなたの力はききませんから!!!」
大きな声で言う私を見て、堂本さんは、クスっと笑うと
「うん。知ってるよ?分かっている。君の力は最上位だからね?」
堂本さんは私の頭を優しく撫でると
「ごめんね?あまり時間もないんだ⋯⋯」
え?
一瞬、淋しげな表情を見せる。
「堂本さん?」
私の問いかけに、いつもの笑顔に戻る。
「ダイやケンゴのしたことは謝罪します。ごめんね?みんな⋯⋯この世の中に不満を持っているんだよ。でも、やり方もあるのもわかってるよ?でもさ⋯⋯人には限られた時間があるだろ?不老不死とはいかないじゃないか。その限られた時間の中で、できる限りのことをしないといけないんだ」
堂本さんはそう言って私をじっと見つめる。
「でも⋯⋯支配は違うと思う⋯⋯」
そう呟くと
「うん⋯⋯そうだね?でも、仕方がないんだ。やっぱり手っ取り早い方法をとっちゃうんだよね。」
あ⋯⋯また、その淋しげな顔⋯⋯
「どうして⋯⋯そんな顔するの?」
手を伸ばして、堂本さんの頬に触れる。
ひんやりとした手触り⋯⋯
堂本さんは私の手を取って、自分の手で優しく包む。
「また話そう?また来てね?」
え?
そう思った瞬間⋯⋯
目の前が暗くなって⋯⋯
「おーい!小泉〜寝るな〜!」
は!
ここは教室!!
私は学校の自分の席にいた。
は!寝てた?!私!
「ちょっとーまなちゃん〜気持ちよさそうに寝てたよ〜?」
斜め前のお菊ちゃんがおかしそうにそう言った。




